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こんな神様いるかも?


 谷村由香は人生のどん底を味わった。まだ、高校2年生だというのに。

 今年の初めに両親は離婚するし、つき合っていた彼氏とは、もうすぐ受験だからと別れを告げられるし。

 そういういろいろな難事が立て続けに起こり、由香の心はかき乱されるばかりで、友人たちとのつき合いもうまく行かなくなった。

 今日も直子という友人につれない態度を取られて、由香の心はもう限界だった。


 由香はいつもは素通りする通学路の小さな神社に、今日は足の向くままに駆け込んだ。

 由香は神社の社殿の前に突っ立ったまま、何も言葉にならず、流れるままに涙を流した。

 どれくらいの間、由香はそうしていただろうか? 


 由香が泣いていると、風に乗って、若い男の人の声が聞こえてきた。

 「そんなに泣かないでよ。僕まで悲しくなっちゃうよ」

 由香は目を白黒させて、声が聞こえてくる場所を探した。

 すると、そこには、神主さんが着るような、白い上衣と水色の袴という装束を着た由香と同い年くらいの男の人が立っていた。

 「貴方は誰?」
 由香は涙を拭いながら訊ねた。

 「僕はこの町の小さな神社の神様さ」

 「神様?」
 由香が?顔でその男の人を見ると、普通の人間と違い、男の人の身体が半分透けているように見えた。

 「君は泣いているけど、今日の僕はとっても嬉しいよ。由香ちゃんが初めて、自分の意志でこの神社に来てくれたから」


 由香はポカンとして、思い返した。由香は、生まれてこの方、神様やご先祖様に全く興味がなく、神社にも、おじいちゃんやおばあちゃんや友人のお参りについて行くだけで、自分からは、神社に行こうとは思いもしなかった。

 「今日まで由香ちゃんは誰かに連れて来られてはいたけど、僕はちょっと寂しかったんだ」

 「はあ、そういうものですか」

 由香は訳も分からずうなづいた。

 神様がいった。

 「由香ちゃんは今は大変な状況だけど、でも、自分の意志でこの神社に来てくれたから、僕はとっても嬉しかった」

 「まさか、そんなことのために、神様は、私を地獄に突き落としたのですか?」

 由香は、神様のお気楽な口ぶりに少し腹を立てた。

 「そんな、滅相もない。由香ちゃんに試練が起きたのは、生まれた時から決まっていたんだ。すべては、由香ちゃんの魂を成長させるためさ」

 「そんなー。そんなの私、耐えられない!」
 由香はまた泣き出した。


 「泣くのはやめてよ。今、由香ちゃんは人間界でひとりぼっちだけど、僕がいるじゃないか」

 「えっ?」

 「僕は神様になってまだ500年くらいだけど、由香ちゃんの魂とは、輪廻転生で何度も巡りあって、その度に楽しく暮らしていたんだ。
 僕が先に神様になってしまったけど、女の子は神様になるのに、かなり魂の修行をしなければならないみたいだよ」

 「神様になる?」
 由香はポカンとして訊ねた。

 「人間の魂は大体そうだよ。でも、中には、素行が悪すぎたために、動物や虫になって、やり直しの魂もあるけど」

 「へえっ、そうなの?」
由香は神様の不思議な話を聞いて、少し心が和らいだ。

 「私、また、ここに遊びに来ても良いですか?今まで勝手だったけど」

 「良いよ。僕は嬉しいよ。由香ちゃんは1人じゃないからね。僕や僕の眷属のカラスたちがいるよ」


 由香が気づくと神様は消えていた。でも、由香は、心が温かくなったように感じた。


 また、神様に会いに行こう!


 由香は心の中で、そう呟いた。


        ー了ー



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