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世界が変わっていた。
起きたら、世界が変わっていた。
真っ白なベッドで起き上がると、私はよくわからない線?に繋がれていた。全身が痛んで、悲鳴を上げているみたい。
「☓●×××‣●?」
私の近くに寄って来た、白い何かを纏った人が口を動かした。しかし、何をやっているのかよく分からない。
どうしようもない恐怖だった。私は体を大きくよじり、逃げ出そうとした。
しかし、目の前の人がそれを許さなかった。私の腕を掴んで、何かを叫んでいる。しかし、何を言っているのか分からない。
「やめて! やめて!」
私はあらん限りの声で叫んだ。ここにある物の全てが、異様に映った。私はどうして、こんなところに居るの? 全然知らない、嫌なにおいがする場所に。
母さんも父さんも仲間も、みんないない場所に。どうして私は居るの?
自問自答も、長くは続かなかった。私は腕に鋭い痛みを感じ、それと同時にふっと意識が遠のくのを実感する。
***
あれから、どれくらい経過しただろうか? おそらくは、三日程度であろう。しかし、それだけの月日を以てして私が知り得たことは、たった一つだけだった。
……ここは変だ。
ずっとよくわからない白い布を纏っていなければならないし、線?が常に私の中に入ってきている。
私に顔を見せる人も、優しく笑っているかと思えばすぐに手荒な事(鋭い物で私を刺したりだとか)して、本当にワケが分からなかった。言葉も通じないから、意思疎通のしようがない。敵愾心があるのかさえ分からない。
私の中にある恐怖が、更に蓄積されていったことは言うまでもない事である。というか、この人たちが本当に人間なのかさえ、私はあやしいと思っている。
皆に合いたい、太陽の光を浴びたい。その思いは、私が月日を重ねるごとに強くなっていった。
***
あれから、相当の時間が経過した。何十日も、きっと経っていると思う。
その間、私は一度も太陽の光を浴びていなかった。この場所についての知識も得られないし、恐怖は依然として消えないで付き纏っている。
だから私は、決断を下した。今私は、いつも私に近づいてくる白い服を纏った人を殺して、その手から武器を奪い取った。
私が幾度となく『刺された』、あの鋭い武器だ。これ以上ここで待っていても、この恐ろしい生活が続くだけだろう。
なら、ここで生きる理由は無い。
私はため息をつき、この世に別れを告げた。大きく武器を振りかぶり、自分の首に突き刺す。ブシャッと血が噴き出て、白い布を沢山汚した。
***
「だから、やめるべきと言ったんですよ!」
とある病院の中、女性の大声が轟き渡った。それをなだめる男の声。
「まぁまぁ、そんなに大声出さないの。今回は致し方ない、防ぎようのない物だった。それに、病院側からは死者も出ていないし……」 「良い物ですか!」
それを遮る、さっきの女の声。彼女はさらに怒気を荒げて言った。
「負傷した原住民を連れてきて、病院で保護するなど……! 彼女には彼女の生活があったんですよ‼ 放っておいてあげた方が、ずっと良かったに違いない……!」
彼女はバンと机を叩いた。それを見た男が、静かに言う。
「……なら、見殺しにしろと?」 「それは……」
彼女は押し黙ってしまった。男はふーっとため息をつき、寂し気に空を見つめる。
「命を救う、それが俺達の仕事じゃないか。もっとたくさんの人が生きれるようにする為に、俺達は『彼ら』の世界を変えよう」
女は、返事をしなかった。彼女は知っていた。
……あの原住民達は、死ぬことを誇りとして捉えていたことを。彼女は小声で言った。
「価値観を変えることは、一つの罪なの?」