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辞める
泣きながら、書いている。
バスを降りた瞬間、涙がぶわ、っとあふれた。辞めたくないよ。ずっと続けたい。ずっと成長を見守っていたい。だけどね、辞めるんだ。もう辞めるしかないんだ。わたしはまだ弱いから、わたし自身を守るためには、辞めるしか無いんだ。ごめんね。
現在小学校6年生の男の子。私は塾講師として、約一年間国語を教えてきた。実はその子のお兄ちゃんの国語も担当していて、兄弟そろって反応が素直で、よく笑ってくれて、必死で悩んでくれて、宿題はやってこないときもあったけれど、隠すことなく「バスケで忙しくてやってません!」と言ってくれた。
私がこの子を担当するのは、今日が最後だった。最後だということは、生徒は知らない。言いたくなかった。言ったら、私が泣くから。
今日の授業で、今までは苦手だったのに、「この言葉ってどういう意味?」と私が聞いたら、自分の言葉で説明することができるようになっていたね。最初は音読してもらっても、つっかかって読むのに時間がかかっていたけれど、今ではだいぶすらすらと読めるようになっていたね。そして、講習期間は今までは取り組んでこなかった、読書にもチャレンジして、1か月に3冊も読めたね。
どんな生徒に対しても褒めることを徹底していたが、今日ばかりは、この男の子を褒めたときに涙が出てきそうだった。よく頑張ったね。部活もある中、きみは本当によく頑張ったよ。先生は、君の頑張りをよく知っているよ。素直なところは本当にいいところだから、そのままの優しいきみで、いてほしい。
私は、この子にとって、優しい先生でいることができたんだろうか。
もう少しで講習期間だから、「もしかしたら、講習期間は私じゃない可能性がある」と言ったら、「えっ」という顔をした。
心臓が痛かった。ああ、この子は、私を慕ってくれているんだな。
「〇〇先生(私)が良かった?」と聞くと、照れながらも、うなずいてくれた。
こんなにも慕ってくれているのに、私は辞めるんだ。この職から去るんだ。
「素直で、とてもいい子です。たくさんほめてください。」生徒ファイルに、そう記した。新しい先生は誰か分からないけれど、きっと、きみの良いところにたくさん気づいて、たくさん褒めてくれるから、大丈夫。
きみの未来は明るい。その素直さがあれば、やっていけるよ。大丈夫。
私は大学1年生から続けていた、塾講師という職を辞めた。
担当してきた生徒は、それぞれ個性があって、同じ子なんていなかった。そして、どの子も可愛い、私の教え子である。
だが、教育にビジネスが関わると、人も、会社も、堅実ではなくなってしまう。講師1年目から感じてきたぼんやりとした違和感が、3年目にして、くっきりと輪郭を形成していた。
私たちは、アルバイト講師。ただの使い勝手の良いコマだった。
どうせそんなものだろうな、とは思っていたが、それなりに誇りを持って職を全うしていたつもりだった。だが、それにしても、扱いが雑すぎると感じ始めていた。
経験が長いと、会社の経営体制がよく分かり始める。そして上司がどういう思いでアルバイト講師に接しているのかも、良い意味でも悪い意味でも、分かってしまう。
私は言った。「講師に対しての情報共有不足は、いずれ生徒、保護者に対しての態度になりますよ。」と。
実は、保護者から「情報共有がなされていない」と、あなたが直接クレームを入れられているのを、私は聞いていました。それを踏まえて、私は言いました。それでも変わらなかった。だから私は、辞めようと思いました。
そして、私と同期の子も何人も辞めましたね。あなたの「アルバイト講師には情報共有しなくても良い」という思いが通じたからこそ、退職を選択した人が何人もいました。思いが通じて良かったですね。
アルバイト講師の後輩たちを守るために戦い続けなければならないことも考えたが、このように考えながら続けるのは、精神が持たなかった。所詮わたしは「アルバイト」なのだ。
私は塾講師を辞める。
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