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2020年10月の俳句。

回覧板 秋雀 舞う 所まで

回覧板は通りをはさんだ向かいの家から回ってくる。
十年前まではすぐ隣の高齢の一人暮らしの女性の家まで持っていけばよかった。
しかし彼女が亡くなってからその隣の高齢者の夫婦が住んでいる家までもっていくことになった。
しかし五年前にその老夫婦も相次いで亡くなり、その先の三軒目の家まで持っていかなければならなかった。
しかしそのお宅も昨年に家がひどく老朽化したために家を捨ててどこかへ行ってしまった。
それでさらに先の四軒目まで持っていくようになった。
ヘルパーさんと二人でそのお宅を訪ねると 庭先で 雀が集まってさかんに鳴いていた。


浜通り 海遠くなる 秋の暮れ

風白し 舞われ白寿の 木馬たち

風邪白しは空きの季語、白は五行思想では秋に相当する。詩人の北原白秋の名前もここから取られた。
豊島園のメリーゴーランド(回転木馬)エルドレッドは 大正期から操業100年を持って閉園となった。


足跡も 化石となりぬ 月の海

銀杏散る むかわの谷に 竜目覚む

恐竜の足跡も 化石として発見されるという。
ところが足跡どころか 全身の八割に匹敵する骨格化石が北海道のむかわ町で発掘されたという。
2004年から2014年までの発掘を経てそれが日本の新しい品種の恐竜の全身化石であることが判明された。
名前はむかわ竜、正式には カムイザウルスジャポニクスと命名された。
月の海はアポロ11号によって人類が初めて月面に足跡を記した場所、正確には静かの海と呼ばれる。
月面着陸を初めて成功させた「アポロ11号」
「これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」。
*この言葉は、人類史上初めて月面に立ったニール・アームストロング船長の言葉です。
1969年7月20日午後4時18分、ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン飛行士は、月着陸船イーグルで「静かの海」に着陸しました。
月面での滞在時間はわずか1時間36分ほどでしたが、21kgの月の石を持ち帰り、地球に無事帰還しました。また、アメリカとソ連の宇宙計画で亡くなった5人の宇宙飛行士のための記念碑を月面に置きました。


オリーブの こんもりと紺 秋の雨

切り分けて バームクーヘン 鱗雲

近年は最初から切り分けられたものも販売されているが、専門家によると本当のバームクーヘンの味は切り分けられた直後にいただくに限るという。
確かにそんな気がする。


秋夕焼け トランペットの 音色して

秋の夕焼けは 色も淡くたちまち消えていく。
まるで 哀愁のこもったトランペットの音色のように。


十月の 肩までつかり 包まれる

夏の間は入浴もシャワーですませていたが、十月にはいると バスタブにお湯を溜めて入ることになる。
肩まですっぽりと湯にくるまれると まるで羊水に漂う胎児のように脱力してしまう。
半身浴が健康にはよいという説もあるが、やはりこの感覚は人間生来のものだろう。


樹木墓 赤 白 小菊みなで植え

いすみ市にも 樹木を破壊しとして用いる いわゆる樹木墓のお寺があるという。
知人が法事のためにそのお寺を 兄弟で訪ねたという。
普通ならお墓に備えるのは切り花だが、ここでは 小菊を周辺の土に植えたのだという。
なるほどと思った。


宴をぬけ 窓に寄り添う 初時雨

学校のOB会か 何かの親睦会、ふらりと酒席をぬけて 窓辺で降り出した冷たい雨を一人 眺めていると、だれかが「よく降るね。」などと言い名からそっと寄り添って 話しかけてくる。
それは若い時代を共有していた二人の思い出話か、それぞれの配偶者には言えない胸に収めていたささやかな内訳話か。

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