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夫が私を好きすぎる

私は結婚できないと思っていた。

結婚式当日、ドレス姿の私に友人は口々にこう言った。
「ともりが結婚なんてね。いまだに信じられない」
わかる。だって私自身がそう思うもの。

昔からとにかく負けず嫌い。勝敗が全て。
可愛いよりもカッコイイと言われたい。賢い、優秀と言われたい。
小学生の時から決まって通知表に書かれる言葉は「男勝り」「リーダーシップがある」「しっかり者」。
私にとって男子は、恋の相手ではなくライバルだった。

恋に恋する時期はあったものの(大の漫画好き)、現実に恋をすることもなく、更には女子よりも男子の方が話が合うため、恋愛に発展しない男友達との付き合いばかりが広がっていった。そして、女子にも男子にも恋の相談を受けるようになった青春時代。(これを俗に耳年増という)

中~大学生の間、何人かと付き合ってはみたものの、「恋」も「特別な好き」も、やはりよくわからない。付き合っても長続きしない。そして別れ際に言われる言葉は決まって同じ。

「ともりは俺のこと好きじゃないでしょ?」
「ともりの気持ちがわからない」
この二つ。

「そんなことないよ。好きだよ」
「別れよう」
「……わかった」
「ほら、やっぱりね」
別れを切り出されても、仕方ないと簡単に受け入れてしまう。執着もない。

そもそも恋人とは最優先しなければならないものなのか?
二人で遊びに行くのも楽しいが、大勢で騒ぐのも好きだし、一人の時間も欲しい。基本出不精の私は外出は好まないし、約束自体が面倒臭い。当日互いに気が向けば会えばいいし、時系列では後の約束でも、友だちとの約束を優先したいこともある。

最優先事項は別にあるのに、その度にいちいち申し立てをしたり、機嫌を取ったりしなければならない恋人とは、なんと面倒臭いものなのか。束縛なんて論外だ。

そして当時、女友達からはよくこんなことを言われていた。
「ともりが男だったら絶対に付き合うのに」

「自分(女友達)が男だったら、ともりと付き合いたい」
と言われたことはない。

この似て非なる言葉の意味を理解するのにしばしの時間を要した。どうやら、私は女性としての魅力がないらしい。そして、誰かに自由を奪われるのがとても嫌らしい。

こんな私が「生涯この人一人」という男性を見つけて、ずっと一緒に暮らすだなんて絶対にあり得ないよね。私に結婚は無理だ。20歳にはその結論に至っていた。

結婚

そんなこんなで、結婚適齢期を迎えた私。
ひょんなことがきっかけで、とある男性を紹介してもらうことになった。彼は当時愛知県在住で、地元愛媛県にお盆帰省をしていた。まわりにのせられ、二人きりで会うことになった。

自分のことは棚に上げて失礼を承知で言うが、彼は顔も性格も服装のセンスも、私のタイプではなかった。当然ドキドキもしない。

何せ超絶しゃべらない。絶賛無口。話しかけても、1ラリーで終了する会話。何度話しかけたことか。話しかけるネタも早々に尽きた。初対面の人と無言の空間など耐えられない。そして何より「気遣いのともり」の手腕の尊厳にも関わる。楽しくない空間などあってはならぬのだ。ともりよ、何かネタを! 何とか会話を繋ぐのだ!
——その威勢も空しくデート前半で手折られた。この人と会話をするのは無理だ。

エンドロールが流れる。
「『盛り上げ上手』を自負している私の心を完全にへし折ったのは、君ただ一人だよ。完敗だ。おめでとう。もう二度と会うこともないだろう」

そう心で呟き、帰りの車中、あろうことか助手席で爆睡してしまった。これまで「運転してくれている人の横で眠るなんてありえない!」と豪語していたこの私が、である。

「着いたよ」
笑うでも怒るでもなく到着を告げられ、はっと目を覚ます私。敗北感。

『私は、初対面の人が運転する車の助手席で爆睡するような不謹慎な女では決してないの! 疲れさせたあなたのせいなのよ!』
頭中で理不尽に自己弁護したり、毒づいたりしながら、何かわからないけど敗北感。彼にしてみたら大したことではなかったのだろうけど。

