ファミレス経営言い張る前に、調味料をマトモに買わせてくれよ。「マレニア国の冒険酒場」
要は、RPGパートで素材を集め、経営シミュレーションパートではレシピを完コピして料理を作り続ける。いたってシンプルなゲーム性だ。
普通の人が日常的に食事をできる価格帯、前菜からデザートまでフルコースを楽しめる価格帯を目標に、主人公と愉快な仲間たちは食材もとめて様々なダンジョンに乗り込む。嗚呼なつかしや、しまぶーのトリコよろしく。
原材料の調達から流通、販売までを自分たちで一括実施する。バーチカル・マーチャンダイジング(MD)ですよお、これは! と覚えたての言葉で吠えてみる。
これが実社会なら、野菜の出来上がりのバラつきに頭悩ませたり、天候や海流や病疫など不安定要素が大きかったり、素材の調達は困苦が伴う物だが、本作はそういった要素差っ引いて、サクサクラクラクと、同質同価の素材を集めることが出来る。楽ちんだ。
特徴的なのは、調味料ひとつから手作りできる点だろう。というか、手作りから始めざるを得ない。
たとえば、マヨネーズは、卵黄、油、酢、塩を混ぜるだけの簡単な食品。しかし、この入手すらかなりの時間を要する。主人公がレシピが無いとゆで卵ひとつ作れないマニュアル人間な上、売店は初期は卵一つ販売しない&やっと売り出そうがぼったくり価格で足元を見る、流通というものから取り残された寒村。タダで手に入るは井戸水くらいなもの。
自然、主人公と愉快な仲間たちは、油や卵といった、日常だろうが異世界に転生しようが、そこらにごろごろ転がってそうな食材求めて、イノチをかけてダンジョンに潜るハメになるのだ。
たかがアワビのために売れっ子小説家がイノチガケの密漁に挑むというのも奇妙なハナシだが、たかがマヨネーズひとつ作るためのイノチガケの冒険というのも、よくよく考えるとヘンなはなし。
ある程度プレイすると気づくのは、利鞘が低い、という外食産業あるある…の事実。原価コストに関わらず、自由な値付けを料理に大して行えないので、無理に背伸びして高価格帯商品を作るとはけないまま、在庫だけが積もっていく。なお、作り置きでも出来立て同等の価格で販売できる模様。
人件費は無視できるが、これ含めると壮絶な赤字体質になること、想像に固くない。長時間労働で人間関係は最悪、経営もギリギリという暗い側面はファンタジーでカバーだ?
鮮度の高い状態で客に提供するためのシステムとして日本の外食チェーンが農業事業や開発輸入に注力するのと同様に、作った料理を腹に詰め込んで経験値を得てレベル上げ→鍛えた力で高難易度のダンジョンに潜る→希少な食材を得る→高価値の食材でさらなるレベル上げを図る→以降繰り返しな「なんだ、トリコじゃん。」なゲームプレイが本作の肝。
とはいえ、RPGとしても結局、同じことと繰り返しになるのはやや致命的。戦闘もオート可、割に優秀なAIが済ましてくれるゆえ、「マップ内移動」だけがめんどくさくなってくる仕様。
なんちゃってレストランシミュレーションパートも「一日当たりの金額および累計において一定以上の売上ノルマを果たす」→「次のステップに進む」→ノルマが上がる→達成すると次のステップに進む→の繰り返し。
要は慣れてくるとルーティンワーク、単調になりやすい仕様。これを、良い暇つぶしであるというか、根気がないと飽きやすいゲームだというか。
テキストのレベル感は、ありていにいえば、異世界グルメもの相応。提示されるのは相応の説明と感想ばかりで、良くも悪くもアクがない。劇中主人公が作った料理に対する周囲の反応は、「こんな肉は食べたことがない。この黒いソースは毒じゃないのか――。」という初めてデミグラスソースのかかったハンバーグを口にしたサイゼリヤ創業者山口芳生の様な感慨も、寺沢大介オーバーリアクションも、美味しんぼ的な蘊蓄も、無い。つまりは、食通がいない貧相な世界なのだ。寒村だしな。
1000種はくだらないレシピ紹介には、必ず一文が添えられているのだが、ここで、あの手この手と趣向を変えて凝らしているのには、「担当者お疲れ様!」との賛辞を贈りたい。…いや、よくみるとダジャレばかりだな。もすこし頑張れよ感。
結論。前菜からデザートまでのフルコースで、多くの人に気軽においしく多国籍の料理を味わってもらう、サイゼリヤばりの主人公の便利屋ぶりは、本物そのもの。
ただし、値付け、ブランディング、生産性などレストラン経営に求められる諸々の要素は、どだい高度なシミュレーションゲームではない本作では困難ゆえ、ヴィーガン一本、和食オンリーというように、自ら縛りをかけて、自分なりの価値観を反映したレストランをめざさないと、本作、自由すぎるが故に単調になりすぐ飽きやすい。
ダンジョン飯の様に世界観の緻密さが好きな人には淡白だが、working!の様に隙間を想像で埋めるのが好きな人は、ハマるかもしれない。
そんなゲームだ。