アイマスを1ミリも知らなくても、この劇中劇ドラマCDを聞いてくれ ~『誰ソ彼ノ淵』~
【『派生のドラマCD』と侮るなかれ】
皆さんは、自分の推しコンテンツのドラマCDを聴くだろうか。特に、シングルCDの付録として付いてくる『聞くもよし聞かぬもよしな』ドラマCDなど。そう、アイマスにもよくあるやつだ。
そして「ああいうドラマCDって、キャラの魅力は堪能できるけど刺激は足りないよね」、と思っていないだろうか。自分はそう思っていた。(でもそういうのも割と好き)
そんな折、一つの情報が飛び込んで来た。
『誰ソ彼ノ淵って劇中劇CDドラマ、ヤバいらしいぜ』
THE IDOLM@STER THE@TER CHALLENGE 03 『誰ソ彼ノ淵』
船に乗って自然学校に向かっていた主人公(野々原茜)達のクラスだったが、突然の嵐に見舞われ船が遭難してしまい、次に目を覚ますとそこは見知らぬ島の海岸だった。
茜達は助けを求める為、島の中を探索していると大きな館を発見し館の女主人「二階堂千鶴」と出会う。
茜達は千鶴に「救助が来るまでの間、家で過ごすといいわ」と提案され、その厚意に甘えることにした。
しかしその夜、茜は恐ろしい夢を見てしまい...?
(ピクシブ百科事典 クルリウタより)
完っっっ然にしてやられた。舐めてかかってしまった。
開幕から耳に飛び込んでくる『耳障りが悪すぎる悲鳴』、『何か大きな塊が水に落ちる音』、『羽の音』……「噂にはなってるけどアイドルマスターの関連物だし」とタカをくくっていた自分に突き付けられたのは、正真正銘の暴力と狂気と死が渦巻く地獄だった。噂は本当だった。
そもそもが孤島サスペンスホラーということで企画が始まり、ミリオンライブのPたちの投票によって配役が決まった、ということだが当時のPたちもここまでのシロモノが上がってくることはないと思ったらしく、一部のPの間では担当をこのドラマへ送りこんでしまったことへの後悔の声も上がったほどらしい。いやこれは無理もないよ……
では地獄だからオススメなのか?というと実はそうではない。
このドラマCD、しっかりドラマが始まって、ガツンと盛り上がり、終わるのだ。
【初見でもOKな理由、一本の映画のような美しさ】
ミリオンライブには、こういった『単発で完結している劇中劇のドラマCD』のシリーズが存在する。それらは原作である『アイドルマスター ミリオンライブ』シリーズから独立しており、ドラマは完全にゼロからのスタートとなっている、初見に優しい設計だ。
事実、ミリオンライブについて知識が皆無だった自分でも沼れたのだからこの点は保証出来る。
(※ちなみに、モノによっては冒頭かエンディングにミリオンライブのアイドルたちによる短いドラマパートがあるが、本筋ではないので気にしなくても良い)
そして、物語にエンドマークがつく。映画でエンドロールが流れるように、物語に決着がつく。これは本当に嬉しい……
このドラマのラストは中々衝撃的だが、何より個人的に驚いたのは、こういったドラマCDでよくある「はい、ちゃんちゃん!」という生易しいラストではなく「ズガーーン!」と重くのしかかるエンディングをアイドルマスターのドラマCDで聴けたということ!
なんかもう、全体的に本気で作られているぞ!
【重要かつ稀有な、ドラマCDの『クライマックス』】
この単発劇の最も嬉しいところは、クライマックス……つまり、『一番ブチ上がれるオイシイところ』が明確に用意されていることだ。当たり前のように聞こえるかもしれないが、これの部分がちゃんとしているドラマCDは実は中々ない。そもそも劇中劇でないドラマCDで劇的な変化とかって起こしにくいっていうのはあるからしょうがないんだけどね……
その点、本作は劇中劇という独立した世界であることをイヤというほどフル活用した凄まじい山場となっている。このテーマで作品を作る上で、欠かせない……(このジャンルが好きな人たちが)嫌だ嫌だと思いつつも心の底で期待している要素を全て詰め込んだ悪夢が強烈なテンポで耳と心に刺さり続ける。ここの畳みかけ度合いは本当に、秀逸の一言に尽きるだろう。
あとクライマックスにあたる『~森~』の11:20あたりで聴ける人間のそれとは思えない叫び声は必聴だぞっ!
【何より、純粋なクオリティの高さ】
『誰ソ彼ノ淵』はとにかく異常にシナリオ全体の纏まり具合が良い。
まずプロローグで2分近くの悪夢を見せつけられる。詳細はネタバレになるので書かないが、ここで観客に対してかなり強烈なフックをかけるわけだ。作りがもう映画のそれじゃねーか!(反ギレ)
それと同時に、ここで伊織役の声優、釘宮理恵さんの器用さに思わず舌鼓を打つことも受け合いだ。
そこからおどろおどろしいオープニング曲を経て(このメイン楽曲、『クルリウタ』もとても良い!)、本筋に入る。本編もかなりテンポ良く、かつ緩急が効いており、前提となる設定とキャラクターの説明、孤島への遭難、メインの舞台である屋敷への移動が本編開始10分で完了する。なんとも理想的なスムーズさ。
そういったシナリオの練度が、本作を推すときに最大の理由となると個人的には思う。
キャスト陣の熱演も素晴らしい。皆さん強烈だが、先述した釘宮理恵さん(伊織役)、角元明日香さん(エレナ役)が特に良いな~!と思った。あとさっき言った人間のそれとは思えない叫び声をあげる人!
ただ、その纏まりの良さと苛烈な描写の一方で、話の造り自体はかなり王道に沿っている。
そこについては、そもそもこういったジャンルのコンテンツを摂取しない層にも向けた作品であるということは留意しておきたい。こういった場合ではジャンルの定番を敢えて外して奇をてらうよりは、直球の王道を往くのが正解だと個人的には思う。
【総括:最凶の問題作にして最高の一大傑作】
ここまで延々クルリと語ってきたが、このドラマのクオリティは本当に高い。一方で、そのクオリティを出す過程で存分に発揮されたグロテスクな描写が人を選ぶのも確かだ。
もし、そういう描写に対して多少なりとも耐性があり、少しでも興味がある方は、是非聞いてみて欲しい。
きっと、一本の映画を見たような満足感を味わえるだろう。
思い切ってnoteのアカウントまで作って思いのたけをぶつけたくなるくらい良い。というわけで初投稿。今更誰ソ彼ノ淵の記事とか需要ある?と思うが、そこは勘弁してほしい