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私が本屋をひらくなら
いつか、本屋さんをひらくのが、小さいころからの夢だった。
noteをさまよっていたら、 #本屋さん開店します という、とっても素敵な企画があったので、私も妄想で本屋さんを開店しようと思う。
私が本屋をひらくなら。
駅に続くアーケード街の、いちばん端の角っこがいい。
その店は、朝の7時半にシャッターを上げる。
3駅むこうは、県庁所在地。そこにはたくさん学校がある。
学生さんたちは、みな7時40分の電車に乗る。
本屋の店先に、店主である私がいればセーフ! 乗り遅れることはない。
その店が閉まるのは、夜の8時。
すぐとなりのとんかつ屋さんは、8時半がラストオーダーだ。
今夜はガッツリ食べようと決めていた仕事帰りのサラリーマンは、本屋のあかりが路地に伸びているのを見て、歩調を少し緩める。
そんなふうに、その町に暮らす誰かの、生活の一部になれたらいいと思う。
入ったことはないけれど、そこにあるのが当たり前。
いつもの帰り道を照らす、街灯のような存在。
そういう本屋さんをひらきたい。
私が本屋をひらくなら。
ほんの少し、非日常を感じられる場所でもありたい。
その店の入り口には、宮沢賢治の『注文の多い料理店』よろしく、こんな看板が立っている。
「当店は、たいへん時間のかかる本屋です」。
恐る恐る入ってきたお客様は、面食らうだろう。
薄暗い店内には、一冊も本が置かれていないのだ。
普通だったら、本でひしめき合っているはずの平台には、なぜかドールハウスが鎮座している。
かなり大きくて、精巧なものだ。
居間に寝室、子ども部屋、キッチンにバスルームまでついている。
しげしげと眺めていると、奥から声がする。
「その中で気になった部屋はどこですか?」
「・・・えっと、あー強いて言えばバスルームかな?」
驚きを隠して答えると、店主の顔がぬうっとドールハウスの上に現れる。
「バスルームですね。では、一週間後にまたここにいらっしゃい。それまでにあなた用の本を用意しておきますので」
果たして一週間後、無地のラッピングペーパーに包まれた本をお客様は受け取る。
本と家具は、似ている。
疲れたときには、寄りかかれるソファーが恋しくなるように、そっと心に寄り添う優しい本が欲しくなる。
ドールハウスの部屋を選ぶのにも、そのときの気持ちが反映されるだろう。
バスルームを選んだお客様には、身も心も温まる素敵な本を用意したい。
それが寝室だったなら、なにもかも委ねられる安心感のある本を。
書斎を選んだお客様には、誰にも言えない秘密があるのかもしれない。
選書をするのが私だけでは、きっと狭くてつまらない。
だからこの本屋さんは、会員制。
選書をするのも、本を購入するのも、どちらも会員さま。
全国から会員を募って、お互いがお互いのためを想って本を選びあう。
本を心から愛する人たちだから、選書にはとっても時間がかかるのだ。
だから、「たいへん時間のかかる本屋です」。
そういう本屋さんがあったらいい。
私が本屋をひらくなら。
身近にロールモデルとなる人が見つからないで困っている若い人のための、灯台みたいな存在でありたい。
自分は少し変わっているのかな、と不安に思っている人の避難場所でありたい。
本の中には、マイノリティがたくさんいる。
世間という偏見に立ち向かって生きる、弱くて強くて、カッコいいけどカッコ悪くて、情けなかったり、ダメダメだったりするけれど、もがいてあがいて一生懸命な登場人物(ときには作者自身)たちが。
私は、ただ年を食っているだけでちっとも役に立つことは言えない。
言えたとしても、年長者の説教ほど、うざったいものもない。
だけど、もし、今生きづらさに悩んでいる若い人がいるならば、同じ思いをしてきた経験者として、本を読むことが苦難を乗り越える一つの方法になるってことを教えてあげたい。
「大丈夫、今はつらくても、年をとったら楽になるよ。本当だよ!」
「あなたみたいな人間は、決して一人じゃないよ! 似た境遇の人はいるし、生きる方法はちゃんとあるんだよ!」
そういう気持ちを、本に託して届けたい。
小説だったら、主人公の境遇だったり、悩んでいることだったりを、さりげなくPOPで紹介したい。
お守りとしてずっと心にとどめておきたい哲学者の言葉も、そっと店内に忍ばせたい。
びっくりするような動物の生態に、自分を重ねてもいい。
宇宙の果てしなさに慰められることだってある。
敬遠しがちな評論が、世界の見方を変えてくれることもある。
本の読み方、受け止め方は、無限だ。自由だ。
読み手の生き方、考え方が無限で自由なのと同じなのだ。
誰かと同じである必要はない。
大丈夫。
世界はそんなに狭量じゃない。
そういうことを、うっすら感じられる場所として、私は本屋をひらきたい。
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