ある女の子【ショートショート】。
生命が消えるということはつまり、死ぬということだ。
そんなことを考えながら、私は鏡で自分の顔を見た。
青白く、しかし所々赤くなっていて、やつれ切っている。ちょうど、死人の様だと思った。
でもまぁ、ぶっちゃけ言って。
『死』ってのは、そこまで遠い感覚ではない。
自然界では食物連鎖の中でたくさんの生物が死んでいるし、
それを止める術は存在しない。私たちだってたくさんの生き物を殺して食べて、生き延びている。
『命を大切に』ってよく言うけれど、
裏腹私たちは生き物を殺している。
蠅や蚊を潰すのだって、蟻を踏むのだってそうだ。
それに、世界では今こうして無駄なことを考えている間にも、人が死んでゆくのであって。
だからもう、私は命を大切にしなくてもいいと思ってしまったのである。
歯ぎしりしたつもりだったけど、鏡の中の自分は笑っていた。
うん、そうだ、命なんて、大切にしなくていい。
私はポケットを弄った。
そこには、私の小さな手でも十分に握れる大きさのナイフが入っている。ヌルッとした液体がついていた。
その液体が、私に現実を突きつける。
私は、人を殺した。
まだ実感が沸かない。
それはまるで多重人格のようで、殺した時の情景はまるで脳に残っていなかった。でも、そんなものだろう。
深呼吸をし、洗面所の扉を開き、廊下に出る。
自白しようか、なんて考えは、脳を過りもしなかった。
この血の付いたナイフを得た、その『後』の行動に意味があるのである。
このナイフで人を脅し、ブツを得るまでは、自殺なんて絶対にできない。
ナイフをしまい、洗面所の扉を開け、廊下に出た。
廊下は肌寒く、時計がカチ、カチ、カチと規則正しく動いていた。それより少し遅いリズムで、私は足を動かす。
靴は履かなかった。
玄関のカギを解除し、ドアを開けると、耳障りな蝶番の音がした。外は廊下よりさらに肌寒く、十月らしさがよくでていた。
玄関のドアが閉まる音も聞かずに、私は隣の家の玄関の前へ歩いた。
インターホンのボタンに手を伸ばすと、
心臓の鼓動が早くなるのを実感せざるを得なかった。でも、躊躇したのは一瞬で、私はすぐにそれを押した。
鈍い鐘の音にバタバタという音が続き、私は深呼吸する。
それらの音は、玄関のカギが開く音に収束する。
「はぁい、なんでしょ……」
「きゃぁっ」、悲鳴が響いた。
私は笑い、優しそうな顔に恐怖を浮かべた、彼女の見る。
「トリック……」
ポケットに手を突っ込み、ナイフを出した。金属特有の重みが、赤色によってさらに増したようである。
それを、彼女の首元に突き出した。
「……オア、トリート」
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