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記事一覧
毒の反哺 第2話 斎藤由奈
どうやら、私は死んでしまったらしい――。
私は斎藤由奈。高校3年生。趣味はなし。特技はコンビニのバイト?
死んだときの記憶は全くないが、茶碗が割れる音で目が覚め、母親が泣き叫ぶ声がうっすらと聞こえた。ぼんやりと『私、死んじゃったんだ……』と認識していて、そして、なぜか今 美月に話しかけている。どうやら、二人で撮ったスマホの中の写真の私が話しているらしい。私は、やけに落ち着いていた。
毒の反哺 第3話 矢野翔太
幼馴染の由奈が死んだ――。
俺は矢野翔太、大学2年生。由奈とはアパートの隣同士で、お世辞にも裕福とは言い難い家庭で育った俺たちは、時に助け合い、互いに兄妹のように慕っていた。2歳の時に両親が離婚して、それからずっと母親と二人で暮らしている。母親は働き詰めで、一緒に遊んだ記憶もなければ、疲れ切った顔と寝ている姿しか見たことがない。食事といえば、昼は給食、朝夕食は菓子パンか廃棄寸前の弁当があればい
毒の反哺 第4話 鈴木凜
鈴木凛。小学3年生。母親と二人暮らし。
6月9日㈯11:30。
いつもの場所で由奈姉ちゃんを待つ。出会って、ちょうど1年ぐらいかな。美人で優しくて大好き。いっぱい遊んでくれるし、食べ物もくれる。髪も可愛くしてくれるし、凛を変な目で見ない。いつからだろう。お部屋がぐじゃぐじゃになったのは。おばあちゃんがいなくなってからかな。
その頃から、近所のおばちゃんたちがヒソヒソ話をするようになった
毒の反哺 第5話 こども食堂
キリスト教徒ではない美月と翔太は、教会に行くのは初めてだった。落ち着かない様子の二人とは裏腹に、鈴木凛は慣れた様子で、ボランティアで参加している地元の大学生や、地域の人達に人懐っこく話しかけていた。凛は、年齢よりも体が小さく痩せていて、幼く感じる子だ。
「こちらにお名前と連絡先を書いて頂けますか?連絡先は代表者の方のみで大丈夫です」
受付の人に言われ、美月は自分の連絡先と3人の名前を書く。
毒の反哺 第6話 広瀬琴美
9年前、自分が担当していた少女が自殺した――。
私は広瀬琴美、32歳。長栄市児童福祉課こども相談室の相談員。要保護児童対策地域協議会(通称:要対協)の一員で、主に虐待を受けた子どもや家庭の支援をする仕事をしている。
6月11日(月) 16:30
担当児の家庭訪問の帰り道、公園のベンチで横たわる女児と女子高生が見えた。先ほどまで一緒だったバディが別件対応で別れ、一人になった矢先だった。
毒の反哺 第7話 鈴木さやか
鈴木さやか、25歳。凛の母親。スナック勤務。高校2年の時に妊娠が発覚、中退。17歳で凛を出産。今は母親(凛の祖母)が家を出て、凛と二人暮らし。
6月11日㈪18:30。
出勤の身支度をしていたら、インターホンがなる。
『あー、面倒くさい。無視無視』
「こんばんは。児童相談所の者です。鈴木さん、いらっしゃいませんか」
『あー、もう、また?今出ないと、また面倒くさいことになりそうだな』
「
毒の反哺 第8話 斎藤奈津子
娘の由奈が死んだ。私は何を間違えたのか――。
斎藤奈津子、37歳。由奈の母親。午前中は工場勤め、午後はファミリーレストランで勤務。
***
6月11日㈪18:00。
由奈が亡くなってから、ずっと頭に靄がかかっている。由奈はなぜ、死ななければならなかったのだろう。毎日ただむなしく時間が過ぎていく。
インターホンがなる。ドアを開けると、翔太と由奈の親友の美月ちゃんが立っていた。
「お
毒の反哺 第9話 仙波浩平
オレの娘が死んだらしい。まぁ関係ねぇけどな――
仙波浩平、38歳。夜の仕事の斡旋、キャストの送迎。
オレが1歳の時、親父が会社でなんかやらかしたとかで、一家心中しようとして自宅に放火した。運よく(良かったのか悪かったのかはしらねぇが)、オレだけ救出された。すべてが燃えて親の顔も覚えちゃいないし、親族は、親父のやらかしたことの責任を負わされるのが嫌とかで、絶縁状態だった。
というわけ
毒の反哺 第10話 廃墟ビル
斎藤奈津子からあの日の話を聞いた後、美月と翔太はいつもの公園へと向かった。ベンチに座り、3人で写っている写真をスマホに出す。3人でこれまでの情報を整理する。
6月2日㈯
●11:30 凛ちゃんといつもの場所で待ち合わせ
●12:00~15:00 教会のこども食堂に参加
●15:30 帰宅
●16:00 母親と喧嘩
●18:00~18:30 仙波浩平訪問
●18:45 翔太と玄関で会話(どこ
毒の反哺 第11話 九条直哉
うちの学校の生徒が、うちのビルで転落死した――。
九条直哉 24歳、私立高校養護教諭、心理士《しんりし》。資産家の息子、九条ビルのオーナー。趣味は絵画。
僕は資産家の一人息子で、父が60歳、母が25歳の時に生まれた。家には たくさんの使用人がいて、欲しいものは何でも手に入り、美しいものに囲まれて育った。忙しい両親と顔を合わせることはほとんどなく、使用人が常に僕の傍で世話をしてくれたもの
毒の反哺 第12話 真相
6月2日㈯ 15:00
今日も、こども食堂は予定通り完遂できた。九条からの莫大な寄付金も入り、今月から毎週土曜日の開催となる。これまでは無償だったボランティアへの謝礼金も賄えるかもしれないと、運営は いきり立っていた。由奈はいつものようにおばちゃんたちに挨拶をして帰り支度をする。
「由奈ちゃん、いつもありがとね!また来週!」
「おばちゃんこそ、いつもみんなのためにありがとね!今日のご飯もおいし
毒の反哺 第13話 それから
九条と琴美が話をしている頃、翔太もビルに駆けつけていた。由奈から急いで九条ビルの4階に行くように言われたのだ。「美月が危ない! 美月を助けて!」とスマホの中から叫んでいた。非常階段から登り、4階の非常口が開いていることに気付く。中に入るとローマ調の部屋があり、奥のベッドの上で美月が横たわっているのが見えた。
「田嶋さんっ! 田嶋さんっ!」
ゆっくりと目を開ける美月。
「あれ……? 翔太……さ
毒の反哺 第14話 5年後【最終話】
大学で福祉を学び、卒業後ソーシャルワーカーとなった美月は、長栄市役所の児童福祉課の相談員として勤務して、4カ月が経った。上司の中には広瀬琴美もいた。慣れない仕事ばかりだったが、先輩たちにアドバイスを受けながらなんとか仕事をこなしていた。
「美月ちゃん、午後からの訪問、一緒に行ける?」
「はい、今日は午前中に一件面談が入っているだけなので大丈夫です」
「そう。じゃぁよかったら、昼休みになったら