メタバースを加えたマーケティングは「アニメ聖地巡礼観光社会学」の構造を応用したものになるのではなかろうか?(仮説考察)
参考文献は「アニメ聖地巡礼の観光社会学」
ゾンビ先生こと岡本 健氏の論文構造が基礎になりそうだと感じました。
そのため、基本的にその構造に沿って考えていきたいと思っています。
この思考実験は、アニメ聖地巡礼とメタバースとの関係を整理することで、メタバースに集まる人の行動パターンを予測し、商品企画などマーケティング企画の基礎的な考え方につなげようとする試みです。
ウェブマーケティングのメタバース版での基礎を組み立てられればとの狙いがあります。
まずは岡本 健氏(以下ゾンビ先生)の論文「アニメ聖地巡礼の観光社会学」は以下のリンクよりどうぞ。
Youtubeでゾンビ先生の動画講座も残っていますので、そちらも参考に。
(2022年9月現在未完)
メタバースのソーシャルサービスは「聖地巡礼の観光社会学」で提示されている「コミュニケーションのあり方について」の仮説条件とほぼ合致しているのでは? と気がついたことからスタートです。
オタクがキーを握る⁉
VRChatをはじめ、VKET CloudやMeta社のHorizon Workroomなどのメタバース・ソーシャルサービス(以下メタバース)では本名登録の強制はありません。つまり匿名性を帯びています。
メタバースの定義はVirtual美少女ねむ/NEMさんの記事が参考になります。
また現在メタバースに参加している人の多くは「オタク」に分類される人たちです。
このことはバーチャルマーケット(VKET)=メタバースで開催されるコミックマーケット(コミケ)の盛り上がりと、VKETを運営している株式会社HIKKYの勢いから見当がつきます。
※NFT・Web3へ参加している人とは基本的には切り離して考える必要があります。投資関連に参加している人とメタバースの原住民と切り離せていない人は下記記事を先に読まれることをオススメします。
※またMeta社(旧Facebook社)が提供するHorizon Worldsは、2020年現在で、VRChatやVketCloudなどのメタバース・サービスとは基本的な考え方が異なるため、切り離して考える必要があります。
ここではオタク=先駆者(開拓者)と読み替えても良いでしょう。
現に1980年代のオタクたち(筆者ら世代)は現代のIT文化を作った先駆者。
そのオタクが作った新しいコミュニケーションのあり方がインティメイト・ストレンジャー(富田英典:2009)に分類されるであろうと、ゾンビ先生は論文中で取り上げています。
1980年代と現代の比較については、下記記事で少しまとめてあります。
書籍は下記より。
2000年代に新たに出現したオタクコミュニケーション
インティメイト・ストレンジャー
「アニメ聖地巡礼の観光社会学」の第2章でも、情報機器から情報通信機器へと変化して、匿名性の高い状態で生まれるコミュニケーション(情報伝達)について取り上げています。
また山田義裕氏の「拡張現実の時代のコミュニケーションと ツーリズムの新たな可能性(2013)」にもコミュニケーションの変容について、拡張現実時代のリアリティへとつなぐファクターとして取り上げられています。
ここで大切なのは、匿名性がコミュニケーションを阻害するものではないということに加え、信頼できる情報源として成り立っていることです。
インティメイト・ストレンジャーにおいて、特定のカテゴリ・セグメント、最近では「沼」と表現されることもありますが、この中では「仲間」としての意識が大きく、いきなり敵対することはありません。
この匿名性の高い状態は、Twitterを中心としたテキストコミュニケーションでも成立しています。
Twitterでは同じ興味をもつ人たちがゆるいグループを作っていますが、興味の深度が深くなるにつれてTwitterから他のクローズドなコミュニケーションサービス(Discordなど)へ移り、より濃密な情報交換が行われています。
つまりTwitterのようなオープンなインティメイト・ストレンジャーが集まる場から密度が濃くなるにつれて、インティメイト・ストレンジャーはよりクローズドな環境を好む傾向が見受けられます。
