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私は、私の芝居を見たことがない《INDEPENDENT:SND23の話》

▼ざっくり自己紹介
浅井 千寿代(あさい ちずよ)・役者
奈良出身、名古屋在住
名古屋を拠点に活動する劇団わに社の副社長
最近は、ワンピースを一巻から読み直しています。

◇◇◇

2023年7月6〜9日に開催された最強の一人芝居フェスティバル東北版“INDEPENDENT:SND23”『I dig(アイディグ)』という作品で出演させていただきました。まだ今月の話なのに不思議ともう随分前のことのような気がしています。それぐらい毎日が濃厚で特別で夢のような時間でした。

出演が決まってから公演が終わるまでの期間、色んなことを考えました。この経験は必ず今後、私の役に立つ。それに、この公演を通じて感じた気持ちも忘れたくない。

なので、しっかり記録しておくことにしました。私の役にしか立たないような記録かもしれませんが、よければお付き合いください。


招聘が決まったとき

『I dig』は、昨年8月、名古屋(INDEPENDENT:NGY22)で初上演しました。同年11月にも大変有難いことに、大阪(INDEPENDENT:22)に招聘いただき再演いたしました。大阪では、望んでいた程の結果を残すことはできなかったものの「やりきった!」と胸を張って言えるくらいには、その時の全てを出せた公演でした。なので、次に再演するとしたらしばらく先になるんだろうなぁと思っていました。新作一人芝居を作ってまた一から挑戦しようと考えていた時に、INDEPENDENTプロデューサー相内さんから、SND23へ招聘のお話をいただきました。もう終わったと思っていたのに「『I dig』は、まだ掘れる作品」だと言っていただけて、こんな嬉しいことはない!!!と、なんの迷いもなくお引き受けさせていただきました。

3度目の挑戦、始まる

そうして、約半年振りに『I dig』の稽古を始めました。台詞を思い出すのはそんなに難しい作業ではありませんでした。久々だし「さくっと一回通してみるか〜」とやってみたところ、ラストシーンに辿り着く頃には、息切れ、立ち眩み、声が出ない、もう芝居どころじゃない。『I dig』は、30分間スコップで穴を掘り続けるため体力の消耗が激しい芝居です。それにしても、これが私か?半年でここまで体力って落ちるもの…?と愕然としました。前回の芝居を100点とするならば「半年空いたとしても70点ぐらいからスタートできるかな〜」とか考えていたのに、実際は20点でした。(絶望)200点目指すつもりなのに、これは想定外すぎる。しかし、タイミング良く社員(劇団員)で身体を鍛えたいメンバーと運動の報告LINEグループを始めたところでしたので、みんなと一緒にトレーニングを開始しました。

 念のため、メンバーの名前は伏せましたが
わに社の女性社員たちです!


そのかいあって、稽古始めたばかりの頃は、翌日が一日動けなくなるくらい疲労していたのに、最終的には3日間の本番全て、全力出しきれるくらい体力がつきました!健康にも気を遣い3キロの減量も達成。(イェイ)

私がなりたいのは

稽古は順調に進み、やればやるほど良くなりました。本番直前の仕上げには、何人かの役者さんに観てもらう稽古をしました。(主に緊張に慣れるため)最後の稽古日には、劇団わに社×名古屋クリエイトの次回公演『野菜、キッチン、おとう』の座組の皆さんに観ていただきました。沢山の人に観てもらうので、気合いを入れて頑張りました。でも、終わった後、演出の社長から今回の稽古が始まって初めて「いつもより良くなかった。見せたかった芝居じゃなかった。」という辛辣な講評をもらいました。いつも通り全力でやったのに、なんでそうなったのかわかりませんでした。それどころか、なんでダメ出しされてるのかさえわからなかった。失敗らしい失敗はなかったはずなのに、と。社長に動画を見たらわかると言われたので、不貞腐れながら録画してもらった映像を見てみました。見た感想「動画で見る分には悪くない、むしろ良いのでは…?」んん?何がそんな悪かったんだ?とさらに謎に陥る。そしたら、たまたま一年前の台詞を覚えたばかりの動画もあったのでなんとなく見てみました。見た感想「怖いぐらいど下手くそ…!!」だけど、なんか勢いがあって、必死さ、切実さみたいなものが滲み出ていました。それを見ていたらわかりました。なんて優等生な芝居をしてしまったんだと。上手くなったけど、一番やったらあかんことをやってる。社長の言っていたことがやっとわかりました。確かにあの日、私は人の目を意識して、失敗しないこと・上手くやることを無意識に心の何処かで目標設定していたように思います。さらに、私が(ノリに)乗ることによって観客の皆さんも一緒に乗ってきてくれるのが『I dig』なのに、あの日は、観客を乗せようとしてしまいました。強要というよりかは、下からお願いするような感じです。大丈夫かな?楽しんでくれてるかな…?って、観てくれている人達の顔色を伺いながらやってしまった。これは、一番良くないやつです。誰も楽しくないやつです。拍手も手拍子も強制じゃない。あるとき、私は社長に「『北風と太陽』の太陽になります!まずは、私が心をオープンにしてお客さんの心を開いてもらえるようにします!」と言いました。そしたら社長に「そっちじゃないんじゃない?浅井くんが『I dig』でやるのは“旅人”。 振り回されてる側。喜んだり落ち込んだり周りに振り回されて四苦八苦してるその姿を見てもらえばいい」と言われました。そこで忘れかけていた大前提を思い出しました。

『I dig』は、感動させようとか、何か大切なメッセージ届けようとかそんなたいそれた作品ではない。(ドーン!)