私は、いつもどんな時も誰の前でも「きちんとしている人」だったし、そうあろうと気を張っていた。

帰宅後、一息ついていたら、彼からメールが入る。
「楽しかった。また帰省した時に会いたい」
「は? へ? 噓でしょ?」
今日一日を隈なく思い出しても、彼が楽しそうに見えた瞬間は一度たりともありませんでしたが? いやいやいやいやいやいや。ナシでしょう? 新手の嫌がらせとしか。

その後も遠距離でメールのやりとりは続く。彼はマメな人。そして私はズボラな人。毎日一通は必ず届くメール。最初こそ丁寧に返していたが、だんだん返信も適当になっていく。既読スルーも度々。ごめん、私、女性には割と優しいけれど、男性にはそうでもない。

今度はクリスマスに帰省するから会おうと言われ、彼氏もおらず暇だった私はもう一度会うことになる。

「これクリスマスプレゼント」
明らかに高価そうなダイヤのネックレス。
「付き合ってもいないのに、こんな高価なもの受け取れないよ」
「え?」
「え?」
どうやら……なぜだか……付き合っていると思っていたらしい。この女性慣れしていない感じ……もしや私が初彼女なのか? かわいいヤツめ。
※初彼女ではないと判明したのは後日談。

そんな上から目線もありつつ、何だか無口な彼と一緒に居る空間が嫌ではないことに気付いた。会っていてもしんどくない。沈黙も苦にならない。そんなのは初めてだった。もれなくドキドキもしないけれど。

「友だちからなら……」
どうせ遠距離だし、フェイドアウトするだろうぐらいに思っていた。
※ダイヤのネックレスに負けたわけではない。

だがしかし、なんの話かわからぬまま、私たちは結婚の日を迎える。
そんな馬鹿な。自分が一番信じられなかった。「他人と暮らすなんて神経がすり減るから無理」と思っていた私が、全くタイプではない男性と結婚することになろうとは。(※注意:上から目線が多めですが、私は美人ではありません。すみません)

でもこれだけは言える。
私は誰にでも(勝手に)気を遣う人。
(勝手に)気疲れをする人。
そして彼は、私が助手席で爆睡できた初めての人。

彼は初めて出会った気を遣わない家族以外の人だった。


結婚の条件・契約

そうかといって、結婚生活に不安がなくなったわけではなかった。
この私が「他人と暮らす」なんてできるのか? 気疲れしやすく、自由と一人をこよなく愛する私が? ましてや、彼と私は性格も好みも真逆なのだ。

今の生活レベルを落としたくない。友だちと遊びにも行きたい。美味しいものも食べたい。欲しいものを買いたい。オシャレもしたい。自由を満喫したい。
――私、絶対結婚に向いていない……。絶対、彼に迷惑をかけてしまう。

そこで私は結婚前にいくつか(も)の条件を書き出した。もちろん彼にも書いてもらった。互いが出す条件に合意が出来たら結婚しようと思った。

・虫嫌いなのでいたら必ず確実に処理をしてほしい。
・一人になりたい時は邪魔しないでほしい。
・専業主婦になりたい。
・家事は苦手。期待しないでほしい。でも仕事として一生懸命やるので家事を「労働」として認識してほしい。

他にもたくさん書いた。かなり面倒臭い女だったと思う。でも結婚した後「こんなはずじゃなかった」と思われたくなかった。最低ランクの女をアピールしておいて、もしそれを承知してくれたのであれば、「あれ?思ったよりデキるやん?」と、後は上げていくだけだから、それがいいと思った。保険なのか賭けなのか、あらゆる条件を書き連ねた。そのぐらい私は、結婚という共同生活に不安を抱いていた。

そして、彼はすべての条件をのみ、それでもいいから結婚したいと言ってくれた。神。そして、彼が私に出した条件とは?「思いつかない」……ナシだった。神。

そして私は最後に約束した。
「私は自分大好き人間だから、あなたが私を大切にしてくれている間は絶対にあなたを裏切るようなことはしません。私もあなたを誰よりも大切にします。でも、あなたが私を粗末に扱えば、私はあなたの前から居なくなります」

