伝えることの大切さ
通訳ガイドというお仕事を始めてから、何をどのように伝えたらいいのか、相手の立場に立って考えるようになったと思う。お迎えするゲストが何を期待して日本へやってくるのか、国籍や家族構成など限られた情報から想像することから始まるのだが、事前に膨らませたイメージとは全く違うことも無きにしも非ず、でもそんな時こそ忘れられないゲストとのやり取りが生まれることが多かったように思う。今回は伝えることの大切さを記してみる。
1.何を伝えるか
まず初めに伝えることは、相手がだれであれ決まっている。そう、「感謝」の気持ち。ガイドとしてゲストに接する時は、「日本を選んで来てくれてありがとう」。講師として生徒さんに接する時も同様に、「この講座を受講するのに時間を割いてくれてありがとう」。ふれあえることって、本当に有難いこと。人は支えなしに生きてはいけないものだから。感謝にはじまり、感謝で終わるコミュニケーションが万国共通になったら、世界はもっと平和になると思う。
2.どう伝えるか
これってすごく難しい。表現の仕方は色々あって、同じことを伝えるにしても、表情や言葉の選び方で伝わり方も違ってくる。伝える内容が良いことばかりなら自然と表情も言葉のトーンも明るくなるので伝えやすいのかもしれないが、ネガティブな内容を伝えなければならない時は気を遣う。特に文書でクレームしなければならない時は厄介である。噴き出してくる感情をどうにか抑えて用件のみ伝えるようにしても、AIでも対応できるようなマニュアル通りの答えしか返ってこない時は少々がっかりする。
気を付けなければいけないと日頃から思っていることは、「言い過ぎない」ことだ。伝えたいことは沢山あっても、余白を残すことも大切。ガイドらしからぬ意見になるが、私は「見て感じてもらうこと」が大切であると思う。ゲストの感情(感動)を引き出すことができるガイディングが理想である。
3.聴くことも大切
日本では「察する」ことが大切という考え方があって、空気が読めない人は敬遠されることがある。最近になって「多様性」を尊重しようという考え方が広まりつつあるが、多様性を理解するにはやはりコミュニケーションが欠かせないと感じる。質問力を鍛えることは、察する力を高めることにも繋がると思う。接する相手がどのような人で、どのようなことに興味があるのか、質問を繰り返しながら距離を縮めていくことで信頼感が生まれる。だからといって、根掘り葉掘りプライベートな質問を投げかけるのは失礼にあたるので、「訊きすぎない」配慮も大切である。
4.でもやっぱり伝えたいことは伝える
ガイドをするときは、ネガティブな話題は極力避けることが推奨されている。「ダークツーリズム」と呼ばれる戦争や災害の跡地など、人々の悲しみの記憶をたどる旅も最近は支持を得るようになってきたが、負の歴史であれ繰り返してはならない教訓として伝え継いでいくことはとても意義深いように思う。私の場合は言葉で表して伝える通訳案内人であるが、音を奏でたり身体を使って伝えることなど、表現の仕方は自由である。それぞれに授けられた手段を用いて熱意を持って伝えていくことは、きっと相手の心に響く何かがあると願いたい。
5.SDGsを伝えたい
ガイドとして日本観光の素晴らしさを伝えていくことはもちろんのこと、私には他にどうしても伝えたいことがある。前回の記事で触れた内容であるが、世界を測るモノサシともいえる「SDGs」について、まだあまりよく知らないオトナに伝えたいのだ。というのも、教育現場では「持続可能な社会の創り手」の育成、つまり「Education for Sustainable Development」に向けての取組が既に始まっており、ESDをより一層推進することがSDGsの達成に繋がるという考え方が浸透しているからだ。恐らく、学校に通うコドモ達の方がSDGsという言葉をよく耳にしていると思う。というわけで最後に伝えたいことを宣伝します。2020年11月8日(日)10:00-12:00 オンラインで「身近なものから考えるSDGs基礎講座」を行います。ピンときたらぜひ!