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【ブラック】ショートショート

こちらも以前書いてメンバー限定で公開していたものをこちらで転載・公開します

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【彼の場合】
「ハァ・・・ハァ・・・」
アレが欲しい。
アレを必ず手に入れなければならない。
沢山必要だ。
どうしても、どうしても、どうしても・・・

男は焦っていた。

絶対にクリアしなければならないミッションが彼にはあった。

『明日までに、最低でも100は集めてこい』

それが、上からの指示だった。

「ハァ・・・ハァ・・・」

彼は疲れた体を引きずり肩で息をしながら、夕闇の中で今までの『成果』を改めて数えなおした。

96。

「・・・残り、4・・・」

口に出して呟いた彼の目に、灯りが見えた。
家族で住んでいるのだろうか、二階建ての一軒家だった。

彼は最後の気力を振り絞って一軒家に向かい、そして、呼び鈴を押した。





【彼の上司の場合】
「101」

ふむ。
ノルマはクリアしたようだな。

『成果』の山を目にしながら、「上出来だ」と彼の上司はつぶやいた。

これから加工部に依頼してこれをデータ化させるか。

電話の受話器を持ち上げると、「いつも通りに頼む」と一言告げて、上司はコーヒーを淹れに行った。




【加工部の場合】
毎日毎日イヤになるよなぁ・・・
そう思ってるのは自分だけではないとこの場の雰囲気でわかる。

そういうものだ。

毎日毎日モクモクと作業はしているが、自分が何の作業をしているのか、この仕事が何の役に立っているのかも不明だ。

ただ、ただ、肉の塊の中から、小さなカプセル状のものを取り出す作業を繰り返すだけ。

肉は毎回廃棄で、大事なのはこのカプセルなのだそうだ。

カプセルは一つでも紛失するとものすごく怒られる。
いや、怒られるで済めば良いが、たいていの場合はクビになる。

先々週もそれで一人辞めさせられたばかりだ。

・・・転職しようかな・・・

そんなことを思いながらも、今は目の前の作業をこなすしかない。

そう思いなおすと、加工部員は慣れた手つきで最後の肉塊からカプセルを取り出してトータルの数を数え始めた。





【加工されたデータは】
「今回は101です」

加工部からカプセルが運ばれてくると、データ部での処理がスタートする。

カプセルに記録されている情報を一つ一つ読み取り機にセットして情報を読み取り、それを手作業でリスト化していくのだ。

「自動読み取り装置があればいいのに」と口に出したら「そんなのがあったらわたしたちは失業よ?」と先輩に冗談めかしてたしなめられた。

ま、それもそっか。

気を取り直してカプセルを一つ読み取り機にセットして、今日の作業を開始した。








【データの行方】
リスト化されたデータを取引先に引き渡し、数に応じた金額が記載された伝票を「では、振り込みはいつも通りお願いします」と事務員の女性に渡した。

今回は数が少し多かったので金額も若干多めだった。

納品伝票をチラリと見た事務員さんからは「わかりました」と短い返事があった。

ひと月に一度程度の取引だが、いつも素っ気ない。

そんなに気にすることでもないけどね~と自分に言い聞かせながら、営業担当は帰社前にどんなお店でランチするかに考えをシフトさせた。








【エピローグ】
RRRRRRRRRRRRRR・・・

一軒家の電話が鳴った。

が、誰も電話に出る気配がない。

そのうち、『ただいま、留守にしております、御用のある方は・・・』と留守電のメッセージが流れ始めた。

留守電のメッセージが終わると、明るく高めで無駄に元気な声が響いた。


「こんにちは、○○様のお電話番号でお間違いございませんでしょうか?健康食品の株式会社健康一番でございます、ただいま大変お得なキャンペーンの情報を・・・」

メッセージの録音時間が切れるまで、健康食品会社の宣伝文句は続いた。




・・・メッセージが録音されている電話機のあるリビングには、手首を切り落とされた遺体が5つ転がっていた。
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wandasince95
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