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#3【考察】講師活動を使った強制的インプットが診断士に必要なワケ

みなさん、こんにちは。中小企業診断士の岩瀬敦智(いわせあつとも)です。
このコラムは、自分自身の経験をもとに綴る「経験が少ない診断士が、企業研修講師としてキャリアアップし、安定して稼ぐためのヒント集」です。ご関心をお持ちいただいた方の診断士としてのキャリア形成に少しでもお役に立てていただけると幸いです。

さて、今回は診断士がなぜ講師活動をした方がよいか掘り下げてみたいと思います。

中小企業診断士として活動する上で、常に知識を拡げたり深めたりすることは大切。これはどの先生にも賛同していただけると思います。

合格当初の知識では、企業の支援や研修では太刀打ちができません。むしろ記憶には限界があるので、普通に活動していたら合格時の知識量を維持するのも難しいのが実情といえます。

経営者との対峙で知識が出てこず窮地に

それでは、どのように知識を増やしていけばよいでしょうか。

この話をするといつも脳裏に蘇るのが、現在、早稲田出版の代表をしている山口先生とのエピソードです。登録後3年目の春、私は東京某所である企業の経営者とコンサルとしてお付き合いするか顔合わせをしていました。もともとNHKの「資格☆はばたく」という番組の診断士シリーズで司会進行をしていた山口先生を見てコンサルの依頼が入りましたが、先生が忙しくて対応できないために私がメインで担当することになりました。

その経営者は、以前から有名コンサルファームにも依頼しており、コンサルタントを使い慣れている方で「岩瀬さん、うちの従業員がなかなか定着しない理由をどう考えますか?」といきなり質問を投げかけてきました。私はそのストレートな質問にどう答えて良いか思い浮かばず「いろいろな要因があるので調べてみる必要があります」と苦し紛れに答えてしまいました。

お分かりですよね。これは、「私にはわかりません」と同じ意味です(笑)。もちろん、百戦錬磨の経営者がその回答を見逃すわけもなく、顔が途端に険しくなりました。

初回の顔合わせのため同席していた山口先生がすかさず、「組織には、協働意欲、共通目的、コミュニケーションが必要なんです。人が定着しない組織は、そのどれかが欠けている可能性があります。その辺りを岩瀬に調べさせます」と助け船を出してくれたので、事なきを得ました。

結局、山口先生が、数回に1回はコンサル同行するという条件で、契約締結に至りました。もともと私が一人で担当する予定でしたので、自らの力不足を改めて感じた出来事でした。

その際に山口先生から「いつも言ってるように知識は知っているだけではダメ。使いこなせないと。バーナードの公式組織の3要素は岩瀬さんだって知ってるでしょう。知っていても自分の言葉として使うのは難しいんだよ。経営者との会話で使えるようになるまで頑張って」と激励いただきました。

今でも自分の反省として記憶しているエピソードです。

なぜ、知識が定着しないのか

さて、皆さんはどう思われるでしょうか。なんでそんな知識が出てこないんだと感じた方もいれば、自分もそういう経験があると思った方もいらっしゃるかもしれません。

どちらにしろ、知識を「知っている」と「使える」の違いを如実に表したエピソードといえます。知識を使いこなせるようになるためには、「体系的に知識を捉えて記憶する」必要があります。これは、診断士の1次試験対策と一緒ですよね。

違うのは、実践では1次試験のように選択肢が提示されないこと。その分、試験対策以上に時間と労力をかけて知識を定着させる必要があるのです。

ところで、当時(登録後3年目の春)の私は、なぜ3年間あったにも関わらずバーナードの公式組織の3要素という診断士の基本的な知識すら定着できていなかったのでしょうか

答えは、知識を定着させるために充てる時間がなかったからです。

コンサルタントは常に勉強することが大事で、コンサルファームでは、業務の一環として強制的に社外のセミナーに参加するという話はよく聞きます。知識に投資することで、それが後々、クライアント先での付加価値アップの種となり、効率的な契約締結や単価アップにつながることが分かっているからです。

