【読んでみましたアジア本】食べて、知って、読んで、楽しむ:崔岱遠・著/李楊樺・画/川浩二・訳『中国くいしんぼう辞典』
月初めに東京に中国や香港の映画を観に行ったとき、もう一つ楽しみにしていたのは、昨今東京界隈で激増しているいわゆる「ガチ中華」だった。
ネットやSNSではすでに、あれも、これも、どれも、すでにここまで……!というほどさまざまな「今の中国で普通に食べられている中華料理」が、中国からの留学生、そして移住者の激増によって、どんどん日本に流入している。彼らをお客として狙って展開されるだけではなく、日本への移住方法として「飲食企業経営や投資」という手段もまた人気のようだ。
それらは、いわゆる日本の「伝統的中華料理」とはまったく違い、生身の中国人たちをターゲットにしているだけあって、今の中国で日頃食べられているメニューを提供している。
それってなに? チンジャオロースーとか、マーボー豆腐とか、水餃子だって中国で食べられてるはずでしょ? わたし、食べたもん。それとも火鍋とかのこと?
……ノン、ノン、ノン。考えてみてほしい。あの広大な土地で暮らす中国人が毎日、チンジャオロースーとか八宝菜とかマーボー豆腐とか食べてるとでも? もし、そう考えていたならば、「日本人は毎日酢飯を食べている」と思っている程度に無知な中国人と変わりない(現実にそう考えている人は存在する)。
正直いまここに上げた名前のメニューのうち水餃子と火鍋を除けば、「1年以上食ってねぇや」という中国人はザラに居る(断言)。基本、日本の伝統的中華料理のベースになっているのは、上海界隈の料理であり、その他の地区で生まれ育って生活している人にとっては、見たことも、時には聞いたこともない料理ばかりだったりするのだ。
筆者が香港や中国で暮らしていたときに食べていたのも、そんな「今の中国で普通に食べられている中華料理」だった。だから、日本に帰ってきてから一番恋しいのがそんな料理で、10年ほど前の日本で「最近、開いた新しいレストランがあるから、そこならきっとあるよ!」と食通の友人に連れられていっても、ほぼ失望に終わった。
中国と日本、今の時代にこんな距離があるのか。
よく考えてみると、そのときに日本で暮らし始めていた中国人たちは、きっと自分たちで食べたい「今の中華料理」を自分で作っていたんだろう。とはいえ、当時は日本で家族ぐるみで暮らすビジネスマンはそれほど多くなく、留学生がほとんどだったから麺類に毛が生えた程度のかなり簡単なものだったろうが、それでも中国物産を売る店は都内にいくつかあったし、筆者も諦めてそんな店で留学生たちといっしょに買い物の列に並んで、材料や調味料を買い込んでいたものだった。
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