おいもほりの詩
曇天の芋畑
オレンジ、桃色、むらさきの
色とりどりの帽子を あみだにかぶり
まっ白い体操着に 長靴をはいて行進する
あらくれで知られた東軍の
名だたる歴戦の猛者どものように
やる気まんまんの園児たちが
小山を登ってあらわれた
ときこそ今は 秋のイベントおいもほり
地中にて 長い惰眠をほしいままにしていた
芋たちよ あをざめよ
待ちわびたる園長先生の号令が
その天たかく 響くとき
小さな両手に軍手をはめた
園児たちは鬨のこえを上げる
慌てふためき 逃げまどう土中の虫とミミズたちに遅れ
さらに地中深くもぐらんとする芋たちの
のんきに繁ったつるの葉は 力まかせにむしられて
らせんにのびたるそのつるは 一本のこらず引っぱられ
無慈悲な園児たちの 輝くふたつのまなここそ
小さな芋のしっぽさえ 見逃すことなどなかりけり
突如としておとずれた この戦乱のさなか
むざむざ敵の手にかかるよりはと
念仏となえて次々に
手に手をとりて 入水におよぶ芋たちは
仏ならん小さなたなごころに むんずむんずと捕えられ
聞け しかし安逸の闇より
白昼の下へたかだかと掲げられるとき
大きいのも やせたのも ふといのも
まるいものも ぼこぼこしたものも
おのれを誇れる野蛮人らにもまして
大口あけて一様に
歓喜のおたけびを あげるではないか!
陽がかたむくより前に
すっかり穴だらけにほり返された 芋畑をあとに
顔といわず腕といわずどろに汚して
意気揚々とひきあげる園児たちのしんがりに
園長先生の引くリアカーが その後半月以上の永きにわたり
娘たち 息子たちを待ちわびる
お父さんお母さんたちの 浄土と見まごう食卓を
賑わすであろう戦利の品の 芋たちが
その荷台に山と積まれ
やがて吹き始めた 夕暮れを呼ぶ秋風に
すっかり観念の面持ちで
泥のこびりつい短いひげを
満足気に揺らすのであった
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