『Heaven Burns Red』感想
『Heaven Burns Red』は麻枝准がプロデュースする10年ぶりの完全新作ゲームである。『CLANNAD』ぐらいの時期からアニメ二ハマり、ニコ動で『鳥の詩』を知り、『Rewrite』でノベルゲームの世界に引き込まれた自分としては、Keyや麻枝准の存在はとても大きいものであり、その新作がスマホRPGというあまり好きでない媒体であったとしてもプレイしないわけにはいかなかった。
Key(というよりはVisual Art'sかもしれないが)が主導で開発したスマホアプリとしては『Rewrite Ignis Memoria』があった。一応好きな『Rewrite』がテーマということでプレイした。シンプルながらもカードゲーム的な要素を取り入れた戦闘システムに多少の面白さは覚えたものの、シナリオは極めて簡素で、あまり楽しめるものではなかったように思える。そのような記憶もあって、『Heaven Burns Red』にはあまり期待はしていなかった。
リリースして約二か月が経ったが、一応ほぼ毎日触ってはいる。総じていえば楽しんでいるといえるかもしれない。一応セールスランキングなどでの評価も悪くはない様だ。
以下は特にネタバレなどには配慮しないので注意。
シナリオ
麻枝准はシナリオライター・作曲家という二刀流を活かし「泣きゲー」というジャンルを生み出したパイオニアとして高く評価されていた。特に京都アニメーションがアニメ化した『CLANNAD』が高く評価されて以降は『Angel Beats!』 をはじめとするオリジナルアニメのプロデュースにも関わっている。『Angel Beats!』は終盤の展開には賛否両論があったものの、セールスという観点では記録的なものを残した。一方で近年プロデュースしたアニメ『神様になった日』『Charlotte』については高く評価されているとは言い難いだろう。特に『Angel Beats!』の際にも指摘されていた、シナリオにおけるギャグ・シリアスのバランスの欠如や脈絡のなさが評価を押し下げている。すなわち近年シナリオライティングの側面では麻枝准が評価されてきたとは言い難い。
翻って『Heaven Burns Red』のシナリオは高く評価されているように思える。ストアでのレビューにおいても、後述するゲームシステムの問題を批判する声は目立つものの、批判に際してシナリオを評価している旨を述べているものも目に付く。
『Heaven Burns Red』は「最上の切なさ」を提供することを歌っているゲームであったが、この点について筆者の感想を述べると、「泣きゲー」として売り出しているが、泣くほどに感情を動かされることはなかったといったところだろうが。
まず正直なところ1章の「一定期間ごとに記憶喪失を繰り返すため幼いままの少女」の登場には、またお得意の「退行美少女」を出してきたのか…との印象も持ち、正直なところ笑ってしまった。ゲームパートがメインであるぶん、シナリオが短い一方で登場人物はかなり多く(一章だけでも14人?と考えると)正直なところ普通のノベルゲームと比べて感情移入はかなりしにくい。それも相まって、ある種のテンプレ化された展開にはメタ的な視点の方が勝ってしまった。
一方で2章においてキャラクターが死んだことにはかなり驚いた。キャラクターへの人気を集めて、ガチャで集金を行うシステム上基本的にソシャゲーのシナリオにおいて死人が出るとは思っていなかったためである。たしかに死亡フラグは立っていたもののかなり不意を突かれた。とはいえ泣いたりするほどではなく、メタ的な面白みを感じたという部分が大きい。3章でも予定調和的に死亡フラグを出していた人間が死ぬが、こちらもあまり印象には残らなかった。
ここら辺は結局自分にソシャゲのシナリオで感動する才能が欠如しているという点があるかもしれない。正直なところソシャゲは『デレステ』、『あいりすミスティリア』ぐらいしかやったことがないが、どちらもシナリオを褒める声が散見される一方で、個人的にはシナリオを読むのがかなり苦痛だった。個人的にはソシャゲのシナリオを楽しむには「断片的なシナリオからキャラクターの関係性を妄想し感情を高める能力」「内面が全く描かれないが異常なまでに持ち上げられる主人公に耐える能力」の二つが必要なのではないかと思うが、どちらも苦手だ。