クローズドな環境では、さらに興味の深度により行動が変化します。
最近では興味の深度のことを「沼」とも言います。マーケティング的には「セグメント」に相当するものです。
コンテンツ沼の深度について書かれていた記事がありましたので、参考としてリンクを貼っておきます。
オタクの行動について
特に団塊ジュニア世代付近の人には気をつけてもらいたいのですが、「オタク」は現在アイデンティティのひとつとされています。
1980年代とはすでに感覚が違いますのでご注意ください。
上記でも書きましたが、オタク=先駆者でもあります。
そして現在のメタバースの住人とも被っており、BlenderやUnityというプロ用ゲーム制作ツールを使いながら、メタバース空間やアバターを作るスキルを持っています。
オタクは過去にも先端とも言えるツールを使いこなすスキルを駆使して、二次創作文化を築いてきました。
たとえばMikuMikuDance(MMD)というフリーソフトから作り出される3DCGの同人アニメーション文化が花開き、そこからモーショントラッキングという技術が浸透。初音ミクが歌う同人音楽に少人数でダンスMVが作り出される現象が発生します。
フル3DCGの映像制作コストは当時もかなりのものでしたが、使われたモーションデータは公開され、アバターのもとともなる自作のCGキャラクターにダンスを踊らせた二次創作動画も数多く作られました。
こうした金銭的な利益を無視したバイタリティあふれる「技術の無駄遣い」とも云われる行動力は数々の名作を生み、今では当たり前となったバーチャルVTuberの存在へとつながっていきます。
N次創作
先に上げた二次創作ですが、二次創作を元にした二次創作…つまりN次創作がニコニコ動画を中心に沸き起こりました。
この流れはMMDで動く3DCGキャラモデルや背景モデルにも波及して、同人活動でも改造モデルのデータが頒布されるなどの動きが見られました。
メタバースのVRChat、VketCloud、Clusterでは、MMDの3DCGキャラモデルと背景モデルは基本的な作り方に大きな違いはありません。
VRアバターとVRワールドを作る技術的なスキルは、当時からすでに基礎が作られており、あとは沼に嵌っている作品などの世界観を再現することで、さらにN次創作が増えることが考えられます。
また当時から制作ツールの練度のほか、ツール内の機能もアップしており、個人レベルでもかなりクオイリティのたかい3Dモデルが作れるようになっています。
上動画は、Blenderという3DCGソフトウェアで再現した架空のVRワールドです。このクオリティのワールド、ある程度のスキルを持った「個人」で作れる状態なのが現在です。ただしこれだけのスキルを持った個人の総数はさほど多くありませんが、クオリティレベルを上げていく人が増加してくれば、さらにN次創作が活発になることが予想されます。
沼の深度
「沼活」での「沼(セグメント)」には、深度があると前述しました。
その深度を概念図として表したものが下図です。
アニメに限らず、あらゆる「沼活」も大同小異下図と似たような深度断面概念図になると考えられます。
上図の[研究と開発と情報探索の領域]に居るユーザーが、いわゆるインフルエンサーとなり、伝説級のN次創作を作り上げる可能性が高い領域です。
この中に前述した3Dモデル以外に、メタバースのVRワールド・VRアバターが含まれてきます。
またメタバースでは、N次創作にも変化が見えてきました。(後述)
N次創作の広がりについては、ゾンビ先生も取り上げています。
N次創作と観光については、下記文献も参考になります。
コミケはN次創作の発表の場
N次創作によって作られたあらゆるものは、オタクが集まる祭典「コミックマーケット(通称コミケ)」に集まります。
ここで頒布(制作物を配る)側と需要側のそれぞれの人があつまるのですが、その人数たるや膨大なものです。
コミってる「コミケの参加人数年表。来場者数を一覧にまとめました 」より集客の推移グラフを引用させていただきました。
C1が1975年に開催され、一気に来場者が増えたのが1990年に開催されたC38。このあたりからパソケットという名称で、同人ゲームも頒布がはじまりました。多少の変動はありますが、増加傾向の伸びに勢いを感じられませんか?