観客の皆さんは、その場に遭遇してしまい、私(主人公)に絡まれて巻き込まれちゃった人々です(笑)愛子ちゃんの必死に生きる等身大の姿を見て、自由に色々感じてもらえたら幸い、そういう作品でした。私が太陽になって影響を与えようとかそんなんじゃない。絡みにはいきますけどね。「ちょっと聞いてよー!!こんなことがあってさ!!!ねぇ、聞いてる!?」って。そういう酔っ払いの話です(笑)ちょっと離れましたが、観客の皆さんの顔色を伺いながら優等生な芝居をしていたことに本番前に気づけて本当に良かった。優等生より、下手でも一生懸命なやつになりたい。おかげさまで本番では、観客の皆さんと最高に楽しい時間が過ごせました!!!最悪かと思った稽古が一番大事な稽古になりました。

本番前、自分に言い聞かせていたこと

「芸術に失敗は存在しないんですよ」「失敗という概念は一度捨ててみて」と漫画『ブルーピリオド』美術部顧問の佐伯先生は言いました。この言葉に救われた。私は、失敗することが怖くて仕方ありませんでした。仙台に招聘作品としてお呼びいただいたのに、面白くないと思われたらどうしよう。こんなに努力してきたのに、本番で上手くできなかったらどうしよう。失敗するぐらいならやりたくない。そんなことを思っていました。ですが、この言葉を読んで、芸術に失敗はないならばその時々の正解があるだけだ。あとは、好みの問題!私はただ、今日の『I dig』をすればいい。そして、100点じゃなく120点以上を目指すために保身には走らない。失敗ではないけど、挑戦しなかったら後悔するし、なにより楽しくない。ラストシーンでは「限界を超えろ!」といつも自分に言い聞かせていました。息が切れる、体も重い。「苦しい止まってしまいたい。そう思った瞬間からの一歩」これは、漫画「ハイキュー!!」影山くんの言葉です。漫画に支えられて舞台に立っているなぁ。

私は、私の芝居を見たことがない

もうひとつ、私の弱々メンタルを支えてくれたもの。『I dig』が大好きだとずっと公言してくれているまっしゅちゃん(まっしゅななみ)が冗談で言ってくれた「ちずさん『I dig』生で観れないのかわいそう!」って言葉。(最高の褒め言葉)確かに動画では何度も見ているけど生では一度もない。だから、私には『I dig』と他の作品を比べることはできない。INDEPENDENTのように色んな作品とご一緒すると、どうしても他の作品が魅力的に思えて自分の作品に自信がなくなってきてしまいます。今回も先に反対チームを観劇したときの、最初の感想は「とんでもないところに呼ばれた…!」でした。こんな凄い人達ばっかりの中、招聘作品で期待していただいているだろうに「私、大丈夫か…?」と正直言うと思いました。でも、まっしゅちゃんの言葉を思い出して、私は『I dig』見たことないんだから比較しても意味がない!と思えたら、安心して他のチームの作品を楽しむことができました。それに、好みが分かれるのは当然なのだから、私達が面白いと信じる『I dig』が誰か一人にでも強く刺さればそれが幸せだと素直に思えました。

INDEPENDENT:SND23

仙台は、最高でした!!!!!(大声)スタッフさん、共演チームの皆さん、観劇してくれた皆さん、みんな温かく迎え入れてくれました。口を揃えて言ってくださったのが「名古屋から来てくれてありがとう」という、涙がでそうなくらい嬉しいお言葉でした。私でいいのかなと、ずっと感じていた不安を吹き飛ばしてくれました。『I dig』って、見たことある方はわかると思うのですが第一印象「なんやこいつ」じゃないですか(笑)だから、最初はアウェイな空気になるのも覚悟していたのですが、そんなこと考えていたのが失礼なくらい、仙台の皆さんは温かくて、そしてノリが良い!!!(笑)いっぱい笑ってくれて、いっぱいリアクション返してくれて、もう楽しくて仕方なかったです。共演チームの皆さんも全員素敵な人達でした。『INDEPENDENT:SND23』をみんなで盛り上げようという気概を感じましたし、各々が各々の最強を見せてくれました。一観客としても、最高に楽しい一人芝居フェスティバルでした。終演後にも沢山の方が声をかけてださって本当に嬉しかったです。感想ツイートも全部読みました。感じたことを伝えようとしてくれること、行動をしてくれたこと、心から感謝です。幸せです!!出会ってくれて、ありがとうございます。あんなに熱のこもった拍手は、一生忘れることができないと思います。私達を仙台に呼んでくれて、本当にありがとうございました!!!!

