
山本義隆先生の解析力学を学んだ感想と本書のススメと今後の学習
🔹本書でしか学べない解析力学
私は約1年程、山本義隆先生の『解析力学」の学習を続けた。いちおうの目標である8章まで取り組んだので、この時点で感想を書くことにした。先生の書を手にした理由は前に書いたが、いわゆる「単位が取れる系」教科書で数式の表面を撫でたくらいでは解析力学は絶対に理解できないと思ったからだ。その類の書は大抵、基本的な問題を解くための直線的なレールを敷いている。そこを走るだけでは物理を理解したことにはならないと(いろいろ読んで)実感した。実際、ソビエトの物理学者Арно́льдは、「解析力学はいまや微分形式無しでは理解できない」と書いている。多変数を取り扱うラグランジュ方程式や正準方程式、それらの乗る状態空間や相空間、運動を表す積分曲線をあらわにするためのベクトル場、そういった数理的概念をしっかりと定義して、関係をとらえ、多様体上で学ばなければ正直何も残らなかっただろう。浅学非才の身でこういった文句を垂れるのはいささか烏滸がましいが、先生の本に喰い下がって本当に良かったと思っている。もちろんこれからもそのつもりだ。p39には書かれている。
面倒な議論をしているようだが、こうすることによってはじめて、解析力学で導入される状態空間や相空間のような直接には実空間に結びつかない抽象的空間上の幾何学的対象をユークリッド空間にひき移して解析的にとり扱えるようになるのである。‥共変性の要請を直接的に表現し検証することが可能となる。
私は、解析力学の美しさの一つは共変性にある考えている。だからこそ多様体上で、微分形式として普遍的に論理展開することが自然であり、かつまた教育的でもあるのだ。
🔹量子力学との関連
解析力学は量子力学への橋渡しとして重要だ。§7のハミルトン・ヤコビの理論にあるように、波動光学の近似として幾何光学があり、そして波動力学(量子力学)の近似として古典力学があるという考えに導かれ、アナロジーで自然に量子力学が構築されていく過程はやはり感動であった。p380には書かれている。
古典力学を波動力学(量子力学)のある近似ととらえ、その結果として古典力学の諸法則をより広い枠組みに位置付け、より深い基礎の上に据えることが可能となる。HamiltonとJacobiの理論の最大の意義はここにある。
( )はWANKOSOBAによる。
解析力学を「学ぶ」意義でもある。そして量子力学の教育の上でも、解析力学は改めアレンジメントを経てその役割を担っていってほしいと私は考えている。特に§7.3では、少しでもFeynmanの経路積分をかじることが出来て大変嬉しく思っている。前々から知りたいと思っていたことだから。遷移振幅の位相にハミルトン主函数の「揺らぎ」ΔSが取り込まれていて、量子力学の適用領域ではΔSがゼロとはならない。それゆえ量子力学ではいくつもの「経路」をさまざまな確率でとることができ、それで経路の和=積分を取るのだと理解した。ボヤけた感想しか述べることができないが、もっともっと学びたいと思っている(これについては今後Sakuraiや本場Feynmanの本を読もうと思っている)。
🔹ぜひ本書にチャレンジしよう
難解だと定評の本書だが、よくよく声に出して読み、手を動かして汗かいて計算しよう。読者は一人ではない。随所に復習のための記述があり、興味深く内容豊富な例が示され、そして大事なことは言葉を変え何度も書かれている。愛はいたるところ与えられている。
苦しくても続けよう。美しさを感じたいならば手を動かして、うんうん唸って考えて、掘り出しいくしかないのだ。人生は速い。やるしかない。
🔹今後の私の学習計画
1)全体として読み飛ばした部分や読みこみの浅い部分がある。隙間を埋めるとともに、「例」にしっかり取り組む。
2)必要な数学は全て載っているのだが、「群論」、「回転群」、「リー代数」については具体例がたくさん欲しい。岩波の理工系参考書を読んでみようと思う。
3)4章の力学系には関心がずっと残っている。丹羽の書など他の力学系の本も少し齧ってみたが、やはり興味深い。ただ、本格的には微分方程式や多様体、解析学を学び直さねばなるまい。Hirsch/Smaleの本も読んでみたい。が、後回しかな。
4) 量子力学に改めてモチベーションが高まっている。とくに最近J.S.Bellの理論や量子もつれ、経路積分に大いに関心が高くなってしまった。山本先生の書かれた『ボーアとアインシュタインに量子を読む』やDiracの原書で力を付けようと思っているが、だいぶ前に書いたように、基礎を俯瞰してからだろう。実際、上記『B&A』にも「初等的な量子力学の本には」などという記載がある。初等量子を終えてから読みなさいということだろう。原島先生の初等量子も良かったが、改めて小形先生の本から読むことにした。
これまた前に書いたが、私は方々に手を出してしまうタチで、興味エネルギーの散逸を起こしやすい性格なのである。そればかりか、逆に1つのことに大きくエネルギーをつぎ込む性格もある。それがためにロスも大きく長期戦を戦えてこなかった。途中で力尽きるのである。興味のエネルギーをコントロールし、できれば増幅させる技術を身につけたい。