結婚は契約。大事なのは約束。

得てして始まった結婚生活であったが、私の想像とは全く違うものとなった。専業主婦を宣言していたにも関わらず、知らぬ土地(愛知県)での引き籠り生活は2カ月もすれば飽きてしまい、家に籠っていては友だちもできずと、すぐに自らパートを始めた。家族が増えれば、家事は増えるし嫌いだなんて言ってられないし、赤ちゃんはお世話しないといけないし、夫は思ったより長期出張が多くて、近所に頼れる人も親族もいないワンオペ育児地獄だし……。「思っていたのと違う」と何度も思った。

一人になる時間が欲しいの❤なんてほざいている場合ではなくなったのだ。自分がお世話をしなければこの子は死んでしまうという重圧。人間の命を預かるという責任感。自分のことしか考えていなかった、お世話をしてもらう経験しかなかった独身時代の自分をぶん殴ってやりたい。
子育てって本当に人を成長させるよね。

夫が私を好きすぎる

結婚し20年ほどの年月が流れた。
夫は結婚当初と変わらず私を大事にしてくれている。約束をずっと守ってくれている。

夫は高校卒業後から実家を出て、私と結婚するまで全てを自力でやってきた。収入も十分にある。頭もいい。要領もいい。独り暮らしが長いので家事もすべて自分でできる。健康で体格もいい。イケメン……ではない。
夫はいわゆる嫁いらずな人だ。

いつも思う。この人はなぜ私と結婚したのだろう? 全部自分でできるのに何のメリットもないよね? こんな面倒臭い可愛げのない私よりもっと素敵な女性いたよね? いまだ謎は解けない。

誕生日や記念日には欠かさず花とプレゼントをくれる。何なら母の日まで。※私は記念日を忘れる。

何でもない日でも、「ケーキが食べたいな」と朝呟くと、夜には冷蔵庫にケーキの箱が鎮座していたり、「これ前から欲しかったんだよね」と呟くと、数日後にAmazonの箱が届いたりする。家計の管理は私がしているから、自分のお小遣いで買ってくれているんだよね。

ほぼ専業主婦の私よりも、テキパキと家事をこなす。段取りも要領もいいから、とにかく仕事が早い。やろうと思っていたら終わっていることが多々ある。最近は洗濯機が止まるのを我先にと取り合っている。何をしているんだか。
夢のマイホームは自由設計。私の思う通りの形や色や広さや間取りにさせてくれた。

私が突然赤い髪にしても、個性的な格好をしていても、否定しない。可愛いとも褒めないけれど。どう?と聞くと、親指を立ててgoodサインをする。
※ただの無関心だけな気もする。

日常で私が失敗しても責めない。
※私は夫を普通に責める

私はどんどん甘やかされる。調子にのりそうになる。何をしても、何もしなくても許されるんじゃないか?

前に一度聞いてみた。
「私が家事も何もしなくなったらどうする?」
「いいんじゃない?」

「もし100万円するバッグが急に欲しいって言ったらどうする?」
「100万かぁ……。どうしても欲しいなら買ったら? だってどうしてもそれが欲しいんでしょう?」

「家計が回らなくなるぐらい、私がブランド品を買い始めたらどうする?」
「ともりはそんなことしないでしょ」

つまり夫は私を好きすぎる。
私を全肯定して信用している。
私を喜ばせることに生き甲斐を感じている。
でも束縛もしなければ、嫉妬もしない。恩着せがましい事も言わない。

私はそんな夫を悲しませたり、がっかりさせたり、裏切ったりすることができるだろうか? 否、できない。
※まんまと手の平で転がされているだけな気もする。

実は、そんなパーフェクトな我が夫、超がつくほどの真面目人間で、外では気難しい人なのである。夫の実母ですら夫の扱いに困っている節がある。実家にも私と一緒でないと帰らない。でも夫が実家の家族も大切に想っていることはみんな分かっている。感情の表出が苦手で不器用なだけなのだ。

