しゃべるピアノ
『ふぁ』
ファンファーレが鳴り響いて、祝砲の合図で僕は群衆の前で歌い出した。
地獄の底から響いてくるような低音も、天使が舞い降りてきそうな高音も、奏者次第で使い分けて拍手喝采を浴びる。
そういう華やかな仕事の中心にいるのが僕だ。
僕は「せんさい」なので、メンテナンスを定期的に受ける。
一昨日も専門のメンテナンス員がやってきて、僕をあちこち点検していった。
昨日は別のメンテナンス員がやってきて、いつもとは違う点検をしていった。
おかしい。
なんだか一昨日までと昨日からでは身体の重さが違う気がする。
誰か、もう一度僕の身体をメンテナンスしてくれないだろうか。
今日も大事なセレモニーがある。
大勢の人の前で歌うんだ。
やがて、ファンファーレが鳴り響いた。
祝砲が鳴り響き、人々の悲鳴がそれに続いた。
僕は・・・僕は・・・もう、メンテナンスが不要な身体になった。
いいなと思ったら応援しよう!
チップで応援していただけると心強いです。いただいたチップでパワハラで受けた傷を癒やします(。・ω・。)ノ□←珈琲とか