【考察】アグネスタキオンのQ.E.D.
5月24日(金)から上映されている『劇場版 ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉(BEGINNING OF A NEW ERA)』ですが、公開から3週間ほどが経ち、SNSで感想を述べる方や独自の考察をされる方が増えてきました。
そこで、私も一ファンとして、推しキャラである『アグネスタキオン』の描写について考察をしたいと思います。
※ネタバレを多分に含みますので、未視聴の場合は十分にご注意ください。
少し感想と題材選びについて所感
今回の劇場版は数ある競馬の世代の中でも「2001年クラシック世代」を描いています。
2001年クラシック世代と言えば、皐月賞馬アグネスタキオン、日本ダービー馬ジャングルポケット、菊花賞馬マンハッタンカフェに加えて、クロフネ、ダンツフレームなど実力が拮抗した馬が多数いる戦乱割拠の世代でした。(G1馬を多数排出したことから最強世代とも言われています)
そのような世代を描くので、誰を主役に据えるか迷いそうなものですが、今回は日本ダービー馬ジャングルポケットを主人公にして制作されました。
元々見込まれていた実力に加え、オーナー、調教師、厩務員、騎手が全て同じで、クラシック参戦をケガで断念した1995年クラシック世代のフジキセキのリベンジをするという物語性もあっての抜擢でしょう。
そのため、ウマ娘のジャングルポケットもフジキセキに憧れて競争の世界に身を置いたという背景が描かれます。
そして、アグネスタキオンという強敵との出会い、自身の強さへの葛藤、強くなるライバルたちとの熾烈な争い、当時の最強たるテイエムオペラオーとの熱い勝負と見どころ満載の映画になっていました。
映画でのアグネスタキオン
アグネスタキオンとは
考察を述べる前に、アグネスタキオンというウマ娘について少し説明をしたいと思います。
そのキャラクターは一言で言うと「走ることを本能的に求めるウマ娘の可能性について研究しているマッドサイエンティスト」です。
正直言うと、競走馬のどこをとればマッドサイエンティストになるのか…という思いはあります。
これは私の考えですが、
確かな実力を持っていたにも関わらず脚の弱さから競争を断念せざるを得なくなった
↓
限界を越えるためには何が必要かを考え始める
↓
脚を頑強にするため、速さと強さを両立させるためなど自身の限界を引き上げることを研究し始める
↓
サンプリングのために自身の作った薬品を研究のためと称して他のウマ娘やトレーナーに配りまくるマッドサイエンティストになる
というような意匠で作られたキャラクターなのではないでしょうか。
映画の中では、アグネスタキオンは主人公ジャングルポケットの同期であり、最初に立ちはだかるライバルとして登場します。
映画全体を見ると"準主人公"のような立ち位置で描かれており、ジャングルポケットが一番意識している相手として終盤まで登場しています。
その証拠に、ジャングルポケット、フジキセキに次いで心情描写や背景の説明が多いキャラクターでした。(私観測で、ですが)
ウマ娘でいうところのジュニア級(競走馬で言うと2歳)からクラシック級(3歳)の前半という、ジャングルポケットが自分の強さに疑問を抱いていなかった時に出会った強力なライバルがアグネスタキオンです。
そのように見ると、物語の核心に迫るキーパーソンとしての役割があることが感じられます。
一応参考資料として、アグネスタキオンとジャングルポケットの戦績をご参照ください。
レースタイムなどを見るといかにタキオンが他馬を置き去りにしていたか分かります。
「物事はえてして、消去法さ」
ここから私が気になったことを考察していきます。
今回私が気になった場面の一つが、皐月賞後の「物事はえてして、消去法さ」という発言でした。
これは何をもって発言されたか。順を追って考えていきたいと思います。
作中、一貫してアグネスタキオン(以下タキオン)は「ウマ娘の可能性を研究する」という目的で行動しています。
実際、競争の無期限休止を発表し、ジャングルポケットなどから理由を聞かれた際も「勝敗なんて私にとっては重要ではない」というようなことを放言しています。
当初は自身の足でウマ娘の可能性を追求する心づもりだったと思います。実際そういう発言がありました。
しかし、徐々にその計画は崩れていきます。流れで見ていきましょう。
●ジャングルポケットと邂逅した『ホープフルステークス』の直後
→自身の足を気にする仕草と、後日自身の脚のレントゲンを見ながらプランAとプランBの話をブツブツ呟いています。
ちなみにしっかりとした言及は作中にありませんが、スマホゲーム内では、プランA→タキオン自身がウマ娘の可能性を研究する実験台になること。
プランB→他のウマ娘の走りを観測して、"自分の代わりに"可能性を見せてもらう
というものです。