なおコミケ会場へ入るためにはチケットが必要となりますので、どこかの観光地のような、入り込み客数の感覚値による数字ではないことをお伝えしておきます。
グラフの右端C96は2019年。コミケは夏と冬に行われるので、グラフは2本で1年分となります。また2018年からオンライン上でもバーチャルマーケット(通称Vket)と称してメタバースの会場で開催されており、2020年のVket5では全世界から100万人の参加者が記録されました。
N次創作における活動は、頒布側・需要側ともにかなり勢いがあることがおわかりいただけるかと思います。
このN次創作のインフルエンサーが引き金となり、次々と創作物が作られていく渦を作ることによる広まりが沼活をマーケティングに活かす大切な要素になります。
アニメ聖地巡礼のオタ活行動背景とメタバース
ゾンビ先生の「アニメ聖地巡礼の観光社会学」では、後半にアニメ作品ごとの事例を紹介して、作品舞台となった地域との関係性を整理しています。
アニメ聖地巡礼の場合、アニメ作品のシーン・カットから、公式には発表されていない背景を観察し、沼活深度の深い人が分析、同じ深度の仲間に情報を発信。さらにその付近の深度に居る仲間が情報をまとめ、実際に現地へ赴くことで更に情報が濃くなっていく。
それらの情報はインティメイト・ストレンジャーによってさらに拡散し、同じ沼の深度が浅い人たちもアニメ聖地巡礼へ訪れるようになることがはじまりです。
このときのオタク行動背景については、「アニメ聖地巡礼の観光社会学」7章・8章に詳しく書かれているので、ぜひ読んでいただきたいです。
簡潔にまとめると、みんな…作品愛に溢れています。
行動心理に目を向けると、作品のキャラが過ごした場を追体験することと、自分の推しキャラが暮らしている(という設定)場所に対する「こうであってほしいという場への期待」が散見します。
そして自分が既知の間、いつまでもこうであってほしいという願望も含まれているからこそ「聖地」と呼ばれる所以です。
桃源郷やアルカディアと似た心理状態ですから、変わっていないことを確認するために、リピートする人が後をたたないという理由が成り立ちます。
したがってアニメ聖地とされた地域で、アニメ聖地巡礼に来たオタクに対して異端者扱いをしてしまった場合、おそらくその地域は聖地巡礼としての価値観に加えて観光資源としての可能性を潰し低s舞うことになりかねないと考えられます。
異端者扱いまでいかずとも、消費者扱いをしてしまう地域にも、おそらく同じ結果がまっているのではないでしょうか。
「アニメ聖地巡礼の観光社会学」9章から10章にかけて、アニメ聖地となり新たな観光資源を獲得した地域についてまとまっています。
該当地域との関わりは作品によってバラツキがありますが、地域側が今までの観光とは違う価値観で訪れる人達を受け入れ、新たな観光資源として価値の再構築をおこなうことで、さらなる観光の可能性を見出すことができることで締められています。
ここは地域に限らず、作中で使われた製品(グッズ)にも当てはまります。
このあたりの行動心理はZ世代に限らず、オタク心理としてマーケターさんは把握しておくことを強くオススメします。(本読んでっ!)
ではここにメタバースが加わった場合どうなるのでしょうか?
メタバースワールドの新しい活用
鍵になるのはYoutube動画です。
推し活のワールドを再現できる事は先の動画でおわかりいただけたかと思います。ただしあの動画は3DCGソフトで映像化したものであり、ソーシャル機能は持っていません。
ソーシャル機能を果たすVRワールドは、2022年現在VRChatというサービスに専用で作った3Dモデルデータをアップロードすることで実現できます。
※VRChatの他にもCluster・VketCloud・VirtualCast・Neos VRなどがありますが、規模の大きさからVRChatが代表的なサービスとして取り上げさせてもらっています。
このサービスの概要は省きますが、自分のメタバースVRアバターを使ってメタバースのVRワールドに入り込め、仲間ともコミュニケーションができることが鍵になります。
こちらはサメ映画をモチーフにしたメタバースVRワールドに仲間と突入してYoutube動画として公開するパターン。
こうしたYoutube動画もチラホラ見られるようになってきました。
ほかにもリアル観光地のような紹介のされ方をしているメタバースVRワールドのYoutube動画が数多く存在しています。
このようにYoutubeコンテンツとして使われるワールドですが、沼の深い住人によってMVを作るために使われたワールドが存在します。
それがバーチャル美少女ねむさんが制作した下動画です。
特徴的なのは360度動画となっており、ヘッドマウントディスプレイで見れば、空間の中にいるような動画構成となっています。
これをリアルで撮影するのは非常に難しいため、VR空間ならではの演出となっています。
また下動画は4K動画として制作されたMV。
あるワールドですべて撮影されたもので、少人数で4K画質の動画作品を制作できるまでになってきています。
