「宇宙紀行」を記す flight,2 〜星のように散りばめた無数のオマージュ&制作意図を徹底解説〜
6月15日(水)、約1年ぶりにFlehmannさんと共同制作したコラボ楽曲第4弾「宇宙紀行- Cosmo Night Paradox-」が配信された。
重力を感じる低音域の打ち込みと輝く星のようにきらめくサウンド、宇宙をテーマに身近なパラドックスを謳った歌詞が融合した本作は、手前味噌だが見事な化学反応をみせたと自負している。
YouTubeではMV、SpotifyやiTunes等の様々なサブスク配信サービスからも聴くことができ、さらに「フリーBGM」として映像の音楽素材にも使用ができるので、リスナーの方は存分に聴いて頂き、クリエイターの方にはDOVAの規則に則った上で、文字通り「ご自由に」使って頂きたい。
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本記事では、歌詞に出て来る用語解説と合わせて、本作に隠した幾つかの秘密を綴ってみた。楽曲のテーマが宇宙というせいもあってか、文章量も果てしなく広がってしまったために、その空間を漂うようにゆっくり読んでもらいたい。
また、先日Flehmannさんと2人で行なったYouTube生配信でも話をしてるので、是非そちらのアーカイブも視聴してもらえるとなお嬉しい。(動画は本記事の最下部)
本作の歌詞(全文)
宇宙にまつわる用語解説
歌詞の(※)がついてる部分が、宇宙にまつわる用語となる。全て「英語」で表現されているのは、歌詞の全文を見た時に、宇宙空間に散りばめられた星のように点在する宇宙用語を見つけやすく、観測しやすくしたかった為だ。
(※1)Vega - ベガ
(※2)Sirius - シリウス
(※3)MilkyWay - ミルキーウェイ
(※4)Metropolis - メトロポリス
(※5)SuperNova - スーパー・ノヴァ
(※6)Bigbang - ビッグバン
(※7)Satellite - サテライト
(※ 8)Andromeda - アンドロメダ
(※ 9)syzygy - スィズィジー
(※10)Hyades Ptolemy's Pleiades - ヒアデス・トレミー・プレアデス
本作に隠された幾つかの秘密
乗車している汽車は 「銀河鉄道999」
本作の冒頭には、天の川銀河(MilkyWay)を汽車が走る様子が描かれている。お察しの通り、この乗り物のモデルは、松本零士著「銀河鉄道999」に登場する地球発アンドロメダ行の超特急・大銀河本線(999号)だ。
宇宙船やロケットでも良かったが、本作の世界観を演出するため、なるべく身近な乗り物である鉄道が宇宙を旅するというほうがより未来的かつ、ファンタジー的ロマンスを感じられると思い、銀河鉄道をモデルとして描くことにした。
宇宙を駆ける汽車に乗り傷心旅行に出掛けた主人公は、何処かの星で乗り換えてまた地球に戻る。旅行中の出会いはまさに「未知との遭遇」だろう。
セワシのパラドックス
印象的であろうサビの「SuperNova」。「Nova」はネイティブに寄せた発音ともとれるがそうではなく、これはあの「ドラえもん」に出てくる「野比のび太」の「のび」を限りなくノヴァに近い形で発音したものである。
諸説あるので一説として読んでもらいたいのだが、読者の方は「セワシくんのパラドックス」をご存知だろうか。のび太とジャイ子の孫の孫にあたるセワシは、お年玉が100円しかないような生活を不満に思い、ドラえもんをのび太の元に送り込む。そしてその原因であるのび太を矯正し、見事に貧困を回避。その際、結婚相手がジャイ子から「しずか」に変わっている。
のび太としずかが結婚したことにより過去が改変され、その影響によりのび太とジャイ子の子供であるセワシの存在しない未来となる。しかし、セワシが未来に存在していなければ、ドラえもんをのび太の元へ送ることができない。といったもの。有名なところでいうと「親殺しのパラドックス」に近い。
パラドックスを理解した時に最初に頭に思い浮かんだのは、この「セワシくんのパラドックス」だった。その時から日本屈指のSF漫画である「ドラえもん」関連の要素を歌詞のどこかに忍び込ませたい衝動が生まれ、行き着いたのが「SuperNova」だっということだ
坂本九 「見上げてごらん夜の星を」
「それより見下ろしてごらん 夜の星が歌ってる」という歌詞は、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」の歌詞にインスパイアされている。
2022年もごく限られた一部の人間しか行くことが出来ない宇宙。星は現在も「見上げる」ものだが、いつの日か誰もが宇宙船に乗り、星を「見下ろす」ことの出来る未来がきたら…と想像を巡らせることがある。
しかし、自分はジェットコースターなどのGがかかる乗り物や、高いところが大の苦手だ。飛行機すらままならない自分に例えば友達から「今度の休みに火星いくけど、一緒に来る?」と誘われたとしても、悩んだ挙句断り、友達が乗った宇宙船を地上から見上げていることだろう。
