8歳の子ども
yoは着替えなくていいと 山田先生が言った
父ちゃんが迎えにくるという
体育館の入口で みんなが不思議そうにわたしを通り過ぎる
学校を出て、父ちゃんと一緒にその建物に入る
何か取り返しのつかないことを してしまったのだ
でも それが何なのか 8才の子どもにはわからない
いろんなテストをされいろんなことを聞かれる
何を試されているのか分からないまま がんばった 必死でがんばった
何を聞かれてもうまく切り抜けたつもりだった
「おねしょはどうですか?」
まずい 本当のことを言ってはいけない
「…ときどき」
父ちゃんと目が合う
「時々じゃねーだろ。本当のことを言え」
ぶちこわしだ 終わった そう思った
せっかくうまくやってきたのに…
必死でがんばったのに
その後のことを覚えていない
翌日から、またいつものように学校に通った
つぎがいつくるのか 迎えがいつくるのか
おびえながら わたしは生きた
何の説明もないまま 時が過ぎた
わたしが何をしたのか
わたしの罪は何だったのか
8才の子どもだった私には わからない
迎えは来ず いつしか子どもは
その日のことを忘れた
だけど わたしはただの子どもではなくなっていた
自分が悪い子だから この学校にいられなくなるのだと 8才のときに思った
自分がだめだから 友だちと遊べなくなるのだと 8才のときに思った
自分が情けない子どもだから 家族と暮らせなくなるのだと 8才のときに思った
気をつけろ もう一度目をつけられたら
今度こそ終わりだ
だけど 何に気をつければいいのか
それが わたしにはわからなかった
自分がどんな悪いことをしたのか わからない
ただ自分は みんなとは違う
自分には 何かが足りない
そのことが わたしになった
取り返しのつかないことが何かわからないまま
何に気をつければいいのかわからないまま
私は生きてきた
たいした望みはなかった
ただ ここにいたい
父ちゃんと母ちゃんと妹のいる家
友だちがいる学校
ただ ここにいたかった
だけど頼れる確かなものは なかった
わたしだけ着替えなくていいと また言われるかもしれない
わたしだけ学校にこなくていいと いつか言われるかもしれない
どこからか迎えが くるかもしれない
自分を守るすべが どこにもない
それがわたしの 「8才の子ども」だった