デジャブ。
「ただいまー」 「おかえりー」
部活から帰ると、私は母親に帰宅を知らせた。
母は明るい口調で、返事をしてくれる。
弟は自室にてミニカーで遊び、父は新聞を読み、母は夕食の準備をしてくれている。
おいしそうなベーコンの匂いが漂う、午後六時。
……全部、『知ってる』。
父の新聞記事の内容も、母が何を作っているのかも、今日何時何分に弟が寝るのかも。
私は全部、『知っている』。
この生を、私は少なくとも200回経験した。信じられないって? 私自身が一番信じたくないよ。
毎回毎回、十五歳になると私は死に、また同じ生を子宮の中から繰り返す。それを気が狂いそうなほど繰り返す。
……ちょっと趣向が違う、流転輪廻みたいなものだよ。
「なぁミカ、強盗殺人だってさ。怖いな、最近の時世は──」 「そうだね」
うんうんと、それこそ笑っちゃうくらい白々しい笑みを浮かべる。このやり取りを、200回繰り返した。
デジャブだ、と私は思った。
──ここで返事をすることに、何の意味があるのか。 ──どうせ繰り返される命だ。 ──面倒くさい。
私は幾度となく自問自答した。そしてその自答は、決まって『面倒くさい』で終結する。
もう、うんざり。
そう思う自分がいる。でも、さ。
「お母さん、今日のばんごはん何~?」 「今日はねぇ、ベーコンの炒め物よー! お母さん、頑張っちゃうわぁ」
私は精一杯、『初回』を演じている。そうすることで、もしかしたら──
──『初回』しかない他人の人生を、彩ることが出来るかもしれないから。
「やったぁ! 私、お母さんの料理大好き!」
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