ストリートピアノーロミオの青い空 空へー
「智、お母さん、そこのスーパーで夕飯の買い物してくるから、楓《かえで》とここで待っているのよ」
智《とも》のお母さんが、ストリートピアノの前で、2人を残すと、激安スーパー目指して歩いて行った。
智は小学5年生のお兄ちゃん。妹の楓は5歳で保育園に通っている。
ストリートピアノには、先客がいた。楓と同い年くらいの男の子が、ピアノの前に座って片手で何やら弾いている。
「あっ、ロミオ!」
楓が知っている曲らしく、その男の子に近づいて行った。智は、そういえば、お母さんと楓が家のピアノで弾いていたなぁと思い出した。勿論、楓はお母さんの膝に乗せてもらって少し鳴らすだけだ。
「楓も弾きたい!」
楓はその男の子に向かって言った。男の子は、
「いいよ、ここに座って」
と、楓に笑顔を向けた。智は、
「ごめん、妹がわがまま言って」
と、男の子に言いながら、楓を男の子の隣に座られた。男の子は、さっきと変わらず片手だけで、ロミオの青い空の空へのメロディーを弾いている。楓はキョトンとして、
「ロミオ、うまいね」
と男の子に話しかけた。男の子は、楓に褒められて、気分がよくなったのか、
「名前は?」
と聞いた。楓が答える。
「あきやまかえで」
「かえでちゃんっていうのか。ぼくはえのもとひろき」
「ひろきくん!」
楓は、広樹の名前を繰り返した。
「かえで、ロミオ、少しだけひける」
楓は、少し鍵盤をたたいた。
レラ、レソ、レミーファミレド♪
「へえ」
と広樹は言いながら、今度は両手で、ロミオの青い空の空へを弾き始めた。
たたたたた、たたたたー♪
………………………………………♪
………………………………………♪
広樹が両手で最後まで弾くと、
「ひろきくん、すごい!」
と、楓がもみじのような手で拍手した。
「りょうて、しゅごいね」
楓は感心していう。広樹は少し赤くなって、
「さっきのかたては、ゆびのれんしゅう」
と、頭をかいて言った。
楓は、後ろで待っていたお兄ちゃんのことは忘れて、広樹と楽しくストリートピアノを弾いた。
ー☆ー
7年後、楓と広樹は、同じ中学校の音楽室で再会することになる。
ロミオの青い空、空へ♪