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「刀剣乱舞」とは何か

「とうらぶ」こと刀剣乱舞の快進撃が止まらない。

始まりはパソコンのブラウザゲームだ。15年1月の配信開始以来、同ゲームが火付け役の一つとなり、全国各地に日本刀ブームが巻き起こった。「刀剣女子」なる言葉を生み、流行語大賞候補にもノミネート。刀剣乱舞のコラボ展示も企画された18年秋の京都国立博物館「京のかたな」展は、実に25万人超の入場者を集めたという。

並行して、2.5次元舞台やアニメなどのメディアミックス作品も話題に。昨年末のミュージカル『刀剣乱舞』キャストによる紅白出場は記憶に新しいだろう。今年正月に公開された『映画 刀剣乱舞』もロングランヒットを果たしている。

一過性の流行ではない。通常のコンテンツとは異なる時間軸や、リアルとファンタジーの混交が、刀剣乱舞人気の根底にある。ファンの声も交えながら、魅力の源泉に迫ってみたい。

前述の通り、原点はブラウザゲーム『刀剣乱舞ONLINE』。女性ユーザーを視野に入れた刀剣育成シミュレーション、として開発された。

基本となる設定はこうだ。名だたる刀剣が戦士に姿を変えた「刀剣男士」として、歴史の改変をもくろむ歴史修正主義者率いる時間遡行軍を討伐する――。

刀剣男士とは、物に眠っている思念を呼び覚ます能力を持つ「審神者(さにわ)」によって、刀剣から呼び起こされた付喪神のような存在である。審神者とは何者か? プレイヤー――つまりは、私たちのことだ。審神者となったプレイヤーは、思い思いの刀剣男士の部隊を編成する。

■日本刀固有の物語をキャラ化

日本刀は世界的にもユニークな武器だ。形状や使用意図による分類だけでなく、個体別に名前があり、生みの親とも呼べる刀匠や、その刀匠たちが所属する刀派がある。所有者にまつわる物語もある。

それらの要素が、刀剣男士のキャラクターに反映される。

例えば、独眼竜こと伊達政宗の刀だった〈燭台切光忠〉は、右目に眼帯をしているし、霊剣・山姥切を模して造られたとされる〈山姥切国広〉は、自らが写し(コピー)であることにコンプレックスを抱いている。

加えて、ゲーム上ではイラストと音声のみを用いてキャラクターが表現される。そのため、想像の余地も大きいとファンの一人、Aさん(女性・40代)は言う。

「公式の設定が絶妙なんですよね。例えば、〈石切丸〉はもともと神社の御神刀で、刀剣男士としてもそう描かれます。対して、〈にっかり青江〉という赤子の幽霊を切ってしまったために御神刀になれない刀剣男士がいるんですが、彼はどこか石切丸に憧れているふしがあるんですよ。他にも、山姥切の本物である〈山姥切長義〉が新規登場したときは、〈山姥切国広〉推しのファンたちはもう悲鳴でした(笑)。『ただでさえ写しであることをこじらせている、まんばちゃん(山姥切国広)が……!!』って」(Aさん)

史実にさえ諸説あるのだから、解釈は自由である。その上で重要なのは、「刀剣がそこにある」ということ。

Bさん(女性・30代)は、推しである〈へし切り長谷部〉を福岡市博物館で見たときの気持ちをこう表現する。

「『あくまでモノはモノ』と自分に言い聞かせて行ったんです。でも、展示室に入った瞬間、おもわず『いた!』と言ってしまって。『本当に会えた!』という不思議な感覚になったんです」(Bさん)

会える感覚においては、2.5次元舞台の存在も大きい。

舞台にはミュージカル『刀剣乱舞』(略称:刀ミュ)と舞台『刀剣乱舞』(略称:刀ステ)の2種類があり、それぞれ制作会社も違う。刀ミュは重厚な歴史ドラマを描くミュージカルと華やかなライブの二部構成で、間口が広い。一方、刀ステはストレートプレイ(会話劇)寄りで、綿密に編まれたシリアスな物語や殺陣の激しさが支持されている。

キャストも異なる。例えば「三日月宗近」は、刀ミュでは黒羽麻璃央、刀ステでは鈴木拡樹が演じる。ストーリーにおける立ち位置や解釈も微妙に異なる。「うちの子/よその子システム」がよく生きているとCさん(女性・30代)は指摘する。

