【読んでみましたアジア本】さまざまに読み比べて知る、「廃れない本当のルポルタージュ」/高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)

自分でも意外だが、振り返ってみると、この「読んでみましたアジア本」ではもう何冊もミャンマー(ビルマ)に関する書籍を紹介してきた。

いつも、韓国や中華(主に嫌中、あるいは好台)本を除いて、「日本にはとにかくアジアをテーマにした本が少なすぎる!」とぼやきながら書籍を選定しているが、ことミャンマー本に関しては、個人的には特にこの国に思い入れはないのだが、読んでみたどの本も大変印象に残る興味深い本となっている。

今回のこの一冊も、書名は知っていたがまだ読んでいなかった。初版はもう30年も前の1990年代だから、今読むべきかどうかの判断が決まらずにずっと来ていた。その「背中を押してくれた」のが、ジャーナリストの舛友雄大さんのポッドキャストでミャンマー情勢について語っていた中西嘉宏・京都大学准教授の推薦だった。

それにしてもなぜ筆者がビルマに興味を持ち始めたかというと、それも偶然である。昨年末、中国雲南省との国境に近い、ミャンマーのコーカン地区で起きた内紛というか、内戦が中国メディアで大きく取り上げられ、それをあちこちのメディアをホップステップしながら読んだからだった。

中国国内でなぜ隣国の内紛が注目されたかというと、昨年1年間、中国の社会問題としてたびたび話題に上がっていた電話詐欺、さらには就職詐欺の本拠地がそのコーカンだといわれたからだ。いや、それはもう詐欺というよりも、人身売買や臓器売買にも話が及ぶほどのスケールになっており、騒ぎが大きくなってから実はそれは中国だけではなく、台湾や香港でも「うまい話」に載せられて出かけた人が被害に遭っていることが報道されていた。

さらに、その拠点はミャンマーのみならず、タイとミャンマーの国境地帯にも拠点があり、さらにはコーカンは「中国人相手」だが、タイの国境近くの拠点では「英語圏相手」の詐欺が行われている――と、かなりの規模で展開されていることが次第にメディアによって明らかになっていた。それこそ、筆者も注目しているある中国人元ジャーナリストは個人的つてを使って、そのミャンマーの拠点への潜入を試みているとまで伝えられており、実際に現地の様子を映した動画などをときおりアップしているのを目にしていた。

それらを見たり読んだりしているうちに、ぼんやりと「中国側からみた」ミャンマー国境都市の出来事が見えてきて、なかなか一筋縄ではいかないらしい、彼の地の状況が気になり始めたところだった。それをまとめたのが、こちらの記事である。

ただ、現地の事情について十分に理解できたとは言い難く、まだもやもやとしたものがあった。そこに前述のポッドキャストで推薦されたのだから、「やっぱり読んでおくべき」という思いで飛びついた。


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