沼静寂
まだ私は。生きる意欲がなくなった訳じゃない。泣いたり笑ったりはしなくなったけど、こころはあって。不安、安心。色は濃淡をさらさらとうつろう灰色。温度は熱くも冷たくもない、中間のあたりを行ったり来たりしている。このちょうど良い心地良さがすきなのだ。だからなんていうのだろう。きっと私は死ぬまでは、この温い温度にひたっているのかな、なんて今は思っているのです。私はこういった言葉をぼんやりと、頭のなかでは考えたまま、実際には声にすることもなく、というかできないのだが、それでもこころははたらいていたので、頭上の土の上に立って私のことを、正確には私の沈められた大きな沼の水面をながめている人に念波で送った。
その人は水面を震わせた。
といってもこの、微弱な振動。土の上にいたころの私じゃ気づかなかったと思う。ぽつり、って感じの……小さな振動。
それだって干渉で。
土の上では人が、本当にたくさんすることで。
だから生きるっていうのは大変だと思ったこともあった。
でも今は。
私はひっそりしずかに沈んでいる。
やがてとん、とんと、小さな振動はとおざかっていった。
おとずれる静寂。
やすらいだこころというのはおわらない不安のなかにあって。
ああ。こういうときに終わるのがいいなって思うのでした。