異世界ファンタジーや古い時代が世界観の中で「本」の表現は気を使った方が良い理由
「本好きの下剋上」という作品では、量産本がない世界で量産本を作るという話が展開されます。
元印刷工程のデジタル化に携わっていた身としては、馴染のグーテンベルグや活版などの言葉が出てきて嬉しい作品です。
しかし作中では、「木質(植物)紙」を作るところから始めて、3期では活版印刷まで話が進むのですが、「製本工程」についてはあまり詳しく語られていません。
原作でも世界観の中では製本について軽く触れられている程度ですが、17〜18世紀くらいの欧州製本と中世の写本を合わせた設定になっているようです。(グーテンベルグが印刷機を発明したのは15世紀)
対して日本では植物紙が早くから普及していたのと、近年の紙の扱いは「あって当たり前」となっているからか、異世界ファンタジーでは本の扱いが軽いことが気になります。
量産本の製本については、ガラス技術について書いた記事と同じく、近代化技術が必要です。
そうでなければ本好きの下剋上の中で語られているよう、手作業による製本になります。つまりコストが高い。洋の東西を問わない事象です。
製本工程を知る
印刷工程も大変ではあるのですが、製本工程は現在でも人の手をかなりかけています。
規格サイズの本の場合、専用設計の丁合機や糊付け機、表紙・裏貼り機など多くの工程が自動化されていますが、規格外サイズの本では現在でも手作業で丁合作業を行うこともあります。
また本のパーツを見てもらえば、工業製品であることが意識できます。
閉じ方にも種類があり、箔押しなど化粧についても製本工程になります。
そうしたことの詳細は「紙ソムリエ」のサイトが役に立ちます。
中世の製本〜グーテンベルグ以降の製本
東京製本倶楽部のページに詳しくまとまっているので、一読をオススメ。
記事を読むと、近年の製本工程と大きく変わっておらず、丁合や綴じに関しては完全に手作業であることがわかります。
民間で入手可能な量産本に至っては、19世紀の産業革命まで待たなければなりません。つまり、世界観の中に本が溢れている世界は、少なくともエネルギー革命が起こり、蒸気機関や電力供給インフラなど、現代社会と遜色ない文明が発達している世界と同等である必要があります。
これは板ガラスと同じ理由です。この点はビジュアライズの問題ではなく、原作世界観がどこまで練られているかの問題です。
「なろう系」サイトで公開している時点では良くても、ラノベ文庫として出版する際には、この設定をチェックすべきではないでしょうか?
(出版社から出す意味がないじゃないですか、そのまま出していたら…)
本は時空を超えた情報伝達のために作られた紙の集合体
紙の話ともリンクするのですが、情報伝達についてもっとよく考えるべきで、中世を舞台にするなら、宗教と本の関係は非常に密接になります。
そのため、舞台として設定した世界で起こっている事象も変化してくるため、同様の世界観を借りていても、展開は劇的に変化させることも可能でしょう。大同小異の展開から一歩抜け出せる気がします。
バランスの良い(と思う)ビジュアライズ作品
葬送のフリーレンの世界は現代とリンクしながらも、ファンタジー中世世界をうまく、バランス良く表現をしていました。
ヒットする作品というのは、本に限らずですが細部の設定をしっかりしているような気がしています。
よく見ると建物のガラスとか町並みとか全然中世ではないのですが、登場するアイテムや小物、色使い、衣装に時代の統一感があり、極力小物の登場を限定させるなど、演出によってバランスが取られています。
本の扱いは丁寧に描かれていると思います。
細かなことでしょうが、こうした時代感の考証の積み重ねで、世界観のクオリティが上がり、視聴者(読者)の空想の余白が広がることは間違いありません。