「俺たち」そのものの寅さん。それが森崎東監督の第3作「男はつらいよ フーテンの寅」
「30年間の積み重ね」っていうのは、そうそう真似できないものと思う。
全48作、総観客動員数は8000万人弱。
同じ役者が同じ役名を演じ続けた30年。
役者が道を歩いていて、そう呼ばれるくらい定着したキャラクター。
『一本の長い 、長い映画を何十年も掛けて撮っている 』
と主演を演じた役者が、云ったような、
じっくり腰を据えて映画を撮ることが出来た時代だから叶った僥倖。
何かといえば「男はつらいよ」のことである。
なにせ48作もあるものだから、その初期と後期と間でも作風の違いがある。
さらに、山田洋次ではない、森崎東が監督を務めた
第3作「フーテンの寅」は、他47作と違う味がある。それを紹介したい。
正直、好みは分かれると思う。
柴又に帰って来た寅さんを待ち受けていたのは、見合い話だった。相手は川千屋の仲居・駒子(春川ますみ)。彼女は寅さんの昔なじみで、亭主持ちということで、大騒動に。それから暫くして、竜造とつね夫婦が、三重県の湯の山温泉へ旅行に行くと、なんと旅館で寅さんが番頭をしていた。旅館の美人女将・志津(新珠三千代)に一目惚れして、居着いてしまったという・・・
松竹公式サイトより引用
監督が変わったと言っても
寅さんが発する冒頭の口上、きびきびした動き、ギャグはおなじみだ。
では何が変わっているのか。「濃い」のだ。
そもそも一悶着あって柴又から去ろうとするシーンからして濃い。
寅さんは「アバヨ!」とカッコつけて立ち去ろうとするのだが
そのそばから、コケるのだ。
そして、さくらから、「おにいちゃん、これから寒くなるわよ、素足はきついわよ」と忠告される始末。
酒に酔った勢いで「こんな女性と結婚したい!」と、とらやの面々にぶつければ
「そんな女、日本のどこ探したっていないよ」とにバカにされる。
湯の山旅館に住み込みで働くのだが、ここでの待遇をとらやでの扱いと比較し、殊あるごとにとらやの叔父叔母をバカにする。どうせここには居まいと思って。
そこに「偶々」旅行に出てきたふたりと出っくわす。案の定、とらやの叔父叔母がバカにする。
ええかっこしいで、女性に対する理想像が高く、余計な一言が多い。
まさに現代を生きる「俺たち」そのものなのだ。
もちろん、寅さんもただカッコ悪いだけで終わるはずがない。
人のために、あえて嫌われ者を買って出る所など、
まさに「皆がイメージする」寅さんの見せ場だろう。
「貧乏人の一番辛いところはよ、金持ちに札束で頰ひっぱたかれる時よ。」
の台詞が、泣かせる。
徹底的にコケにされ、笑い者にされる、
どこか「俺たち」に似通ってるからこそ、「共感ができない」愚か者。
見てて笑えるどころか、辛い。しかし確かに骨太で、力強い。
そして、ここぞというときには、啖呵を切れる。
他とは一種変わった寅さんで、見終えた最後には近しく憧れる寅さんなのだ。
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