それはそれで、いい。
憧れは、憧れのままが美しいこともあるのだ。
車内で出会った少年は 「鉄郎」
鉄郎は銀河鉄道999の主人公で、機械の体にしてもらう為メーテルと共にアンドロメダを目指す少年。銀河鉄道をモデルにしておいて、鉄郎が出ない物語など面白くもなんともないので、半ば強制的に登場させた。
しかし、そういった表面的な部分以外にも、鉄郎を登場させたのには理由があり、それは本作の主人公が何者なのかということに深く関係がある。
攻殻機動隊とヨコハマ買い出し紀行
実は歌詞を書きはじめた頃すでに「Cosmo Night Paradox」という言葉は思いついていたのだが、曲名に使うならもう少しわかりやすい表現が出来ないかと思い悩んでいた。
鈴木何某feat.Flehmamnの作品はいずれもロイヤリティーフリーな為、動画クリエイターたちが「音楽素材」として利用する側面も持つ。なので、曲名を名付ける際は「見ただけでだいたい想像がつくわかりやすいネーミング」にすることを心掛けている。
歌詞の作成の為にSF関係の情報を集めていた時に「攻殻機動隊」の記事をみかけ、サブタイトルに「GHOST IN THE SHELL」がついていたことを思い出した。さらに調べると、「GHOST IN THE SHELL」は原作者による漫画タイトルの初案だったそうだが、編集者にもっと派手なのはないのかと問われ後から「攻殻機動隊」という名前が出てきたのだという。
そもそも、曲名にサブタイトルをつけるという発想自体なかった自分にとって、この例は目からウロコだった。サブタイトルを使えばパラドックスと宇宙の両方を違和感なく含めることが出来るし、何より自分の厨二心をくすぐる。
早速「宇宙」を使った曲名を考えはじめ、沢山出た候補の中から最もわかりやすさが重視された「宇宙旅行」を仮タイトルとして選定した。確かに、最初は気に入っていた。だが、サビの「SuperNova FlashBack Days」というフレーズと「旅行」というワードがアンバランスに感じしまい、気になって仕方なくなってしまった。
含みを持たせたような良い単語があれば、、と考えていた時に思い出したのが、月刊アフタヌーンに連載していた芦奈野ひとし著「ヨコハマ買い出し紀行」という漫画。実際に読んだことはないが、キャッチーさでいえば完璧ともいえるこの漫画タイトルを自分は気に入っていた為、常に頭の片隅に置いてあったのだ。
「紀行」とは、旅行の行程を記した文のことをいう。意味的にも本作の内容にあっていたし、含みがあり個性も出る。会話の中で言葉にすると「宇宙機構」にもとれるので、JAXA(宇宙航空開発機構)と勘違いしてしまう点も「あ、そっちの紀行ね」のようなコミュニケーションが生まれるのではないか、という想像もしていたりする。
旅行より紀行のほうが過去っぽいニュアンスもある為、FlashBack(蘇る記憶)との調和もとれる。以上のことから、旅行の代わり紀行を採用し、本作の曲名が「宇宙紀行- Cosmo Night Paradox -」に決まった。
本作の主人公のモデルは 「アトム」
本作の主人公のモデルは、日本国民誰もが知る「アトム」だ。主人公がロボットであったことに驚く人も多いと思うが、それもそのはず。アトムなどのロボットが情操教育を受けて人間に近い存在になり、人間と同じような思考をすると考えると、なんら人間と変わらない内容になって「ロボット要素」も歌詞からは消えていく。
強いて言えば「号令」という単語。「命令」などはよく耳にするが、「号令」は学校の「起立・礼・着席」くらいしか思い浮かばないだろう。号令とは、上位の者が多くの下位の者に、大声である事柄を申し渡すことをいう。あるいは今も世界のどこかで起きている戦争でも使われる言葉かもしれない。
本作の世界では、シンギュラリティ(人工知能が人類の知能を超えること)は起こっているものの、人とロボットのヒエラルキー(ピラミッド型の段階的組織構造)は変わっておらず、悲しいかな、ロボットは人に「逆らえない」という設定だ。その号令が「トンチンカン」だとわかるが、人には逆らえないようにプログラミングされた「感情」を持つロボットたちは、不満だけ積もっていく。
ただ、これはロボットに限った話ではなく、人にだってヒエラルキーは存在するし、酸素が薄くなるような理不尽な状況も存在するために、また現実にも重なっていく。そこで歌詞から一つ、また一つとロボット要素がたち消えていく。
ちなみに、歌詞の中に鉄郎とアトムを出会わせた理由は、アンドロメダに着く前に、鉄郎に大事なことに気付いて欲しかったからだ。いくら鉄郎が強い機械の体を手に入れ親の仇をとろうと、人の心を持つ限りその恨みを完全に晴らすことなんてできないし、その先に待っているのは「機械人間」として「使われる」ことになる、ということを。
鉄郎に出会い事情を聞いたアトムは「ロボットなんて、そんないいもんじゃないよ。」と声をかけ、去る彼の後ろ姿を見ながら心の中で「彼の未来に、幸あれ。」と願っている。
