せんたらどったら

 まだろきしあなかざぬぐれ。手鞠(てまり)転げて寛(くつろ)ぎみこう手放ししずれ瞬(まばた)きのいずれ水晶みとろし雨粒とところせましに魚(うお)見上げ餌(え)待つぎょうぎょうしさの一匹を見つむれば今どきかすれた声打ち消して波間に隠れてとんずらと刻と刻一つ進んでいけばゆらんばらんと紙が舞い、散った桜は散り後(ご)も生きてここうららか暖か寒かの境界をくぐるうつけ者の姿なぞ色れりはらる右も向くな、左も向くな、天地惑えば目を瞑(つぶ)りし石のごとくその場を動かずしてほとぼり冷めし狐の夕飯またごぼうかと溜め息吐けば食べられぬものだから息は吐かずして飲み込みその飲み込んだ空気とともに素でごぼうをかじれば喉に詰まらせ咳を込み、結局息を吐くのが正解だったと苦々しく喉をさする傍らで風が笑うものならばたとい、不を正解たらしめる阿呆となっても少しくらいは良かろうとまた、ごぼうを一つかじる。
 てんでらぼうによろりとふらめき色めき立つ間も惜しくもなくなくすっかんぴんで俯いて、芋虫やら百本足(むかで)やら蟻やらが地道(ちみち)にいるのを目にずれば自然と俯くことも悪くなく、そっと踏まぬようそっと顔上げ気付かぬフリして街道(かいどう)を見定めた。空気が、よく体に馴染む。体が軽い軽い。鯵(あじ)塩焼きだけでもとよろず屋ほっつき歩いて都は遠く遠く北の彼方に今もなお覚えている範囲で動き過去の足跡辿ってみても、今たる街は、んなもん覚えてなく変わらずともそこにあって初対面のごとく接してくれるものなら霧となってまた去れるでござんしょふいに北狐の淡い雪のような質感を纏(まと)った者の気配がしたが触れえぬ近づけえぬ身元ならば、あらかじめ無を纏(まと)って風の呼び綱(つな)びっこ抜いてスッと真ん中見続けて歩けるならば床宿着きし暗闇独り座って目を閉じ夢の中で、いくらでもお相手いたすぞとふらちな思念を裏腹に何もなく澄ましたお顔の不気味に寄ってまた一つまた一つ真ん中(まんなか)道(みち)ができたなら、またゆっくりまたゆっくり真心込めて「さあ、お行(ゆ)きなさい」と自らに向け発す言葉は、見えぬ者に語りかける狂人と傍(はた)からそう見られようと見えるも見えぬも関係なしに時砂流れて海となり、海の隣に山となりしに豊々(ほうぼう)に成る実の表にはりつく雫が、また一滴と一滴と地に待ちかまえる二葉(ふたば)なり一葉(ひとつば)なりを潤したまうのなら行くど行かぬどまばら新緑歌いし鉄の御刃(おんじん)せって登る頂きやら底やらを束ねて固めて離れて放っておいてもまたいずれ咲く花夜のつゆ払いし光とてなじるいじらしい且(か)つ熱差すばつ悪くも去った後の後悔後ろ髪引かれて振り向いたものだけれど、そこにはもう一瞬たりとも煌(きら)めく夜の静けさだけが横たわり、りばつれみりばつれみと側(そば)泳ぐ川のかすかな光のたわむれが騒々しくて乱雑に石を放り投げても水面を遊ぶ光たちはさっと避(よ)けるものだから苛立ちがさらに高じて頭を塞いでその場にうずくまり、闇と同化して、ほとぼり冷め私火を幾日(いくにち)も幾日も朝陽を待てども夜が世で予となりようようと蛍のこもり歌がかすかに耳に触れていたのを合図に、立ち上がり、拭い、後(あと)戻れぬのは待つ時間が教えてくれた覚悟の立ち時忘れて勇みし狭し暗しとピューヒロロの鳴き声太陽つれて群青から青や澄んだだいだい色で、手で摑(つか)むも足で摑むもお好きにどうぞと無関心極まりないそこの空気の優しさでしか動けないのを許してくれと懇願もくそもなく道はまた譲り渡すもの、そして譲りうけるものの往来を歓待せしめし飯を食らおうでもすっからぴんの腹の虫が鳴きつらねて「やかましい!」と叫ぶ元気が、またあるではないか。苦笑いが朱に染まり微笑みとなって目に差す光が桃源郷夢見てさっとかぶり振って黒たて戻し、血脈巡らせまたいつどきの世迷い事もあらかた出尽くしても尽きせぬ感動もそっと一つ筆置いて一時(ひととき)の幻想走って雷線(らいせん)の如く疾(はし)り立て待ち繋ぐ、青々とした空を抜けて緑が反射して黄色く輝きを帯びたのなら終わりが近ろうが遠かろうが、あの日受けた命の記憶を手さぐりしてまた、今という夜に臥し給うぞ。





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