(私はゲットできていないので詳しいことは分かりませんが、プランBについてはマンハッタンカフェの育成ストーリーで詳しく触れているそうです)
●弥生賞でのガラスの脚が割れる演出
→もう右足が震え始めています。
ここは私の考察ですが、マンハッタンカフェが走る理由として挙げていた「あの子に追いつく」ということ。カフェはタキオンの弥生賞の走りを見て、明確にあの子に追いついていたと話していました。
一瞬圧倒的な速さへのある意味賛辞ともとれる発言ですが、私は「光速を超えてそのまま戻ってこなくなる」という意味合いもあったのではないかと考えます。"あの子"のエフェクトが雷なので余計そう考えさせられてしまいます。
●脚の限界を越える覚悟を決めたタキオン
→弥生賞ですでに、脚の限界が近いことを察したタキオンは、勝負を求めるジャングルポケットに「皐月賞で決着をつけよう」と話します。
さらに、皐月賞前の控え室でジャングルポケットが正式に宣戦布告をしに来た際にも、退室後、自身とライバルたちに告げるように「タキオン」という名前が光速より早い仮想の粒子という意味を持つことを前提として、「仮想でも示しておくべきだろう、狂気が生み出す残光を」と宣言します。
それだけタキオンはジャングルポケットとは別の意味で本気だったのです。
そう、タキオンは弥生賞後に「限界を超えて」走ることを選択していました。
◉そして、皐月賞での圧勝。
→ダービーでの再戦を希望したジャングルポケットに対して、自分に言い聞かせるように発したのが「物事はえてして、消去法さ」という言葉でした。その後の夕方の電車で一人揺られるシーンが印象的です。ここも自身の脚が使い物にならなくなったことの暗喩ではないでしょうか。
そして、直後の競争の無期限休止会見。引退とは明言しなかったものの、確定的な未来は存在しないと濁すような発言をしています。
あまりにも唐突な展開に作中のキャラクターだけでなく、史実を知らないウマ娘ファンも狼狽えたことでしょう。
以上の流れから見えた「物事はえてして、消去法さ」という発言の意味、それは「ウマ娘の可能性を探る研究において、もう自分の体(脚)は必要ない」ということ。
思い返すと、メイン4キャラみんなそうですが、走る目的が明確です。
ジャングルポケットは「最強になる」
ダンツフレームは「舞台の真ん中に立つ」(名馬の肖像「次の幕こそ」のオマージュか)
マンハッタンカフェは「あの子に追いつく」
そして、アグネスタキオンは「ウマ娘の可能性を求める」ということです。
プランAとプランBの話を意識するとわかるのが、タキオン自身が自分の脚でたどり着く可能性はすでに観測し終わってしまったというQ.E.D.でした。
それを示すかのように、タキオンは皐月賞で今まで一回も見せたことがない爽やかな笑顔でゴールしています。まるで自分の役目を全うして背負っていたものを払拭するかのように。
自身さえもモルモットとして可能性を追い求めるアグネスタキオンが、自身の体を使い切った"証明終了"の言葉なのではないでしょうか。
積み上げられた段ボール箱
そして、もう一つ私が気になった箇所は「徐々に積み上げられる研究室の段ボール」でした。
研究室の様変わりを象徴するアイテムだったので、目に止まった方も多いと思います。
ただ、深い意味を考えるとなかなか難しいです。
そこで、単純に物語に即した考察をしてみました。
まず結論から述べますが、「高く積まれた段ボール」の描写は「アグネスタキオンの疎外感」を表していると思います。
順を追って説明します。
皐月賞後、タキオンは競争生活を"無期限休止"という形でストップしています。
これは、浅屈腱炎で引退したことをモデルにしていますね。
屈腱炎というのは馬にとって、競争生活を無理やり終了させられるレベルの厄介な病気です。人間に置き換えて考えるとガンに近いです。
日常生活に支障はないものの、徐々に体を蝕んで、放っておくと死ぬような病気です。
そういう意味では、タキオンはかなり重篤な状態にあるのです。
そういったことから、タキオンはもう走れないことを理解した上で競争生活に幕を閉じました。
前項で取り上げた通りプランAを完遂したのです。
このあたりで物語も大きく進みますね。
ただ、日本ダービーから徐々にタキオンにも心境の変化が訪れます。
●日本ダービー。ジャングルポケットの勝利とタキオンの葛藤。
→当初は「私の代替品としてウマ娘の可能性を見せてくれ」というような言葉を発していたが、痛む脚とは裏腹に「本当に"私の代わり"でいいのか…?」という疑問が湧く。
●菊花賞後、煩雑になっていく研究室。
→欲求を振り払うように研究に没頭しているが、足の疼きを抑えきれていない。(貧乏ゆすり)
★段ボールが多くなっていく。
●決意を固めたジャングルポケットからまた走ることを求められる。
→フジキセキとの併走で迷いを吹っ切ったジャングルポケットに、ジャパンカップ出走に向けての併走を求められる。
★タキオンは断るものの、ジャングルポケットの決意の言葉と改めて勝負してほしいという言葉に感じるものがあり、段ボールを片付ける。
