国防線から見るアメリカ海軍の攻勢

■演習合戦
 中国とロシアは日本周辺で軍事行動を活発化させている。それだけではなく、中国とロシアの連携が日本周辺で実行されている。さらにロシアは極東で8月30日から9月5日にかけて軍事演習を実施すると発表した。だが日本は抗議するだけで終わっている。

ロシアの極東での軍事演習、北方領土除外を申し入れ=磯崎官房副長官
https://jp.reuters.com/article/idJPL4N2YE0CN

 それに対してアメリカは中国とロシアとの対立姿勢を明らかにしており、日本周辺で軍事演習を見せつけることを繰り返している。中国はペロシ米下院議長の台湾訪問の可能性を知ると激しく反発した。だがアメリカ海軍は空母ロナルド・レーガンを中心とする空母打撃群を南シナ海に向かわせ演習を実行。これで日本とアメリカの政治姿勢が極端に分かれる状態になった。

米空母が南シナ海入り、予定した演習と第7艦隊-台湾巡り米中緊張
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-07-28/RFPVFTT0AFB401

■国際政治を知らない日本の政治家
 日本の政治家は遺憾砲で外国に抗議することがお家芸になっている。だが国際政治では軍事を背景にした外交が基本。国家戦略は外交と軍事の補完関係ではない。外交と軍事は独立した関係であり、国家間の関係は戦略の衝突であり存在する軍事力(Force in Being)の世界。

国家戦略=外交×軍事

 国際条約は法律ではなく口約束の世界。法律は国内でしか使えないから国境の外は無法地帯。だから軍隊は敵軍と勝利して秩序をもたらす。警察は国内で秩序を守り犯罪者は秩序を破る。国際政治はこの考え方だから軍事力を背景にした外交が行われる。

国外・軍隊 :秩序をもたらす

国内・警察 :秩序を守る
国内・犯罪者:秩序を破る

国内:秩序の中の無秩序を警察が担当する。 →治安維持(善悪論)→ハッピーバランス
国外:無秩序の世界に軍隊が秩序をもたらす。→勝利(強弱論)  →パワーバランス

 法律論は国内でしか使えないから強弱論の国際政治では通用しない。だが日本の政治家の多くが法律論で国際政治を見るから遺憾砲で終わる。これでは中国とロシアは日本を軽んじるだけであり、実際に日本周辺での軍事行動を止められない。

 中国とロシアが日本に侵攻できないのは在日米軍が存在するからだ。日本の平和外交の成果ではなく、アメリカの国益を優先した在日米軍が中国とロシアに睨みを効かせるから侵攻されないだけ。だから日本の遺憾砲が通用している様に見えるだけ。

■アメリカ海軍の国防線
 冷戦期のアメリカは国際情勢の変化に対応して作戦計画の基本方針を定めている。政府と軍隊では国防線の位置が一致する時と異なる時が有るが、今後の動向を探るには使えるので説明したい。

国土戦域の核戦争 =戦略核戦争(米ソ全面戦争)であり米国が戦う。
前方戦域の核戦争 =戦域核戦で核保有国(米英仏)が連合して対処。
前方戦域の通常戦争=通常戦で連合対処。
覇権戦域の局地戦争=同盟国が第一次責任、米国は軍事援助。

 アメリカ海軍の動向から見ると、台湾海峡で活動することを前提としている。これはアメリカ海軍の国防線は大陸の海岸線に置かれていることを示唆している。仮にアメリカ海軍が台湾海峡ではなくバシー海峡で航行することを前提としていれば、国防線は台湾・日本列島に置かれていることを示唆する。

 国防線とは国境から外の領域に置いた線。これは仮想敵国が国防線に接近したら警戒するか、仮想敵国が侵攻する意志と見なして反撃する。つまり国防線から国境までが緩衝地帯であり、自国を守るために戦場を国境の外に置くことを意味する。

 アメリカの場合は国土から中国大陸付近に国防線を置いている。だがアメリカの国防線は中国大陸の海岸か、台湾・日本列島の間で変化しているのも事実。国防線は時の国際情勢に合わせて変化しているが、前提とする国防線が異なることは、アメリカ海軍の作戦方針を知る手がかりとなる。

 今のアメリカ海軍は台湾海峡で活動しているので前方戦域の通常戦争に該当する。そして仮に台湾・日本列島に国防線が置かれていた場合は、覇権戦域の局地戦争であり同盟国が戦うだけ。つまり、アメリカは軍事援助に留まる。

国防線が大陸に置かれる場合:台湾と連合対処(日本と連合対処)。
国防線が台湾・日本列島に置かれる場合:同盟国が戦いアメリカは軍事援助。

 国防線の位置は重要で、何処がアメリカの戦場に想定されているか知ることができる。さらにアメリカの方針も明確にできる。これはアメリカ海軍の国防線であり、アメリカ陸軍と異なる可能性は高い。このため、アメリカ海軍とアメリカ陸軍の発言が異なるのも当然。だが中国とアメリカが対立するならアジアなので空と海が主戦場となる。そうなればアメリカ海軍とアメリカ空軍の動向を見る方が有益になる。

 アメリカ海軍は台湾・日本と連合対処する方針は明らか。だから尖閣諸島で有事が発生すれば、アメリカ海軍は海上自衛隊と連合することになる。さらに台湾有事でもアメリカ海軍は台湾軍と連合することになるから、中国は露骨なアメリカ海軍の軍事演習に反発する。

 日本を母港とする空母打撃群が南シナ海まで往復するのだから、台湾軍と連携することを中国に見せつけている。これは暗に、海上自衛隊がアメリカ海軍と連合し、間接的に台湾軍と連合することも示唆している。つまり三カ国連合軍だから、中国としては怒りを隠すのが難しいのだ。

■困ったこと
 問題なのは日本の政治家は国際政治を見ない者が多い。これでは中国とロシアの軍事圧力が日本に向かうのは当然。アメリカ海軍の軍事行動で人民解放軍の活動が南シナ海から縮小している。その代わりに、人民解放軍の圧力が日本に向けられたのだ。

 人民解放軍は南シナ海と太平洋への進出は難しい。だが日本への圧力は可能だし、ロシアと連携すれば良いだけのこと。これは中国がロシアを支援し、ロシアが日本に侵攻することは都合が良い。何故なら、ロシアが中国の代わりに日本とアメリカと戦争してくれるからだ。

 中国が参戦するか不透明だが、アメリカ軍の戦力を分散することは可能。その時に中国は台湾に侵攻する可能性が高くなる。中国の台湾侵攻は単独では行わないはずだ。ロシアと連携すれば勝利の可能性が高くなるのだから、日本周辺で中国とロシアの軍事行動が活発化するのは当然の帰結と言える。

 こんな時に自衛隊の増員と強化を怠っている。しかも自衛隊を使って中国とロシアに対して軍事演習で返礼することもしない。これでは中国とロシアの軍事圧力が増加するだけ。困ったことに、日本の平和外交が戦争の呼び水になっている。

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上岡 龍次(うえおか りゅうじ)
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