【ぶんぶくちゃいな】李嘉誠氏引退、香港ドリームの終焉

ぶんぶくニュースクリップでも取り上げたが、3月16日夕刻、やはり巷の予想どおり、香港長和グループの総帥、李嘉誠(リー・カーシン)氏が引退を発表した。香港や西洋メディアは次々と、「李氏の引退で香港の一つの時代が終焉した」というタイトルで記事を発表している。

引退自体は、今年7月に90歳を迎えるという高齢だし、もう5年ほど前から同氏自身もその可能性を口にしながら、30年間そばで帝王学を学ばせてきた長男への権利移譲を図ってきたのそれほど驚きはない。逆に89歳の今まで香港のトップ上場企業を統率してきたのだから、その手腕と精神力たるや、あっぱれと言わざるを得ないのは事実だ。

一代で香港のみならず、アジアのトップ富豪にのし上がった李氏の資産額について、米誌「フォーブス」は今年始めに2800億香港ドル(約3兆7840億円)と推測した。だが、2014年に同誌による2400億香港ドル(約3兆2430億円)という資産水産に対して、李氏は「40%ズレている」とメディアに語ったとされる。となると、その資産額は4000億香港ドル(約5兆4000億円)ということか?と話題になったが、同氏は明言しないままに終わった。

先月には米経済メディア「ブルームバーグ」が、世界の「ロビン・フッド指数」を発表し、そこにも李氏の名前が出現している。ロビン・フッド指数とは、「各国で最も多くの資産を持つ富豪がそれぞれの国の政府を何日間維持できるかを示す」というブルームバーグが独自に発表しているインデックスだ。つまり、そこからそれぞれの国(地域)のトップ富豪と政府の資産規模を比較できる。

今年の同指数の1位には、日本の柳井正氏(「ユニクロ」の親会社「ファーストリテイリング」代表取締役)と中国のジャック・マー(馬雲、アリババグループ会長)、そしてポーランドの富豪がそれぞれ自国政府を4日間維持できる資産を有し、並んでいる。また、シャープを買収した、台湾「鴻海グループ」のテリー・ゴー(郭台銘)会長も22位に顔を出し、その資産で台湾政府を22日間維持できるとされた。

李氏と香港特別行政区政府(以下、香港政府)の比例はというと、なんと李氏の資産で191日間維持できるという。単純にいえば、李氏がその資産の何分の一かを動かすだけでどれほどのインパクトを香港政府に与えることができるかが理解できる。

これこそ、同氏が「李超人」(スーパーマン・リー)と呼ばれる所以である。

戦火を逃れて香港に逃げ込んできた難民の少年が、一人で叩き上げてここまでの資産を築き上げたことに対して、20世紀の香港市民は尊敬の念を惜しまなかった。

李氏の名前を出せば、市民は微笑んで親指を立てる。主権返還後の未来に不安が充満していたときも、李氏が創設した会社の株式を手に入れようと、取扱銀行の前には長い行列ができた。

だが、それほど人々の心の支えになってきた李氏に対して、みなが渋い顔をして親指を下に向けるようになったのとほぼ同じころに、香港は20世紀に作り上げた「東洋の神話」から脱して迷走を始めた。今ではその迷走は李嘉誠氏の責任だと主張する声が多い一方で、たとえ実際に香港政府に圧力をかけたことがあったとしても迷走の責任を李氏だけに負わせる言論に対して、わたしは「相変わらず香港人は他力本願すぎる」と感じるところも多い。

だが、今日に至る香港の歴史を語るとき、香港特別区行政長官(以下、特区長官)の名前を挙げなくても、李氏の存在をまったく無視することはできないのも事実である。

●キーワードその1:「白手興家」

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