◉ジャパンカップでのジャングルポケットとテイエムオペラオーの激闘
→最終コーナーを回った直後に観客席でレースを見ていたタキオンをジャングルポケットが一瞬視線を合わせる。
★レースが白熱する中タキオンはレース場から飛び出し、プランBでは意味がない、自身の走りで証明しなければならないと言い、走ることの楽しさを再確認する。
そう、結局タキオンは"走りたかった"のです。
映画の冒頭で「ウマ娘は本能的に走っている」というようなナレーションが流れますが、これが全てです。
本能のままに走っているジャングルポケットを、自身の代わりにウマ娘の可能性を顕現してくれる存在として認めていますが、その走りにタキオンが徐々に影響を受けているのです。
そんなウマ娘として当たり前の欲求を、「研究」という盾を使って抑え込もうとしています。
そして、自身が走るために用意していた道具を段ボールに詰め込んでいきました。
まるで"走りたい"という欲求を段ボールに入れて封をするように。
そして、より印象的なのはジャパンカップ前にジャングルポケットがアグネスタキオンにジャパンカップを見に来いと宣言するシーンです。
ここで積み上げられた段ボールを隔てて二人が会話をしています。
フジキセキの言葉を借りれば、タキオンの心中は「もう私の時代ではない」というところになるでしょうか。もうジャングルポケットやその他のメンバーが活躍する時代には戻れないという諦めを感じるシーンです。
この"疎外感"がジャパンカップの直前までタキオンの中にありました。
しかし、会話が終わった後ダンボールから研究資料などを取り出して、元の研究室の姿に戻します。
そこで元々赤い光で覆われていたタキオンの部屋も本来の色を取り戻します。
タキオンはまたライバルたちと新時代で競い合う決意をしたのです。
「段ボール」はタキオンの心情を表す一種のバロメータとなって、主人公ジャングルポケットとはまた違う苦悩や葛藤を描いていました。
段ボールを通して見ると、ジャングルポケットの物語であると同時にアグネスタキオンの物語でもあったことを窺わせます。(言い過ぎかもしれません)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
アグネスタキオンを取り上げたのは、無事是名馬が望まれる世界で、『故障引退』という競争生活のシャットアウトを明瞭に描いているのがアグネスタキオンとフジキセキだったからです。
しかし、それであればフジキセキに注目するのも手だと思いましたが、フジキセキはジャングルポケットの師匠やアドバイザー的な立ち回りが目立ちました。やはりすでに引退後の話であるわけですから仕方ないと言えば仕方ないです。
しかし、アグネスタキオンはライバルとして、同世代の最強として対等に向かい合っていました。
そのため、より「競争生活の終わり」の描写が濃くなっていたと思います。
ウマ娘アニメの第3期でキタサンブラックが直面していた『衰え』とはまた違う「終わりの訪れ方」を、アグネスタキオンは見事に演じ切っていたのではないでしょうか。
ただ「終わり」の描写がウマ娘の本質ではないとも考えています。矛盾も甚だしいですが。
例えばアニメ2期、今回の劇場版でも要素として表れていた「復活劇」という部分です。
今回の映画の最後に、タキオンと同期たちでレースをしようとしています。
現実の競馬では、引退すれば競争生活に戻ることはありません。
しかし、ウマ娘では"無期限の競争中止"という形をとりました。これはレースに戻ってくることができるという競馬ファンが夢見る「IF」です。
弥生賞で体調不良のために負け続きとなり、ダービーを休養にあて菊花賞で鮮やかに勝利したマンハッタンカフェ。
ダービーを勝つものの、自分は本当に最強になれるのか迷いが生じて自身の走りを取り戻せなくなったものの、フジキセキとの併走で迷いを吹っ切りジャパンカップでテイエムオペラオーを破ったジャングルポケット。
そして、脚のケガで自身の研究を他のウマ娘に代わりに進めてもらおうとするものの、自身の脚で証明しなければ意味がないことに気付いていき、ジャングルポケットの言葉と走りでまた競争への意欲を示したアグネスタキオン。
それぞれ三者三様の復活劇が映画を彩っていました。
私は正直まだ考察の余地が残っていると思いますし、もっと彼女らの姿を見ていたいと思っています。
競争に全てを捧げ、美しく咲き誇るウマ娘の蹄跡を観に行ってはいかがでしょうか。
長い記事になりましたが、読んでいただけたのなら幸いです。
ありがとうございました。
※追記
ダンツフレームが主人公になるのは、史実としてもうちょい先なので復活劇には入っていません。
でもデザインと喋り方はめっちゃ好きです。おすすめです。オッチャホイ食べたくなります。
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