「泣きゲー」という側面以外に楽しめる側面は、舞台設定の「謎」の考察があるかもしれない。三章までに開示された事実としては「実はセラフ部隊はすべてナービィだった」という事実である。こちらについてもなんとなく予想のついていたことで「いわゆる記憶を消してやり直す」レベルの衝撃を持った伏線改修とは言い難い。
正直なところ設定のディテールについては『Charlotte』や『神様になった日』の肩透かし感を考えると過度な期待は禁物だと思うが、アニメと違い尺が無限にあるゲームにおいては麻枝の真の手腕が発揮されるかもしれない。
個人的にはゲームシステムに謎を組み込んでいるのは中々面白いところではあると思う。ゲームのホーム画面が麻枝作品に繰り返し登場する「幻想世界」のようになっていること、「記憶の修復」「転生」「記憶の庭」の意味するところは非常に興味をそそられる点だ。
一応本作は軍隊ものではあるが、設定の粒度に関してはアニメ的な雑設定という印象を受ける。最初に人類の滅亡率の話が出たときには『マブラヴ』シリーズを思い出したが、なんとなく「シンフォギア」シリーズぐらいのリアリティ感を感じる。特に滅茶苦茶短いスカートが軍隊の制服になっているのは個人的に最大の謎だ。(とはいえ比較的重厚なイメージを持っていた『アークナイツ』の服も良く見ると防御力は低そうなので、ソシャゲのお約束ともいえるかもしれない。『マブラヴ』は通称「エロスーツ」に設定をこじつけていたが…)ただし「セラフ部隊が軍隊としては無理がありすぎるように見える」部分は、ゲーム内で今後説明がある部分なのかもしれない。
あとTwitterでトレンドになった「ギャグの寒さ」だが、あまり気にならなかった。天丼とオーバーリアクションは、麻枝准の十八番であり、本作でも存分に用いられているが、この手法自体は一般的なお笑いでも広く用いられているし、特段古いとも思わない。単純にノリの「懐かしさ」を回顧した自分の痛々しさと重ね合わせて「寒い」と感じているのではないかという気もする。個人的には萱森のような狂人キャラはかなり好きで、これがヘブバンを続ける一つの原動力になっている。
ゲームシステム
特に難易度に関する批判が多いように思える。筆者は無課金でも突破できたものの、攻略サイトを見たにも関わらず、攻略に三週間を要した。ゲームをあまりやらないので、これが「難しすぎる」のかはよく分からない。『戦国ランス』よりかは何をやるべきかは明確な気がする。なんとなく『ランス10』の魔物界大侵攻エンドをクリアするぐらいの難易度に感じた。
ゲームシステムの問題点としては外部情報なしでは育成の方針がほとんど立たないことだろうか。とくにダメージ計算式が独特で、ダメージがステータスに対して線形に伸びていかない他、各スキルの攻撃力も検討がつきにくい。有志によって推測されているダメージ計算式を見ると、一定の攻撃力や守備パラメータを超えると一気にダメージが伸びる仕組みになっている。普通はパラメータに対して線形にダメージが伸びることを想定してしまうため、敗北の際に必要パラメータを高く見積もってしまい「難しすぎる」と感じてしまう結果になっているのだろう。
加えて物理攻撃・特殊攻撃(?)の区分もやや分かりにくく、どのパラメーターを上昇させれば相手の攻撃を耐えられるようになるかが分かりにくかったように思える。「精神」「体力」といったパラメータ名もやや分かりにくい。
筆者の場合はリセマラをしなかったにもかかわらずガチャ運が割とよく、SSR萱森、タマ、カレンちゃんなどをバランスよく引けていたため、あとは「精神」パラメーターをあげた「退魔忍」(「精神」パラメータを上昇させる「退魔のブレス」という装備をセットすることからの俗称)たちを育成することによって無事に三章をクリアすることができた。ヒーラーのタマの「リカバー」は10回の使用回数制限を全て使い切るなど結構ギリギリの戦いだった。RPGの難しさは達成感にもつながるし、オンラインゲームで攻略法が口伝で伝わっていく様もある種の一体感があって個人的には難しさはそこまでマイナス要素ではないように思えた。