ところが独立していた私は、収入を得るために可能な限り業務をこなさなければなりませんでした。コンサルファームであれば他部署や事務担当者に投げられる経費精算や事務作業などの雑務も全て自分がやる必要がありました。業務の一環と割り切って短期的にお金を生まない学習活動に割く時間がなかったのです。結果として、契約締結やコンサルでは知識よりも手数で勝負しなければならず、より時間がかかるという悪循環に陥っていたのです。

断ち切ることができない悪循環

ただ、これは独立診断士だけでなく企業内診断士でも起こり得ると思います。休日を診断士活動に充てているため自己学習する時間がとれないという話は、同僚の企業内診断士の声としてよく耳にします。

どのように知識を定着させるのか

では、時間をとれない診断士は知識をどう定着させればよいのでしょうか

そこで、私のおすすめが講師活動を使った強制的インプットです。

企業研修に登壇すると、知識のインプットのスピード・量・質が圧倒的に高まります。人に教えるには相当の知識量が必要になるからです。例えば診断士試験。受かるならば60点で良いけれど、受験指導をするなら100点の知識が必要。これは多くの講師が感じていることだと思います。

企業研修でも同様です。登壇のためには多くの時間と労力をインプットに費やす必要があります。ただ、自己学習では長続きしなくても、登壇日までに100点にしなければならないという外的制約が加わると不思議なことにできてしまうのです。

私は3年目の夏頃(さっきのエピソードより少し後)から本格的に研修に登壇し始めましたが、その年の秋にTBC受験研究会で経営法務のメイン担当として受験指導の機会をもらいました。その時は登壇日までに徹底的に勉強しました。テキスト・条文検索はもちろん、司法試験の指導で有名な伊藤眞先生の著書、某通信機関のビジネス実務法務検定のDVDなど必死でインプットをおこないました。登壇への期限が私を駆り立てたのです。

おかげで、受験生時代には1年かけても認識できていなかった、経営法務領域(民法、知財法、会社法、破産法、金商法など)の体系的な知識を、数週間で獲得することができました。非常に速いスピードで、たくさんの量をインプットできたのです。もちろん私が現金な人間で、謝金が動機づけをしてくれたことも否めませんが(笑)。

これらの知識は一義的にはその後の受験指導で活きましたが、コンサルや企業研修でも現在に至るまで活用しています。

先月も、ある企業に研修を提案するに当たりコンペになりました。クライアントは大手メーカー、対象者は新製品開発担当者、テーマは発想力強化です。先方の人事部長が、「新製品開発に特許が絡むため、特許について知識がある先生じゃないと受講者と話が合わないのか心配です」と切り出しました。

そこで、私が「そうですよね、単に発想するだけでなく、特許の登録要件である新規性、進歩性に配慮しなければなりませんね。特に進歩性は大変だと思います。ただ、それを言い訳に発想が硬直化してはいけない。これはレクチャー時に強調しますね」と伝えたところ、「特許の審査要件をご存知であれば、大丈夫ですね」とその場で受注に至りました。

登録後3年目の春の私では、間違いなく特許の審査要件は出てこなかったでしょう。その後の登壇に向けて時間と労力をかけて知識を定着できたことが奏功しました。まさに、高い質のインプットができていたのです。

ここまでのまとめ

ここまでで、この記事で言いたかったことは以下のとおりです。

講師活動に取り組むと悪循環を断ち切れる

つまり、時間がない方こそ自分の業務の一部に講師活動を含んでおくと、継続的、計画的に知識を拡げたり、深めたり、更新したりすることがしやすくなります。登壇日があるから強制的に知識を拡げ、掘り下げ、定着させることができる。定着した知識が、効率的・効果的に新たな受注につながる。それによって更に知識に投資する時間ができる。これが、私が考える講師活動を使った強制的インプットが診断士に必要なワケです。

あくまでも私見にはなりますが、キャリアプランの参考にしていただけると嬉しく思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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