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サウンドオンリー

 つなぎっぱなしにしているボイスチャットのことも半分くらいわすれてぼーっとネットをみてた。  AM1:11、話すことがなんとなくおちついて、いつもだったらねよかーってなるんだけど、まだちょっと早いというか、少しものたりない感じ。なんか空気? があって、そう……だから、ネットで面白い記事とかあるかもってポチポチしてたらおもったより間があいてて。会話と会話の間隙っていうにはもう、ちょっと広い。静かの海、って感じ。  あ、なんか今の詩的っぽくない? って思って、意識をはっとしたとき

    • 「樹々の日々」エピローグ

       あれから何年が経っただろう。  私はふと、懐かしいあの日々を思い返していた。   瑠璃珠師として歩み始めた頃のこと。  小さな愛しい生命と出逢った。  短くも楽しかった日々。  手首に着けた透明の数珠をそっと撫でる。  私があの世界から持ち帰った唯一のものだった。  ぽろるの、瑠璃珠の結晶。  彼のつくった世界のなかで私は遊んだ。  丘を歩き、木陰に休み、波に戯れた。  どこにいてもずっとぽろると一緒だった。  そのうちに、気づいたのだった。  瑠璃珠とは、いったいどう

      • 「樹々の日々」第4話

         季節は巡りゆく。  春の足音を感じる三月。  私の日々は少し変わった。  きっかけとなったのはひかりだった。  私は一週間に一度は、ぽろるを連れて商店街まで出掛けるようになった。  それは、以前だと時間の無駄とも思えるような行動だった。  瑠璃珠の研究、自分自身の特性を生かすためには、ひたすら内面と向き合う必要があると考えていた。実際、雑事を切り捨てて篭った一年の成果があったことも事実だった。  しかし、このところどうも行き詰まってしまっていた。  ちょっとした気分転換のつ

        • 「樹々の日々」第3話

           今さらだけど、私は師匠以外の協会の人と顔を合わせるのは初めてだった。 「業務時間内に終わらせたいので用件をお伝えします。報告を受け該当瑠璃珠の現地確認にまいりました。調査係の篝基埜と申します。資料にあった気温等の条件はこのとおり、私の方で整えてあります。では早速ですが作成をお願いします」  そして早くもろくでもない気がしていたのだったが。  植木鉢を持って突っ立っている私の後ろから、ぽろるが服の裾をちょいちょいと引っ張る。 (そうね、こうしていても仕方ない。さっさと済ませて

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        記事

          「樹々の日々」第2話

           両手で包むように持ったカップから顔を上げて、ぽろるは「ぷわぁ」と息をついた。  何事も一生懸命で、ちょうど今はココア(の湯気)を全力で味わっていたのだった。  まるで息の切れる寸前になんとか水面に上がることができたかのようなほっとした表情で、なんだか可笑しい。  この子が現れてから一週間、あれから特に事件もなく不思議なくらい穏やかな毎日を過ごしていた。師匠からは一度手紙が届いたが、消印はこちらの報告よりも前で、内容も未確認生命体、いわゆるUMAの一種である雪男と逢うことに成

          「樹々の日々」第2話

          「樹々の日々」第1話

           ぴしり、と空気にひびの入る音を聴いたことがある。  私の特性だった。  ことばを発することは、だから恐ろしかった。  だから、私は部屋でひとり瑠璃珠をつくっていたのだった。  ことばが、白い壁紙を打ち、空気をびりびりと震わせる。  冬の空気はぴりっと乾燥していて、割れやすい。  二月。今年こそは、と意気込んで始めた研究は未だ成果もなく、じきに冬も終わろうとしていた。  師匠に教わった瑠璃珠づくり。ひっそりとこの仕事に取り組むために格安で買った田舎の一軒家での暮らしももう一年

          「樹々の日々」第1話

          real words

           私には三つ歳の離れた妹がいた。    まったくの凡人である私とは何一つ重ならない存在だった。    ジュジュという名前。細くて小さなシルエット。思い出せるほどの記憶はほとんどない。    ただ、製造者が同じという紐付けにすぎない関係。    だけど私は彼女を特別に思っている。  そう、ずっと。  もういなくなってからずいぶん経つのに、今もこうして思いだしている。  幼いジュジュは私の前に座っていて、それはお人形のように可愛かった。私は新しい玩具を与えられたかのよ

          real words

          unreal heart

           AD2037/3/21 「おいポンコツ!」思わず暴言が飛びだす。アンリカは声の元へととんでくる。 「ごめんなさいおかあさん」 「おかあさんじゃないっつってんだろっ、つーかこれ! 人の食いもんじゃねえんだよ」 「ええっ」 「なに意外そうな顔してんだよ。おらっ、口あけろ」マナはぐいっとアンリカのほおを指ではさんで、口のなかに皿のうえのものをざざーっと流し込んでいく。 「ふぁふぁっ」それらは、エネルギー195kcal、タンパク質8,02g、脂質9,12g、炭水化物22,57g、ビ

