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ストリートピアノーアメリカンパトロールー


 リバイバルの映画を見終わった、高校2年生の和也と京子は、イタリアンレストランに入ってスパゲッティを食べていた。


 和也は映画を見ている時から、心ここにあらずといった感じだった。京子は、それがどういうことなのか察しがついていたが、決定的な言葉を言わせないように、余地を与えないように、陽気に喋り続けた。


 「それでね……ダニエルもよくやるわよね。ジョニーがトイレでタバコを吸っている時に、上からホースで水をかけて逃げたんだから。痛快だったなぁ。ダニエルだって、あんなことされたら、仕返ししたくなるのは、当然よねー」


 京子の言葉が、2人の間で虚しく響いた。


 「食べ終わったし、もう出よう」


 和也が京子を促すと、2人はイタリアンレストランを出た。

 京子は、和也が、あの言葉を言い出さなかったことにホッとして、ショッピングモールを歩き出すと、まだ、喋り出した。

 「昔の映画も結構おもしろいね」

 リバイバル映画鑑賞は和也の趣味だが、和也は何も答えずに、何やら思いを巡らしながら、スタスタ歩く。京子もその後に続いて歩いたが……。


 突然、和也は立ち止まり、京子にふり返った。


「あの、俺さぁ……」


 京子はやめて!と心の中で叫んだが、和也は続きを話し出した。


「もう、京子とはつき合えない。好きな人ができたんだ。ごめん」


 と、和也は、京子に頭を下げると、走り去ってしまった。


 京子はそこから一歩も動けずに立ちすくんだ。


 わかってた、わかってたけど……


 涙が溢れてきて、頬を伝った。京子の涙とともに、近くのストリートピアノから、『アメリカンパトロール』のメロディーが流れてきた。


タタタタ、タタタタ、タタタタ、タタタタ♪

タータッタタタタ、タッタータタタタ……


 何でこんな時に歩がよく弾いている曲が流れてくるの……?


 京子は、涙を抑えることもできずにこんなことを考えていた。


 歩とは、京子の幼なじみで、京子の隣に住んでいて、よく『アメリカンパトロール』を弾いていた。


 ストリートピアノの『アメリカンパトロール』は、20代くらいの見知らね女性が弾いていたが、その奏者をはさんで反対側から、歩は、京子の姿を心配そうにじっと見ていた。




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