#SND23集合写真

最後に

『INDEPENDENT:SND23』に出演が決まってから、沢山の方にお世話になりました。3度目ですので、お世話にならない方法もあったかもしれません。でも、力を貸してくれたみなさんのおかげで自分達だけでやるより100倍良いものが出来ました!!終わった時に、そう思える公演にしたかった。みなさんのおかげで大成功です。地域招聘を凄いことだと喜んでくれた名古屋の皆さん、稽古に協力してくれた皆さん、仙台まで来てくれたわに社員たち、仙台公演の感想を自分ごとのように喜んでくれた『I dig』を好きでいてくれる皆さん、INDEPENDENT:SND23の関係者の皆さん、こんな最高の機会を与えてくれたプロデューサーの相内さん、本当にありがとうございました!!!!

そして…
脚本の鰐塚先生、演出の社長、今回も本当にありがとうございました。大阪で、最高の体験と自分達の未熟さを同時に味わって、もっとすごいことしてやろうと思っていた矢先のSND23。出演できて本当に良かったです。いつも思いますが、私が社長の立場なら、こんなビビリで不器用なやつに最後は全てを託すなんて怖くて仕方ないです(笑)なのに、やれると信じてくれて、チームを組んでくれてありがとうございます。だからですかね、私はやっぱり公演が終わったとき社長が「やったな!」って顔してるときが一番嬉しいです!私がずっと言ってるスタンディングオベーションの夢が叶うまで、あと少し…ではないかもだけど、もうしばらくよろしくお願いします!!私達が心から面白いと思うものをこれからも作っていきましょう!


名古屋での再演を楽しみにしてくださってる皆さんがいますので、それが終わるまでは『I dig』はまだ続きます。掘れるところまで掘ってやろうと思います。

そして、また仙台、大阪、全国に一人芝居しに行きたい。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

またね!


【おまけ】 塩レモン

今回、実は暗躍してくれた人がいました!今までも稽古の動画を撮影したりフライヤー写真も撮影してくれたやまだちゃん(やまだともみ)です。上の写真もやまだちゃんが撮影してくれたものです。ですが、今回やまだちゃんにお願いしたのは、撮影ではありません。

『I dig』後は、みなさん「塩レモン」を
見つけて写真を送ってくれます(笑)


突然ですが『I dig』の主人公“愛子ちゃん”は、マッチングアプリで知り合った“通称:塩レモン”に恋をします。もう3度目の公演、よりパワーアップするために塩レモンと知り合ってから穴を掘るまでの出来事をもっとちゃんと想像したいなぁ。そんな時、お隣にいたやまだちゃん「…ねぇ、やまだちゃん。塩レモンのフリして、うちとメッセージやり取りしてくれん?」「いいよ!」と何故か二つ返事でOKしてくれたので(笑)愛子ちゃんと塩レモンがマッチングアプリで出会うところから実際にやってみました!流れがなんとなくイメージできたらいいかなぐらいの気持ちだったのですが、彼女は予想を裏切るクオリティの高さで塩レモンに息を吹き込んでくれました。

#わざわざ塩レモンアカウントを
作ってくれたやまだちゃん
#愛子と千寿代が確実に落ちたメッセージ


こんな感じで、塩レモンと公演までの約2ヶ月間メッセージをやり取りし絶妙に距離を近づけていきました。さすが、名古屋・大阪どちらの公演も観に来てくれて稽古も最初から何度も見て『I dig』を愛子ちゃんを知り尽くしているやまだちゃん。必要な情報を上手に盛り込みつつ、愛子と千寿代を落としてきます。こんなやり取りしてたらね、そりゃ愛子ちゃん期待しちゃうわ!好きになっちゃうわ!!!「ときめきカムトゥギャザー(台詞)」ってなんだよと思ってましたが、まさにときめきカムトゥギャザーな日々を過ごしてしまいました。(やまだちゃんには、チョロいと言われました。)

そして、7/7(公演初日)に無事デートの約束を取り付けることに成功。

#仙台にある待ち合わせのカフェ
もちろん行ってみた


こうして今まで以上に私の中で塩レモンという人物がはっきりと存在したことによって、無意識にそれが芝居に反映されるようになりました。塩レモンのことを話してるとき、塩レモンに向かって話してる時、自然と頭に送りあったメッセージの内容が浮かんだり、楽しかったことを思い出すようになりました。今回、今まで以上に感想で「可愛い」と言っていただけたのも、愛子ちゃんの恋する女の子の一面がより強くなったからではないかと勝手に予想しています。

公演が終わったのでメッセージも終わり、寂しくなりますが本気で塩レモンになってくれたやまだちゃんには助演男優賞を贈呈したいと思います。🏆🍋

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