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2020年11月の俳句。

ストレッチし まま寝転んで 小六月

小六月は旧暦十一月の古称、晩秋から初冬にかけての春のように暖かな日よりをいう。
俳句では小春と同様に使われる。


ほろほろと 手に花柄を 冬に入る

数年前から サンゴバナという草花を家のなかで育てている。さんごのようにピンクの花が咲くことからそのように呼ばれているらしい。
花が咲いてからしばらくそのままにしていたら やがて穂のようになり。もういいのではと手に触れたらほろほろと崩れて手の中に落ちた。


薄闇に 花苗植えて 冬赤根

冬あかねは冬の夕焼けのことをいう。
ヘルパーさんに掃除をしてもらい、ふと今日生協で持ってきたガーベラの小さな花苗が傘立ての横に置かれたままになっていたことに気づく。
五時近くになると この時期はもう外は薄暗い。
その夕焼けの残り日のようなほのかな明るさの中でガーベラの花苗をヘルパーさんと植えた。


むくむくと 個を立ち上げよ 文化の日

例年は文化の日は町の文化祭に地元の音楽サークルの一員として参加していたのでいつもあわただしく過ぎて行ったのだが、今年はコロナの影響で町の文化祭も中止となった。
代わりに生じた自由時間をどうするのか、
私の場合はソングライターと文芸の創作をたんたんと取り組んでいた。
自分の中から小さな雲のようにむくむくと湧いてくる何かをたよりに少しずつ前進である。


予防接種 報告したし 神無月

今年はコロナのこともあり、十数年ぶりにインフルエンザの予防接種を受けて来た。
不思議なもので 今日予防接種をやってきたよとだれかに言いたくなるものだ。
そういえば周囲の人も 今日やってきたのよとだれかれとなく話していた。


地を鳴らし 象の送信 霧の海

踏みしめて 骨伝導す 象の耳

インドネシアのスマトラ大地震の際 スリランカにいた象たちは津波が押し寄せる一時間ほど前には それを予感していたかのように丘へ避難したという。
これは象の持っている感覚、特に聴覚の鋭敏さによるものではないかといわれている。
象は巨大な足で地面を踏みしめながら歩いている。このときに生じる音は地面を伝わり遠くはなれた象たちににも伝わっていく。象はその巨大なからだそのものが骨伝導として足からの聴覚的振動を増幅して聞くことができるのだという。
こうして遠くはなれた津波の存在も認知できたのではといわれている。


コーヒーの青葉 冬日に かがやけり

一年ほど前にコーヒーカップほどの小さな鉢植えのコーヒーの樹を買った。
最初は10センチあるかないかという大きさだったが、今は30センチほどの大きさに。
コーヒーは常緑樹で観葉植物としても人気があるらしい。
すべすべして光沢のある青葉が冬のひかりをうけて照り輝いている。
照葉樹ということばを思い出す。照葉樹は強い陽光から葉を守るために油分で葉の表面を守っている。
いわば人間が使うサンオイルのようなものだという。
コーヒーが照葉樹なのかどうかはわからないが、すべすべした触感といい、光沢といい コーヒーは自前のサンオイルを持っていそうである。


とびの声 流れし冬の 浜通り

ヘルパーさんとコンビニからの帰り 家の近くまで来たとき 上の方でとびが鳴く声が聞こえた。
あのピーヒョロという独特の声が 今日はどこかのんびりと風に鳴かれて行く。
しばし足を止めて聞いてしまった。


指は弦に 弾かれ よりそう 冬の星

クラシックギターの音は穏やかで柔らかな響きを有している。
それは指が弦を弾いていると同時に指は弦に弾かれ 弦を弾く指の筋肉は心地よく緊張しそして発音と同時に 解放される。
減と指は弾きあって別れてはよりそい むつみあうエロスである。
この句のよりそうということばは 上の弦と指にも 下の冬の星にもかかっている。
音楽と数学と宇宙の均衡を探求した 古代ギリシャのピタゴラス学派のことばを思い出させるように 地上のギターの響きは天井の星々に呼応してエロスを奏でているのだ。

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