「ゲームそのものが、プレイヤーごとに『うちの本丸/よその本丸』(「本丸」とは刀剣男士の部隊編成のようなもの)という世界観なんですよね。なので刀ステでも刀ミュでも、『私の推しは、この本丸ではこういう子なのね』と、スッと受け入れられるんです」

その違いを楽しめるのは、2.5次元という比較的新しいジャンルで挑戦を続ける作り手や俳優たちの精進の賜物でもあるだろう。

また、アニメ化も『刀剣乱舞-花丸-』(以下、花丸)と『活撃 刀剣乱舞』(以下、活撃)というテイストの異なる2作が、同時に走っている。花丸は日常系だ。刀剣男士たちの本丸での暮らしをほのぼのと描く。一方、活撃はシリアス路線。土方歳三の刀だった〈和泉守兼定〉、坂本龍馬の刀だった〈陸奥守吉行〉らが幕末へと出陣する。

「過去の歴史を知る刀剣男士たちが、元の持ち主である土方や龍馬を生き延びさせてあげたいと思いつつ、歴史を守るためには彼らの死を受けれる方向へ動かなければならない。その葛藤にグッときます。これは他のメディアミックスでも言えることなんですが、史実との絡め方が抜群にうまいんですよ」(Aさん)

■浄瑠璃や歌舞伎との類似点

ミュージカル舞台、アニメは、単体でも十分に楽しめる。テイストもさまざまだ。結果、ゲームも含め、自分にあった本丸から、刀剣乱舞の世界へ飛び込むことが可能となっている。

原案のn次創作的なメディアミックスは、現代のエンタメコンテンツの命脈とも言える。同時に、そこには人形浄瑠璃や歌舞伎における〈世界〉にも似た、伝統的な物語づくりの要素も感じられる。

〈世界〉とは時代や事件、人間関係などをセットにした物語背景のこと。

例えば〈忠臣蔵の世界〉に怨霊や強盗殺人を掛け合わせると『東海道四谷怪談』になる。

〈世界〉をどう用いるかは、クリエイターの腕次第。〈平家物語の世界〉を用いた作品は多く存在するが、そこに登場する平知盛や源義経、梶原景時といった人物は、作品ごとに微妙にキャラクターが異なる。

これらに似て、刀剣乱舞の複次性を志向するメディアミックス展開のベースには、単なる設定を超えた〈刀剣乱舞の世界〉があるように思えるのだ。

そうした〈刀剣乱舞の世界〉を踏まえればこそ、昨年末の紅白歌合戦で実現したコラボ企画――「演歌歌手・山内恵介を刀剣男士たちが時間遡行軍の刃から守る」という演出も、設定に無理なく馴染む。

本来、浄瑠璃や歌舞伎における〈世界〉とは、何十年、何百年という時間経過とともに、元の作品が世間に浸透していくことで形成される。だが、刀剣乱舞はリリースされてまだわずか4年半ほど。

それでも、「刀剣乱舞の世界」が成立するのには理由がある。

刀剣の存在だ。

刀剣は、過去の歴史物語の蓄積を、言わばそれぞれの刀剣がまとう〈世界〉を、現代に召喚することができるからだ。

先ほど、〈へし切り長谷部〉に「会えた」と表現したBさんは言う。

「刀剣乱舞は他の作品と比べて、『ともに生きている』というリアルタイム感がすごいんです。舞台が海外展開したり、ゲームの終わりがまだ見えなかったりするのもあるんですが、それだけではなくて。例えば、福岡市博物館には長谷部くんとともに、〈日本号〉という槍も保管されているんです。私が死んでも、ふたりはずっとここで一緒にいるんだなと思うとグッときてしまうんです」

実際、刀剣の多くは私たちよりも長生きするだろう。

たったいまも、〈石切丸〉の復元刀を作成し、矢筒とともに石切劔箭神社に奉納するという現在進行形のクラウドファンディング・プロジェクトが、目標額1千万円のところ、翌日早々に3千万円を達成し、現時点(2015年5月中旬)ですでに5千万円に迫ろうかという支援額を集めている。

現在進行形の伝説に立ち会える――。

この現実とファンタジーの混ざり合った感覚が、刀剣乱舞に独特な魅力を与えている。

(初出:「週刊文春WOMAN」2019年GW号)


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