ただし育成に関してもガチャ以外のランダム要素が多いこともマイナスポイントかもしれない。アクセサリの追加効果は完全抽選でしかも抽選を行ったら有無を言わさず変更される。しかもその追加効果がどれぐらい希少なものなのか?の評価もなく、変更しながら最適に近づけていくのもなかなか難しい。アクセサリの追加効果を解放するゴールドホッパーに関しても、ランダム出現である。スキルレベルの上昇も特に条件は書いておらず、ランダムに思える。(裏で使用回数などに基づいて確率が上がるみたいな仕様がある気もするが)
もっともこの難易度は意図的なものにも思える。本作は「泣きゲー」として設定されており、泣くほどの感動を得るにはゲーム世界への没入が不可欠で、そのためには強敵は強敵として現ることがひつようになるだろう。一方で世間の反応を見るに市場の常識とは反しているのかもしれない。運営は辛抱強い麻枝ファンを武器に市場の常識を覆す勝負を仕掛けているのかもしれない(『Fate Grand/Order』も根強い型月ファンを武器にソシャゲーのシナリオの分量に革命を起こしたとされている気がする。)
個人的にはテンポの悪さが非常に気になる。例えばレベル上げの為にアリーナに行くためには、ゲーム内通貨を稼ぐために必要な交流の際にも同様のシーケンスが挟まれるほか、ときにはシナリオの同じパートを何度も読まされてしまう。また交流後には毎回謎の風呂に行くパートが挿入されるが、これも単調で二三行のセリフを確認する程度の内容なのにもかかわらず、前後に挟まる更衣室を写すシーケンスなどが無駄に長く非常にストレスがたまる。3Dモデルの読み込みに時間がかかっている側面もあるかもしれないので、スマホのスペックの問題もあるかもしれない(とはいえSnapdragon845なので、『原神』ぐらいは遊べるっぽいスペックなのでオンボロというわけでもない気がしている。)
またダンジョンの単調さも問題だろうか。ダンジョンのマップは単調で、冒険のワクワク感とかはなく、単調な3Dモデルの背景をひたすら走る様子を見せられる謎の作業になっている。攻略のためにはダンジョンを走ることがかなり重要になっているため、これもやや楽しくないポイントのひとつであろう。
3Dモデルの出来はイマイチかもしれない。全体的にのっぺりとした印象を受ける。モーションも全体的に単調である。アイドルものとかのCGはもっとかわいらしく、表情も生き生きしている印象がある。
総じていえば10年ぐらい前の出来がイマイチなコンシュマーゲーム並みのゲームシステムといったところかもしれない。無料で遊べる点を加味しても、ゲームとして特段の面白さを見出すのは難しい。
あとついでに言うと課金手段も割と貧弱な印象を受ける。毎日引ける安いガチャといった手軽な課金手段がなく、微課金を行うのがやや難しい印象。
音楽
わりと手放しで好きなのはこの部分だろう。何かといえば声優アイドルの時代に、歌手をきっちりと起用してい麻枝サウンドを追及しているところは素晴らしい。ゲームは今後めんどくさくなって辞めるかもしれないが、サントラは買うと思う。
ただ強いて言えば、インストであまり記憶に残るものがないように思える。
まとめ
色々と不満はあるものの楽しんでいないかといったらそんなことはないというゲームである。正直麻枝准の新作ゲームには不安しかなかったが、おおむね好意的に受け入れられていることに安心感を覚えた。
一方で今後のストーリーの配信ペースが気になるところである。ゲームの重さ的にもあまり気軽にできるものではなく、アクティブユーザーはガンガンと減っていく気がする(ソシャゲとはそういうものだろう)し、やたらと多いキャラクターは開発費を膨らませてしまいそうだ。初動は良くても存続しないゲームというのはいくらでもあるし、運営の手腕が問われるだろう。
きちんと物語の終点まで走り切ることを期待したい。