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初めて会った日
ちょうど一年前の今日、初めて相方さんに会った。
とある音楽系SNSで知り合ったその人とユニットを組むことになった私は、早めの夏休みを取って数日前から旅をしていた。旅の最後の、そして本当の目的は、相方さんに会うことだった。
私は小さくて新しい、今風のマンションみたいなホテルに泊まっていた。1階にカフェの様なラウンジがあった。そこでお茶をしながらいくらでも話ができそうだ。
普段私はSNSに対しては保守的で、いいねボタンはやたらめったら押さないし、よっぽどでないとコメントもしない。そんな私が自分からその人にコンタクトを取った。ある歌の伴奏をしてくれないかと頼んだ。メッセージや音声ファイルのやり取りを重ねていくうち、どうしても文字だけではコミュニケーションが難しくなり、お話しようということになった。
初めての通話で3時間近く話した。その時に「ユニットを組みませんか」と言われた。
2階の部屋の窓から通りが見下ろせた。左の方から歩いてきた人が、ホテルの前に立ち止まり、スマホを見ながら何か確かめている。その人がホテルに入った。「着きました」とメッセージが届いた。私は鏡の前に立ち、マスクをしっかりつけた。
ホテルの1階の中庭は吹き抜けで、大きな木や植物が植わっていた。浅い夏の柔らかな日差しに緑が光っていた。その脇の通路に、リュックを足元に置き、両手を前に結んで、行儀よく立っている人がいた。「こんにちは」と話しかけたら「はじめまして」と名刺を渡された。営業マンみたいなその人を見上げると、マスクの上に覗く目から、私の目に、優しい眼差しが降ってきた。私は、私の音楽人生の、初めての相方さんが、この人で良かったと思った。