里見助教授いきつけの食堂と財前教授の訪問について
最近、2003年版の白い巨塔を見直している。
前にも書いたことがあったように、僕はドラマや映画、小説は食事のシーンが好きだ。
白い巨塔に食事のシーンはそれほど多くない。
財前が義父の又一、鵜飼医学部長、岩田医師会長と何度も密談をする料亭は、酒を嗜むシーンはあり、席上にフライが置いてあったりするが、食事のシーンはあまりない。(鵜飼教授が品がない感じで何かを食べる場面はあった)
花森ケイ子のクラブ・アラジンでも、財前が医局員に食事をふるまうシーンはあるが、食べるシーンはない。
それでも印象深い場面がある。
里見助教授が浪速大学を退職した日、東佐枝子と大学近くの定食屋でカレーライスを食べる場面だ。
里見は、財前が被告となっている医療裁判で、原告側に立ち、大学に不利となる証言をしたことで大学を追われることになる。
そして、大学を退官する日、肩掛けの鞄を持って大学を後にする里見。その後姿を上層階から見つめる財前。
大学を出たところで、里見は、訪ねてきた佐枝子を誘い学生時代から通う定食屋で食事をする。この時里見の妻と子供は裁判の一連の過程で、家を出てしまっている。
里見にはっぱを掛ける女将、嬉しそうな佐枝子。
里見を慕う佐枝子に、里見はカレーライスを食いながら、佐枝子に学生時代にこの定食屋に財前とよく通ったことを楽しそうに話す。そう、いつになく楽しそうだ。
白い巨塔をリアルタイムで見ていた頃、まだ自分は学生で、まっすぐな里見に感情移入していた。財前に腹が立つこともあった。
だけど、それから20年が経って改めてドラマを見ると、財前の素直さに心を打たれる。
財前は、浪速大学に新設される、高度がん医療センター長に内定する。
すると、浪速大学を追われた里見の家を訪問し、君を内科部長に呼ぶよ、と誘う。里見は目を見開いて驚く。
里見は、本気で言っているのか、財前。といいながらも、財前のがんセンターは自分の理想の病院ではないといって断ってしまう。
(当時は財前がふてぶてしく見えたが、今改めてこのシーンを見ると里見が頑固に見えてしまうのが不思議だ)
財前は腹芸ができない。
教授戦では東教授に面従腹背できず敵対され、裏工作を全力で行う。
教授になった高揚感で、患者への対応を怠り医療訴訟を起こされる。
里見に証言台に立たないように依頼するが断られ、唯一信頼する里見は大学から去ってしまう。(そのとき里見の患者の難解なオペを取引材料にして断られるが、結局は執刀する)
だから、がんセンターの内科部長にと、里見を誘う。断られるが、君はきっと働きたくなるというような言葉を残して、財前は立ち去る。
里見が財前と言葉を交わすのは、患者の治療に関してだ。
一方、財前が里見に会いに行くのは、自分が里見と話したくなった時だ。
何かで、人の真意は言葉ではなく行動で見なくてはならない、といった話を聞いたことがある。
財前は里見に認められたいのだ。
里見と切磋琢磨しながら生きていきたいのだ。
財前は常にストレートだった。
そういうわけで、白い巨塔において印象的な場面は
里見と佐枝子の定食屋のシーン
財前が里見を内科部長に誘うシーン
里見が財前に病を告知するシーン
いずれも秀逸だ。
財前を抱きしめてやりたくなる。
そういえば、教授選考会の投票が行われている時、屋上で煙草を喫んでいた財前を見つけた里見は食道がんの手術の打診をする。財前は「今か」と訝しげに聞くが、里見は「僕はただ、外科医として君を信頼している」と答える。
財前は嬉しそうだった。