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#8【考察】経験が浅い研修講師がダメージを最小限にとどめるための処方箋は、心理的拠り所の形成にあり

みなさん、こんにちは。
中小企業診断士の岩瀬敦智(いわせあつとも)です。

このコラムのテーマは「経験がない診断士が、企業研修講師としてキャリアアップして、安定して稼ぐためのヒント集」です。

今回は、岩瀬の講師デビュー戦の当日の「しくじり」について考察する解説編です。まだ、読まれていない方は、以下の記事を読んでから、進めるとより楽しんでいただけると思います。

これらの記事を踏まえた上で、以下の問いについて解答を見ていきましょう。

どのようなしくじりがあるか考えてみましょう

まず、前提として以下の記事「【考察】企業研修講師デビュー戦の失敗から得た教訓。経験が浅いうちはメンター探しがマスト!」で書いたとおり、当日までの準備でしくじりを重ねていること、そのしくじりは経験が浅いうちは自ら気づけないものが多いのでメンターの存在が重要であることを述べました。

つまり、当日を迎えた段階で残念ながら勝負がついていたといえます。しかし、それでは話が終わってしまうので、今回はどうすればダメージを最小限に終えられたか、という視点で失敗要因を考察してみます。

ちなみに、今回のしくじりも、当時の自分では気づけないものばかりなので、今振り返ってみるとの内容です。

4つのしくじりポイント

(しくじり1)事前に研修会場まで足を運ばなかったこと

当日までに研修会場を訪れる機会をもらい雰囲気を掴めればベストでしたが、最低でも当日の朝、教授と会うまでに研修会場まで足を運んでおくべきでした。一度でも行ったことがある場所とそうでない場所とでは安心感が違います。もちろん当日の朝早く会場を訪れても開場していない可能性が高いですが、道順を把握している、教授との待ち合わせ場所からの時間が分かっているなどわずかな情報でも会場入りの時の緊張感を和らげられた可能性があります。万が一、会場設営中の人事担当者と鉢合わせした場合、「早めに雰囲気を掴むために様子を見に来た」と伝えれば、熱心な先生という好印象を残すこともできます。

(しくじり2)冒頭から研修参加しなかったこと

これは当日の様子を描いた前掲の記事からは読み取りにくい部分ですが、冒頭に簡単に挨拶してから、後ろで座ってオブザーブし続けたことが失敗でした。グループワーク時に立ち上がって会場内を見まわったり休憩時間中に「何か質問があれば、教授に伝えます」と受講者とコミュニケーションをとったりしていれば、自らの登壇時の緊張が和らげられたかもしれません。メインの登壇者にとってもサブ講師が受講生とコミュニケーションをとって和ませてくれることは場の雰囲気をよくする要因になるため歓迎されやすいです。

(しくじり3)昼食時に積極的に受講者とコミュニケーションを図らなかったこと

これは多くの方が気になった点ではないでしょうか。なんといっても昼食時に受講者と話す機会を得ながら、活かせなかったことが大きなしくじりです。せめて両隣の2人だけでも良いので、積極的にコミュニケーションをとって仲良くなるべきでした。登壇した際に、親近感がある受講者がいるのといないのとでは、心理的な安心感に大きな違い生じます。また、仲良くなった受講者がいると困った時にその人に話を振ったり、人柄によってはその人が積極的に発言をしてくれたりして、講師がペースをつかむ手助けになります。

(しくじり4)登壇中に緊張感が高まった時にブレークを挟まなかったこと

前掲の記事に記載した研修中に陥った負のスパイラルを確認しておきます。

緊張感が高まる負のスパイラル

経験が浅いうちは、このように緊張が高まることは誰にでもあることです。実際に私が昔から知っている診断士も比較的負荷が小さい公的支援機関でのセミナーでは雄弁なのに、大手企業の部課長向けの研修では全く話せなくなってしまいました。

負のスパイラルに陥ったら、これを断ち切る必要があります。その際に有効なのが、ブレークを挟むことです。例えば、前述の(しくじり3)ともリンクしますが仲が良くなった受講者に話を振る、テキストの一部をその受講者に読んでもらう、文字通り5分間の休憩を入れるなどの方策が考えられます。ちなみに今の私の場合、話の流れがうまくいっていないなと感じたら、簡単なお題を出してグループ討議をしてもらうことで自らのペースを立て直す時間を得ることが多いです。今回は、負のスパイラルに陥ったにも関わらず、話続けたことが最大の失敗といえます。

しくじりポイントから見る心理的な拠り所の重要性と築き方

さて、ここまで当日の主なしくじりについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。繰り返しになりますが、ここで挙げたしくじりは当時の自分では修正することはもちろん、気づくこともできなかったと思います。

現在の自分から振り返ったしくじりポイント

もし、私がタイムスリップをして、当日の朝に当時の自分自身に対して一言アドバイスをするならば、「とにかく、休憩時間や昼食時間を使って仲が良い受講者をつくって、自分の登壇時にはその受講者に話を振りながら進めなさい」です。

この自分への一言アドバイスには、ある論拠があります。それは、企業研修に際して講師が失敗しないためには心理的な拠り所を作ることが重要というものです。

1~3のしくじりを裏返すと、以下のように整理できます。

①   事前に研修会場に足を運ぶのは自分の知っている場所づくり
②   冒頭から研修参加するのは自分になじみがある空間づくり
③   昼食時間に受講者とコミュニケーションをとるのは自分と繋がりがある受講者づくり

しくじり1~3から見えてくるポイント

3つの共通点は、自らの心理的なホームグラウンド(拠り所)をつくることにあります。基本的に企業研修はクライアント先の会社や外部会場でおこなうことが多く、同じ企業風土をもつ受講者対講師となるためアウェイです。私が知る優れた講師は、そのアウェイをひっくりかえして講師のホームのような雰囲気に変えてしまう方たちばかりです。

しかし経験が浅いうちは、丸ごとホームに変えることは困難です。だからこそ小さくてもよいので心理的な拠り所をつくっておいて、緊張が高まった時はもちろん、話の流れがうまくいかない場合などに立て直す拠点とします。上記の①②③のホームづくりが出来ていれば、しくじり4もリカバリーできていたことと思います。

私は「キングダム」という漫画が好きで読むのですが、その中に、王翦(おうせん)という将軍が出てきます。この人は、秦の始皇帝の配下で、実際に中華統一の立役者となった人物のようです。聞きかじり(というかネットサーフィンレベル)の情報で間違っているかもしれませんが、この人は勝利を収めることはもちろん、負けが少ない武将だったようです。

キングダムの中で、この王翦が得意とする戦い方として描かれているのが、野戦の中で戦いながら「砦」を築き状況変化を見極めながらダメージを最小限にとどめるというものです。

まさに企業研修は、いつなんどき状況が変化するとも分からない野戦のようなもの。だからこそ、自らの砦ともいうべき、心理的な拠り所を作ることが重要なのだと思います。

ちなみに、私自身が10年以上にわたる企業研修講師業の中で、心理的な拠り所にしているトピックの一つが診断士1次試験の知識です。診断士の仲間うちでは誰もが知っているこの知識が、一歩外に出ると大きな武器になります。話の流れが良くない時の立て直しはもちろん、話を加速させたり、説明の付加価値を高めたりするきっかけになるのです。

ということで、このコラムでも次回以降、折を見て企業研修でどのような1次試験の知識を活用しているか紹介していきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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