差別主義者に会って吐いた話。ゲー
「俺は、同性愛者を認めない」。
昼休み明け、眠くなりかけて頃に目が覚めた。
中年の先生の良く通る声が、いつも以上に耳に刺さる。
手元にある教科書には、”性”にまつわるカテゴリーが載っている。
保健体育の授業で扱う”性”の話と言えば、性感染症と子宮の断面図ぐらいである。
それでも辛うじて、教科書の片隅に、あったかないか、記憶も定かではないが、「同性愛者」が授業の話題に上がった。
たまたま、一番前の席に座っていた私だが、一瞬だけ教室が凍り付いたと背中で感じた。
驚きのあと、怒りを覚えたのは、自分だけではないと思う。
だが、休み時間に誰も「差別発言」を話題にしなかった。
みな、興味がない。
それは、「差別発言」に関してではなく、中年のおじさん先生に対する期待値があまりにも低いという感覚であろう。
「あの先生なら、しょうがないよね」と言わんばかりの軽く流す空気すらあった。
仲の良かった友人は、その先生に好かれていた。
好かれていたから、卒業してから、いつか飲みに行こうと電話番号を交換したと言う。
だが、多忙な友人と先生は、なかなか予定が合わなかった。
それから数年の月日が経ち、とうとう飲みに行く日が決まった。
「さすがにサシはきついから、一緒に来てくれない?」
実家暮らしの私は、地元で起こるイベントによく呼ばれる。
友人は、真っ先に私を誘ってくれた。
お誘いはありがたかったが、先生に対するマイナスイメージを思い出し、軽い動悸すら覚えた。
それでも、物好きな私は、そういう人こそ話を聞いてみたいと誘いに乗った。
仲のいい元生徒の前なら、本音が出るかもしれない…と。
夕焼けが沈む頃、駅前で待ち合わせをし、
久々に会う友人が変わらないことに安心していた。
数分経って、大股で歩く先生が登場。先生も変わらない。
行きつけの酒場があると、揃って足を運んだ。
お店の料理は確かにおいしく、お酒の種類も豊富である。
先生は、おすすめだというカニが乗ったブルスケッタをお皿に取り分けてくれた。
(保健体育の先生なので)、みなに飲みすぎるなと何度も忠告し、アルコールに向かない体質と無理はしていけないことについて真面目に語ってくれた。w
私は先生とまともに話したことがなかったが、先生は私と話した回数、卒業後に母校に訪れた回数をしっかり覚えていた。
同じく、友人も、もう一人の友人のこともしっかり覚えていた。
思いのほか、生徒思いな先生なんだと驚いた。
驚いたのも束の間、酔いが回る。
血管が収縮する感覚がある。頭が痛い。
いや、3杯しか飲んでないのに…
横にならないと苦しい。何かが出てきそう。
友人に告げると、「トイレいきな!」と言われ、
そそくさとトイレに行くと…
キラキラキラ~✨と綺麗な音がしました。
キラキラが出たら、落ち着いたが、
どうやら、キラキラを人生で初めて出すほど、緊張していたらしい。
先生に嫌なことを言われないか、差別発言をしたらどうしようと警戒しすぎていたようである。
結果、差別発言はなかった。嫌なことも言われなかった。
それは、ただ一回飲んだだけでは、本音を聞けないのか、
先生の意識が変わったのかは、分からない。後者だと信じたい。
もし、前者なら、差別発言をする人は、非常に身近にいる。
親切な人でも、何を言い出すか分からない。そんな恐怖感が一層に増した。
私は、変わらず警戒している。
当時の発言は、許されない。
「根はいい人」なら、変われることを信じたい。
また、来年も会ってみたいと思う。
また酔っぱらって吐いてでも、先生と対話をしたいのだ。