そのメイキング動画。
今はまだメタバース・ソーシャルサービスの多くは先行公開の段階です。
そうした中、このような作品が生まれたり、演劇が生まれたりしています。
▼9月22日に追加。
またバーチャルアイドル「えのぐ」はバーチャルスタジオからライブ配信を行うなど、メタバース内でのみ活動をしています。
アニメーション作品と並ぶ日が来る
今のアニメーション作品でも3DCGを使ったものが多く存在します。
クオリティの話になるとアニメーション作品に比べたら、メタバースVRワールドで作られたものとはかけられた予算が違いますし、関わる人の数が違います。
しかし制作現場レベルの視点で見た場合、3DCGのアニメキャラクターとメタバースVRアバターの製作工程に大きな違いはなく、アクターと呼ばれる動きの演出をする役者さんと、メタバースVRアバターを操る方法は、技術面での違いはありません。
クオリティの高いものが必ずしも成功するとは限りませんので、Youtubeで発表されるメタバースVRワールドを舞台にした作品にも、ヒットするものが出てくる可能性は十分に考えられます。
メタバースとマーケティング
ここまで「アニメ聖地巡礼の観光社会学」に沿ってオタクの行動について書いてきました。このなかでマーケティングに重要な要素は「沼」です。
もう一度沼の断面図を掲載しておきますが、ウェブマーケティングでも重要だった「タッチポイント」のあり方がウェブマーケティングと大きく異なります。
ウェブマーケティングのタッチポイントはほぼ「広告」です。
どちらかといえば受動的。リスティング広告(検索したときに表示される広告)は能動的と捉えがちですが、検索行為が能動的なだけで、検索結果に表示される「ことば」を見せているだけなので、積極的に広告をクリックする受動的行動はケースが限られます。
対して沼のタッチポイントは沼の住人から声をかけられたり、Twitterでリプをもらったりした場合です。もちろん自ら沼に飛び込むスタイルの人も居ますが、沼の底へは沼の住人とのコミュニケーションが必要です。
現在メタバースの沼の縁はまだまだ小さく、インフルエンサーも多くありません。この段階では沼の深部である神域からタッチポイントに神が直々に降臨することもあります。
バーチャル美少女ねむ/NEMさん直々にリツイートしていただけました。
まさにメタバースの神が直接お誘いに来てくださいました。(笑)
神の降臨があったから、この記事をまとめている気もしています。
メタバースがこのさき、あらゆる沼(セグメント)のマーケティングに使われる鍵は、バーチャル美少女ねむ/NEMさんたちを始めとするメタバースの原住民が作っているような、メタバースを舞台にしたYoutube動画作品となることは「アニメ聖地巡礼の観光社会学」で整理されたオタクの行動と同じ心理状態になる作品の登場にかかっています。
つまり構造が相似しているため、物語性に加えて、世界観とキャラクターがマッチし、VRワールドそのものが聖地化するか、ワールドのもとになった場が聖地化するかは別にしても、聖域化する元となる物語、映像または体験がなければはじまりません。
メタバース・エコノミー
メタバースがマーケティングに使われるようになってくると、一過性イベントのためだけのVRワールドも登場するかと思います。
しかしこうした一過性のVRワールドの目的は、製品やサービスの購入や契約であって、従来のウェブマーケティングと根本的に変わりません。
それに変わる新しい要素として、上記で記載した聖域化するVRワールドを意識した場合に発生する3Dオブジェクトデータの販売。
観光地におけるお土産屋さんのような存在が考えられます。
ウェブページの場合、そこにずっと滞在するという考えはありませんが、VRワールドの場合、アバターを着て集まるメンバーがいる限り、ワールドに滞在する考え方が成り立ちます。
現在BOOTHでアバターやポーズ、モーションやアイテムを入手することができますが、VketCloudのロードマップを見ていると、2023年中頃にはVRワールド内での購入が可能になりそうです。
リアルな物品の購入はAmazonのようなECサイトが向いていますが、VRアバターに使う3Dモデルデータなら、VRワールドで実際に試しながら購入する新しいエコノミーが誕生することが考えられます。
「アニメ聖地巡礼の観光社会学」でもゾンビ先生が指摘している、受け入れ側から積極的に新しい価値を提供することが、VRワールドでは率先して行われることが考えられます。
聖地化モデル
ゾンビ先生の「アニメ聖地巡礼の観光社会学」の中では触れていませんが、そもそもなぜ聖地化するのか? 聖地化の成り立ちや仕組みがわかればVRワールドとその元になったリアルな場とのリンクも結べるのではないか? と考えました。
「アニメ聖地巡礼のオタ活行動背景とメタバース」のなかで少し触れましたが、いつまでもこうであってほしい期待と変化を容認できない心理がただのロケ地(取材地)を聖地化してしまうのではないでしょうか?
