ようこそ就学相談会へ(3)

《まどみちおの詩と私たちのおもい》

まどみちおさんの詩。つづき。



   けしゴム
             まどみちお


自分が 書きまちがえたのでもないが
いそいそと けす

自分が書いた ウソでもないが
いそいそと けす

自分がよごした よごれでもないが
いそいそと けす

そして けすたびに 
けっきょく 自分がちびていって
きえて なくなってしまう
いそいそと いそいそと

正しいと 思ったことだけを
ほんとうと 思ったことだけを
美しいと 思ったことだけを
自分のかわりのように のこしておいて


      ◆


さて、私たちのけしゴムは、こんな感じでした。

      ◇


   わたしのけしゴム

この子が まちがえたものでもないが
いそいそと けす

子どもが書いた ウソでもないが
いそいそと けす

校長先生の「いじめられますよ」を
いそいそと けす

「分からない授業はかわいそう」を
いそいそと けす

「自己肯定感がもてません」を
いそいそと けす

そして けすたびに
けっきょく 怖れがちびっていって
きえて なくなってしまう
いそいそと いそいそと

たのしいと 思ったことだけを
うれしいと 思ったことだけを
あんしんと 思ったことだけを
この子のなかに のこしておいて


        ◆


   カニ
              まどみちお


カニがカニっとしているのは嬉しい
カニがそれを気づいてないらしいので
なおさら しみじみと…

ああ こんな私も私っとしていることで
だれかを喜ばせているのかもしれない
私がまるで気づかないでいるとき
いっそう しみじみと…

そう思うこともできるんかなあ
と私は私を胸あつくさせた


      ◆


   この子  

この子がこの子っとしているのはうれしい
この子がそれを気にもとめていないようで
なおさら しみじみと…

ああ こんな私も私っとしていることで
この子を安心させているのかもしれない
私がまるで気づかないでいるとき
いっそう しみじみと…

この子がどこにいても笑顔で
と私は私を胸あつくさせた

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