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          人間じゃなくてもいい

          「私は人間でしょうか……」  目の前の人は私のことばを、私の口腔内より発せられた空気の振動を、聴覚を通して感知したことによって得た音としての情報をその明晰な頭脳のはたらきをもってして母国語である言語、しかも単純な単語の組み合わせに過ぎない内容として完全に理解しているだろうに、壁のように静止して。  たっぷり十秒。  五秒ほどは瞳までつむって、時間を無駄にした。  私はあたまのなかでその人を一回×してしまってからもう、罪の意識に後悔をしている。  だがお前も悪い。早く返事をしろ

          人間じゃなくてもいい

          沼静寂

           まだ私は。生きる意欲がなくなった訳じゃない。泣いたり笑ったりはしなくなったけど、こころはあって。不安、安心。色は濃淡をさらさらとうつろう灰色。温度は熱くも冷たくもない、中間のあたりを行ったり来たりしている。このちょうど良い心地良さがすきなのだ。だからなんていうのだろう。きっと私は死ぬまでは、この温い温度にひたっているのかな、なんて今は思っているのです。私はこういった言葉をぼんやりと、頭のなかでは考えたまま、実際には声にすることもなく、というかできないのだが、それでもこころは

          沼静寂

          エマナ様のこと

           私が彼女に出会ったのは幼いころで、ただの偶然だった。  その日は朝から父も母も忙しく働いていて、退屈していた私は外に出て探検することを思いついた。初めは家のそばの畑で働く人々を眺めたり、流れる小川に沿って葉を流したりしていたのだがいつの間にか村の外にいた。確か以前祖父に連れられて行ったことがあったのでそちらへと向かったのだと思う。南に広がる森の中に入った私は木々の中を歩きながら野花や小さな果実を拾い集めて遊んでいた。帰り道がわからないことに気がついたのはもう日が沈みかけ、周

          エマナ様のこと

          巡礼

           ここが聖地なら、私は救済されただろうか。  いや、そもそも巡礼というものの目的は救済ではなく、聖地とは通過点に過ぎないのだろう。言ってしまえば一個の人間の生から死に至る全てが一つの巡礼なのかもしれない。だとすれば聖地とは死、霊界ということか。私は頷いた。仕方ない。人は皆、不安なのだ。彼らもまた巡礼の途中であり、偶像に縋ることによってその疲労を癒しているのだろう。私は正面にそびえる、十年前に日本を救った「光人」の等身大像を仰ぎ見た。彼は何者だったのか。あの出来事はなんだったの

          短い夢を見ていたのだと

           短い夢を見ていたのだと、ふと気づく。つまり、そこが現実だと私は認識した。  かつて何度も経験したことだ。  はっきりとした認識。  鋭い白熱光の刺激が視覚を苛む。無理に瞼を開けてみると、正面に広がる死に果てた大地。まばらに立つ土壁は墓標か。風に乗って砂埃が舞い、すべてが土色だ。荒く細かい砂粒と乾いた熱風が全身に吹き付ける。砂にまみれて口も鼻も灼けている。爽やかな目覚めとは言い難い。  不意にむき出しの背筋の上を、細くうねるものが這い回るのを感じた。記憶の底から生じた原初の嫌

          短い夢を見ていたのだと

          あかんこ

          「あかんこちゃんはしょうがないなあ」  そう、たしか中学の体育の時間だった。創作ダンスのチームになった私たち六人のリーダー加帆ちゃんが命名したのだった。赤田寛子、略して赤寛子。私たちの前で盛大にずっこけていた彼女は、踏みつけて転んだ靴紐をもたもたと結びながら「でへへ……」と笑った。  あれは呪いのことばだったのだろうか。  AM3:04  コーヒーを淹れて一息つきつつSNSを覗くと、タイムラインに浮かんだ彼女のアイコン。くらげのようなへにゃっとしたイラストが言っている。  

          あかんこ

          空に色を.5

          「えっ……ほんとうにこれ、青海くんが描いたんですか」つくしさんがまゆを八の字にして言う。翠が久しぶりに仕上げた作品は兄と妹の後ろ姿だった。ただすなおに線を引いたその一作はスケッチという他ないような他愛のないものだったが翠の今の心のありさまをよくあらわしているものだった。  翠はこの世界のことを何も知らない。よく見ることだ。広い世界のまずはその目の前を。  ここ最近の翠は今までにましてぼうっとしているように周りから思われていたが、実際は観察しているのだった。そうすれば、昨日と今

          空に色を.5

          空に色を.1

           無限にひろがる真っ白な空。無よりむしろはっきりと、その空白は胸を、頭を、ぼくのすべてを圧しつぶしていく。ぼくはそこにいることさえ許されない。  音も色も無く、ぼくは消えていく。  さみしくて、だけどその清潔さが心地よかった。  胸部に圧迫感。青海翠はつぶされていなかった。それは夢の出来事だと気づく。  現実は、目を開ける。  胸の上に乗った白猫の雪獅子が翠を見おろして睨んでいる。朝ごはんの時間だった。  まったく、おばさんを起こせば良いのにと思いながらはらいのける。  と

          空に色を.1