また作品がヒットするしないに関わらず、登場人物(キャラクター)に対して視野狭窄に陥り、一ファンから熱狂的なファン(=推し)に変化する瞬間があると考えられます。
筒井氏はユリイカへの寄稿のなかで、推しは一種の愛という概念であるとも指摘しています。一方で推しアイスや推し文房具のような使い方もする面において疑問を投げてらっしゃいますが、愛の概念にも比重があり、重い愛から軽い愛までを含めて「推し」と表現しているのではないでしょうか。
また推しには距離があると考えられます。距離が近ければ推しではなく、独占(所有)意識が強くなり、遠くなれば弱くなる。そう考えると、所有したいけど距離が遠くて実現できない愛に関して仲間意識が芽生え、推し活につながることにも納得がいきます。
そうして仲間が増えることで承認欲求なども加わり、推しに関する消費行動へつながると考えています。
(参考文献:「ヲタ活」に見る若者の消費行動と心理)
アニメキャラとVtuber
上記の推しに関する距離感と比重から考えると、アニメキャラは何をやっても所有することができない存在です。
その結果推し同士の感情をシェアすることができます。
ここがドラマや実写映画との違いで、非現実とわかっていながら、万にひとつの可能性から現実を信じたい心理が仲間を引き付けるのでしょう。
おそらくオカルトの心理と相似しているのではないでしょうか?
(参考文献:不思議現象を信じる心理的背景1))
対してVtuberは絶妙な距離感を保っていると言えます。
アニメキャラの場合、コミュニケーションは絶対に取れません。対してVtuberは「中の人(前世人)」と称されるよう、VRアバターの中にはリアルな人が存在しています。
こうした現実から「中の人などいない」=中の人は「魂」と見立てる文化が成立してきました。
この流れはVtuberからVRアバターへと引き継がれ、バ美肉と呼ばれる外観は美少女キャラアバター、しかし中身は男性の存在が発生しています。
バ美肉については、バーチャル美少女ねむ/NEMさんの「人類美少女計画」サイトに情報が集まっており、興味がある方は探索してみてください。
キャラクターとストーリーとシナリオ
アニメ作品は必ずストーリーが存在します。ストーリーの流れに従って、キャラごとのシナリオが存在し、セリフや画面レイアウト・ポーズによって表現されます。
中でもシナリオはキャラの行動を際立たせるために重要な要素で、シナリオ次第では神格化(カルト化)されることも考えられます。
このことはゲームキャラクターにも強く影響を与えており、ゲームとアニメ作品による二重展開をした場合、より鮮明にキャラクターがカルト化される傾向にあると思われます。
(参考文献:ゲームシナリオとキャラクター原理/髙橋志行)
ここから考えられることは、骨格となるストーリーさえあれば、キャラにシナリオを持たせ行動させることで、規模の大小は関係なく、恣意的にオカルト化させることが可能ではないか? といった推論です。
(参考文献:「キャラ活(キャラクターを巡る諸活動)における「擬人化」 : 「カリスマ」と「偶像」の狭間で/アラム ジュマリ(2019))
推しの距離感と聖地化と信仰
ここまでキャラのカルト化とシナリオの関係について考察してきました。
アニメキャラは絶対的に遠い距離感の存在であり、推しキャラになった場合、神と等しいほどの距離感と現実との壁が存在します。
しかし唯一神にも等しい推しキャラとの現実的な接点が存在します。それが作中に出てくる風景の元となったロケ地です。
この感覚はオカルト信仰と心理的にはつながると考えています。
現実には存在しないキャラの世界観を現実の場所とリンクし、あたかもそこが作中世界と同一であるかのように認識することで押しキャラ仲間のなかで聖地が完成するという流れでしょう。
しかしこれはキャラが実在しない場合の流れで、作品が風化する・または他作品へ押しキャラが変化するとともに、聖地化率が下がっていくのではないかと考えています。
そしてVtuberやVRアバターをまとったキャラの場合、コミュニケーションが取れることと、作品という世界観ではなく、アバターから派生する世界観を纏っている状態なので、宗教的な表現になりますが、定期的な集会や儀式(イベント)を用いて聖地を信仰化させることができるのではないかと思っています。
日本での初詣や節分、お盆やクリスマスを想像してもらうとイメージしやすいのではないでしょうか?
