原核生物とペニシリン
地球上の生物を大きく分けると細菌(バクテリア)・古細菌(アーキア)・真核生物の3つになります。そのうち細菌と古細菌を原核生物と呼んでいて、大きさが1〜10μm程度(ヒトの細胞が6〜25μm程度)です。原核生物は1つの細胞(原核細胞)からなる生物であり、原核細胞には膜構造をもった細胞小器官は見られず、細胞膜の外側には細胞壁が存在しています。ちなみに植物の細胞壁はセルロースなどから構成されており、細菌の細胞壁はペプチドグリカンから構成されているので同じ名前でも別物です。
※細胞小器官・・・染色体を内部に持つ核やミトコンドリア、葉緑体などの細胞内部を構成している要素。
先ほど紹介したように細菌の細胞壁はペプチドグリカンと呼ばれる物質でできています。そして1928年にイギリスのアレクサンダー・フレミングによって発見された世界初の抗生物質であるペニシリンはペプチドグリカンの合成を阻害する性質をもっていました。ペニシリンはペプチドグリカンを合成する酵素と結合することで細菌の細胞壁を薄くして増殖を抑制し、更には溶菌を誘発して細菌を死滅させるという効果をもたらしたのです。ペプチドグリカンを主成分とした細胞壁をヒトを含めた真核生物はもっていないのでヒトに対する毒性は低く、細菌だけを狙い撃ちすることができました。
ちなみにペニシリンはアオカビから作られており、ブドウ球菌(細菌の一種)を培養しているペトリ皿にカビの胞子が落ち、カビの周囲のブドウ球菌が溶解しているのに気づいた事から発見されました。つまり偶然の発見ということになります。しかし、菌の培養とペニシリンの抽出方法を確立するのに時間がかかり医療用として実用化されるまでは10年以上の歳月を要しました。
※抗生物質・・・微生物が作り出した物質であり、他の微生物の発育を阻害する。広義には微生物が作り出した物質を化学修飾したものも含まれる。
参考文献:嶋田正和ほか22名,「生物」,数研出版,(2017).