【ぶんぶくちゃいな】「北朝鮮」に奔走する日本メディア、伝わらないアジアの現実

これまでにも何度も触れてきたし、199回の「ぶんぶくちゃいな」でもちょこっと書いたが、わたしが2003年に村上龍さんが主宰していたメールマガジン「Japan Mail Media」に連載するようになったのは、2003年9月に中国北京で開かれた、初めての6者会談(6カ国協議/6者協議/六者会合、とメディアや政府でもさまざまな呼び方があり、統一されていない)がきっかけだった。

当時北京で暮らしていたわたしは、当然のことながら、世界の先進国を集めてイニシアチブを握れるという会議に中国が「超」がつくほど高揚していた様子を目の当たりにしていた。有頂天になって、ミスが起こってはならない、だが堂々とした態度で接しなければ、と政府にさまざまな思いが交錯しているのが、中国メディアの報道ぶりからも伝わってきた。

それを振り返ると、先月行われた党の第19回大会(19大)のように市内の監視が妙に厳しくなったり、あれもダメ、それもダメ、どれもこれも19大の名のもとに規制といったようなこともなく、社会全体が「初めての国際会議の議長国」という立場に素直に盛り上がっていた。

いま思えば遠くに来た、いや、遠くまで戻ってしまったものだなぁ…今年の19大で漏れ聞いた厳戒態勢は1990年代、つまり天安門事件から10年も経っていない頃のそれにそっくりだった。違うのは、当時はほとんど誰も知らなかったインターネットにも今回は規制が加えられたことだ。

中国政府は確実に、ある意味、無邪気で素直(良い意味でも悪い意味でも)だった2000年代に比べて危機感と焦燥感を高めていると感じる。

その6者会談のとき、そんなわたしが何を書きたかったのかというと、目の前で展開する脳天気なイベント感と、インターネットで目にする英語や日本語の同会談に対する、それほど楽観的ではない分析の間にある各国の姿勢だった。まぁ、中国の無邪気さは純粋に「初めての国際会議」からくるものだが、やはり北朝鮮を巡る話し合いはそう簡単には進まない、と各参加国は踏んでいるというのがひしひしと伝わってきた。

だが、北京に集まった6カ国の「役者たち」の姿はリアルだった。お祭りのハイライトに湧く中国メディアはホテルの前で、これから議場に向かおうとする各国の代表にそれぞれマイクを突きつけた。

もちろん、中国代表は満面の笑顔で応えた。アメリカ代表もロシア代表も、そして韓国代表ですらも、彼らを取り囲んでコメントをせがむ記者たちの脳裏にも「難航」の文字は浮かんでいたが、それとは裏腹に、笑顔で「これは最初の一歩です。前進です」と明るく答えて車に乗った。

だが…

「北朝鮮と日本の代表はメディアの質問に答えず、口を閉ざしたまま車に乗り込みました」

口を一文字にしてメディアが突きつけるマイクを避けて車に乗った日本代表の姿に、わたしは絶句した。

北朝鮮はといえば、最大の支援国である中国に引きずり出されて、これから先進国と隣国にまな板に載せられるわけで、また代表たちはその国情から滅多なことを言えないというのはすでに織り込み済みだ。だが、民主国家日本がその北朝鮮と「同じ」と言われるとは、完全に外交上では失策といえる。

しかし、一緒に熱くなっていた日本メディアも大々的にこの初めての6者会談を伝えつつも、我われ日本人の代表たちと世界代表との「差異」についてはまったく触れなかった。つまり、日本の読者や視聴者は日本政府の醸し出す「異様さ」を知らされなかった。真面目なのか、それとも手抜きなのか、日本メディアの記者たちは日本代表に「しか」張り付いていなかったからその違いにすら気づかなかったのだろう。

その時思った。

世界中の目が注がれる大舞台なのに、「日本代表しか見ていない」記者たちのレポートが、どこまでその場の「真実」を伝えることができるのか。

わたしが本気で「中国から伝えなければ」と思ったのは、そんな「切り取られた」「視野の狭い」マスメディアの報道だけが日本の読者に届けられるからだ。

日本人(記者)による、日本人(読者)のための、日本人(政治家)たちの報道。国際政治を舞台にしたレポートがそれでいいのか?

海外報道は、彼らが世界情勢を知る、あるいは判断する「情報源」である。つまり、メディアが伝える情報が彼らが考えるための基礎となる。だが、その人たちに届けられる情報が「切り取られた」「視野の狭い」「ほんの一部」でしかなければ、読んだ人たちはどうやって全体を知ることができ、日本に居ながらにして世界情勢を理解することができるだろうか? 

情報源の偏りは当然のことながらそこから得られる結果も歪めてしまう。

もちろん2003年と比べれば、今ではインターネットも発達し、ネットメディアも増え、我われが日本にいながらにして触れられる情報源は増えたように思える。だが、理解しておくべきことは、ネットに流れる情報は多くがマスメディアのそれであり、また国際会議においてはその場に記者を派遣できる、あるいは参加させることができるのは、やはり伝統的なマスメディアだけなのだ。

それは、先日行われた東アジアサミットでも同様だった。

●ASEANと北朝鮮の「距離」

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