(参考文献:日本における慣習的信仰の基礎的研究/東海林克也(2016))
まとめ
情報通信機器を通じたコミュニケーションによって、インティメイト・ストレンジャーが出現。SNSなどのテキストコミュニケーションサービスを通じて情報交換が行われることで、同じ嗜好性を持った集団が現れました。
そのなかでもオタク(特にアニメファン)が「アニメ聖地巡礼」として作中の聖地へ観光に行く行動が注目されはじめました。
こうした背景には、オタクの行動原理に作中キャラクターの「推し」が強い影響を与え、集団を形成。沼と呼ばれるようになった現在において、沼にはまる人が増加したことが考えられます。
アニメ聖地側となった地域でも、うまく受け入れることができた地域には、新しい観光の価値が生成され、経済効果が生まれています。
こうした流れがあるなかで、オタクが次に目をつけ始めたのがメタバース。
Vtuberが先行して開拓したYoutube動画コンテンツが定着したところで、メタバースのVRワールドを活用したコンテンツを次々と生み出しており、SNSに変わる新たなコミュニケーションとして作られています。
そしてこれら一連の流れから、ロケ地が聖地化する原因を推論しました。
多少のブレはあるかもしれませんが、推しのVtuberがメタバースに参入し始めれば、VRワールドが聖地化する可能性は非常に高いことを推測。
そこに行けば、タイミング次第で推しキャラと会えるかもしれない期待から、信仰化する可能性を指摘しました。
(ちなみにVtuber所属事務所で大手はにじさんじ。株式会社ANYCOLORの運営で上場企業。:株価はこちら)
ここから見える未来
少なくとも3Dモデルデータとあわせた製品展開は必要。
マーケティングは広く浅くではなく、沼を見つけて入り込むくらいの覚悟が必要だと思われる。
アニメ聖地巡礼と同じく、メタバース聖地巡礼が生まれる可能性が高い。
メタバースワールドと元となった場が聖地化する可能性も高い。
メタバースとリアルをうまくミックスしたサービスや製品企画の分野が開く可能性が高い。
メタバース内だけで流通するエコノミーが発生する可能性が高い。
他にも可能性が多々あるかと思います。またVRアバターの主要な流行は日本のクリエイターが主に作り上げています。
VRワールドに至っても、世界観が多様な日本のクリエイターが優位に立っていますので、メタバースのエコノミーはWorldwideに広がります。
多くのメタバースサービスは、2025年をサービスローンチの目処に掲げているように感じます。(開発ロードマップを見る限りですが)
またヘッドマウントディスプレイだけではなく、スマートフォンからメタバースへアクセスできるようにする開発も進んでいます。(現在でもウィンドウズデスクトップからSteamアプリを通してVRChatへのアクセスは可能)
ハードウェアの開発も様々なものが考えられていますので、現在はPCが普及した1990年代さながらの様相です。
こうした可能性が多くあるなかで、ひとつの仮説を考察できたことに、論文「アニメ聖地巡礼の観光社会学」を発表し、ライブ講座まで開いてくれるゾンビ先生こと岡本健先生には感謝を申し上げます。
またこの考察を記録として残そうと思わせてくれたメタバース沼の神、バーチャル美少女ねむ/NEMさんの行動力とコミュニケーション力に感謝を伝えられればと思っています。
ここまでの長文にお付き合いいただけた方、ありがとうございました。
基本的には社内の情報共有向け資料に即していますが、誰かのなんらかの思考整理など、参考として役立ってくれればと思い公開しました。