なぜ沢山の名作をモデルとして扱ったのか
我々の世代は一度でもプレイしたことはあるだろう名作ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ」。様々なゲームの人気キャラクターが一同に集い、キャラクターの個性を活かしバトルするという夢のようなゲームだ。
ポケモン第一世代である自分も子供時代はもちろんプレイしており、友達の家に行っては任天堂64でスマブラをして、よくハメられて友達との関係がギクシャクしたものだ。初代の発売から数十年たった今でもその後様々な新機種でも発売、アップデートされている大人気のゲームで、日本のみならず世界中に熱狂的なファンを抱えている。
そして、忘れもしない、2021年10月19日。「大乱闘スマッシュブラザーズ Special(Nintendo Switch)」に、あるキャラクターが追加された。発表された際、言葉が出ずフリーズする者、歓喜の雄叫びをあげ飛び跳ねる者など、驚きのあまり理性を失うファンが続出し、そのファンの誰もが作品のテーマ曲である宇多田ヒカルの「光」に涙した。
キングダムハーツの「ソラ」だ。
ご存知の通り、キングダムハーツはディズニーとスクウェア・エニックスのコラボレーション作品で、全世界でとんでもない数のファンを抱えている。誰しもが「ソラ」のスマブラ参戦を望んでいたものの、ディズニーというこれまたとんでもなく高い壁が存在している以上、ほとんどのファンは「不可能」であると諦めていたことだろう。任天堂はその高い壁を打ち破り、偉業を成し遂げたのだ。
そんな「夢の共演」を実現させた任天堂のように公式的には出来ないものの、作品に忍び込ませて楽しむことは出来るだろうと思い、本作に名作の影を沢山登場させた。
単に、見たかったのだ。存在していた時代も、人かロボットかも、二次元か三次元かも、全く違う「宇宙」に創造された希望の光が一同に集まるところを。
そして「アイツにお前が言われたこと、腑に落ちないのはわかる。でも、それをいつまでも悩むより、こっちに来て眺めてみな、星が綺麗だよ。」と彼らに自分自身も慰めて欲しかったのだ。
さいごに
生配信でFlehmannさんが「音楽制作は趣味でやってるのに最近忙しい。趣味は余暇時間でやるはず。おかしいな、、と思ったのが、パラドックスをテーマにした曲を作ろうと思ったキッカケ」と話していた。
パラドックスは日常に溢れている。かくいう自分も、生きているだけなのに、自分とはあまり関係ない2つの反対意見に挟まれて謎のジレンマに陥ることだってある。そうゆう時は、やっぱり少し疲れる。「これって俺が考えることなの?」とか「正直どっちでもいい、面倒だから早く終わってくれ」など思いつつ、気がつけば遠くの空を眺めていることが多い。
放置すると「お前は何も考えていない」などと矛先を向けられ吠えられることもあるので、結局自分の意見を言わなければいけないわけだが、そのほんの一瞬、空を眺めている「数秒の逃避行」こそ本作で自分が表現したかったことだ。
すぐに答えを出す判断力も必要だが、ゆっくりと時間をかけ自問自答を繰り返すことが自身の成長につながることだってある。「焦らず急げ」とドヤ顔でパラドックスを突きつけられたら、こちらは涼しい顔して同様にパラドックスで返してやればいい。
「急がば回れ」と。
おまけ
「宇宙紀行」の高音パートレコーディング
本作のレコーディングを行ったのは、自身の単独作品「蒼鷺」のレコーディングの翌々日だった。「いかに理想に近い形でレコーディング出来るか」が仕上がりに大きな影響を与えることを「蒼鷺」で学んだ自分としては、どれだけ難しい曲でも「これが自分の答えです」と胸を張って言える歌をなんとしても録りたかった。
カメラの存在すら忘れ、演技なしの完全ノーカットだけに世に出すのは躊躇ったが、裏声と地声の切り替えポイントやビブラート一つとってもこだわりにこだわり抜いたことであるし、せっかくなので掲載することにした。
2022.6.18 鈴木何某×Flehmann YouTube生配信
本作の公開前に行われた生配信(現在非公開)は120名近くのリスナーに視聴してもらい大いに盛り上がった。上記の生配信は公開後に実施したもので、30分程度を予定していたにも関わらず、楽しさの余り延びに延び、1時間半になってしまった。
作編曲、MV、生配信と、本作でも沢山担当してくれたFlehmannさんには感謝しかない。忙しい中、相変わらずのとんでもないスピード感で色々とご提案いただき、心から凄い人だと思う反面、本作のきっかけになったようなパラドックスが今後起こらないように願うばかりだ。
では、「宇宙紀行 - Cosmo Night Paradox -」の益々の活躍を祈りつつ、東京百色眼鏡の時と同じような言葉でこのnoteを締めたいと思う。
Flehmannさんは、宇宙人だった。
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