夫という生き物を手懐けているのは、どうやら私だけらしい。

想像していなかった未来——。
それは私が結婚して新たな家庭を持ち、幸せに暮らせている未来。
それが実現できたのは、夫の存在を措いて他ならない。


想像した通りに創る未来

私は昨年、長年の夢を叶えた。小さな小さな自分のお城、何のしがらみもなく自分のやりたいようにできる場所を創ること。好きなヘアースタイルや服装、自分好みの環境で仕事をすること。そのためにずっと準備をしてきた。私は夢や未来は自分で切り開くものだと信じている。これまでも、これからも、生きている限り、想像している通りの未来を創っていくつもりだ。

目標地点が決まれば、そこに行き着くために一つ一つ、目の前のタスクをクリアしていくだけである。命ある限り、諦めさえしなければ、目標地点までの距離は縮めていける。そしていつかはわからないが、いずれたどり着くはずだ。ずっとそうやって生きてきた。

若い頃は、ただひたすらに自分のことだけを考えてがむしゃらにできた。しかし結婚し守るべきものができると、自分の時間は、自分の体は、自分だけのものではなくなる。自分の時間を確保できない時期もあった。自分の生活の全てが家族の生活を運営するためだけに捧げられる。自己犠牲と言ってしまえば、そうなのであろう。
でもその時間も無駄ではない。無駄な時間などない。「何かのために誰かのために自分を遣う時間」に無駄なものはない。「その間」にしか経験できないことがある。そして「その間」というのは、長い人生のうちで短い時間だったりする。後になって気付くのだけれどね。

今、自分の夢を具現化出来てなおさら思う。強い信念と、自分の経験と、人脈と、周囲の応援(経済的・物理的・精神的・環境的援助)と、何一つ欠けても実現できなかった。そして何より「自分の夢を肯定してくれる家族」の存在なくして、実現は不可能だったことだろう。

夢が具現化しているからと言って、世で言う「成功」を収めているわけではない。経済的には外に働きに出ている方が断然良い。焦りがないと言えば嘘になるが、相変わらず文句も嫌味も言わない夫と一緒にいると、大丈夫だと思える。
夫のおかげで生活に不安もなく暮らせているし、私は相変わらず好きにやらせてもらっている。こんな幸せがあっていいのだろうか。

Love letter

結婚してから恋をした。
これは夫に宛てた初めてのラブレター。

いつも出不精の私をデートに誘ってくれてありがとう。
いつも美味しいランチに連れて行ってくれてありがとう。
いつも綺麗に着飾らせてくれてありがとう。
いつも労ってくれてありがとう。
いつも突飛なことを始める私を見守ってくれてありがとう。
いつも好きに自由にさせてくれてありがとう。
いつもタイミング悪く病気にかかる私の看病を優しくしてくれてありがとう。
いつも全肯定してくれてありがとう。
私を選んで結婚してくれてありがとう。
私は世界一幸せ者です♥

Till Death Do Us Part……
これからもよろしくね♪

私も夫を好きすぎる—— 了




≪おまけ》
★ちょっと心配エピソード1
「ねぇねぇ、私が20キロ太っても、好きでいてくれる?」
「・・・・・・う・うん」
→今すでに10キロ近く増量しているけど、まだ大丈夫そうです♪

★ちょっと心配エピソード2
「何でいつも私の意見を尊重してくれるん?」
「だって、どうせ自分が意見言っても、結局はともりの意見を通すやん」
→・・・・・・。

※愛妻家ではなく恐妻家ではないのか?との疑惑が浮上しておりますが、間違いなく「愛妻家」ですのであしからず♪

★夫婦円満の秘訣?
・喧嘩は翌日に持ち越さない。どうせ仲直りするのなら早い方が良い。冷静になって話し合って解決する。
・一日一回はスキンシップ。ハグでも握手でもほっぺにチュウでも。
・時々デートをする。(子どもが未就学児の間はちょっと難しいけれど)
・相手を労う、尊敬する。

笑う門には福来る❢❢❢


以上、本当みたいな嘘の話?嘘みたいな本当の話?でした♪
ボリュームありすぎた😅

#想像していなかった未来
#嘘か真かわからないお話

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