「ローマ人の言葉を知っていても、死んだローマ人とは話せませんよ、センセ!」_"S.W.A.L.K. "(1971)
子供たちの気取らないナチュラルな姿を写しつつ、エモーショナルな瞬間を切り取り、なぜか日本では本国と違いヒットした1971年のイギリス映画「小さな恋のメロディ(原題:S.W.A.L.K.または MELODY)」より。
舞台はロンドン東部の下町にある、公立小学校。甘えん坊でいたずら小僧のダニエル(マーク・レスター)が、ガキ大将のオーンショー(ジャック・ワイルド)と友情を深めるのと同時進行で、ちょっとおませな女の子メロディ(トレイシー・ハイド)を好きになり、二人はついに将来を誓う。そこから、周囲の大人たちをも巻き込んで、ちょっとした騒ぎが起きるのだが…。
こう書くと、きわめてピュアなラブストーリーだが。そこはコドモが主役。物語の大半は悪ガキたちのがっこうぐらしと放課後のいたずら合戦である。他方で、女の子たちはみんなおませ。十歳前後の女の子同士の会話に「キス」という単語が出てくるのに、初見の方は驚くと同時に、リアルな会話だな、と腑に落ちることだろう。(さりげなく、そこは移民国家のイギリス:黒人の子も同じ画面に収まっているのがミソだ。)
半分はわんぱく旋風の映画故、二人だけの世界にいつしか入ってしまっているダニエルとメロディはもちろん、三角関係にもなれず、この二人から置いてけぼりにされる、ちょっと不良っぽい、つまりはいたずらの中心人物であるオーンショーも、これはこれで、また魅力的な少年だ。
これからはご覧になる方は、大人たちの会話をぜひ聞いてほしい。さりげなく子供には無関心で、隙あれば自分語りの人間ばかりだ。
なまじっか悪知恵が回るため、そんな大人たちを論破していくオーンショーの語りもまた、おもしろく痛快と言えるだろう。
以下、ラテン語の先生から呼び出されたところ、とっさにこれを切り抜ける際の会話から引用。「silly out-of-date language」だと、ラテン語を学ぶことの無意味さをユーモラスに表現した、痛快なシーンだ。
大人すら自分の思うとおりに振り回すオーンショー。自分よりアッパークラスの出自の、どこか世間ずれしたダニエルに対しては、身分違いの負い目もあるのか?大人っぽい知識を一生懸命ひけらかして、背伸びして見せる姿が、かわいらしく、すこしかなしい。
友人として大好きなダニエルが、自分との友情よりも異性との恋愛を優先させるのに対して、頬を膨らませるのも、またかわいらしいところといえるだろう。
それでも友情が壊れないのも、また、恋愛と友情の境界線があいまいな、少年少女期らしいところといえるだろう。
さて、クライマックスは、予備知識で皆さんご存じの通り、クラスメート全員で学校を抜け出してダニエルとメロディの〝結婚式〟を企てるのだ。
当然ながら教員やダニエルの母親までが駆けつけてくるのだが、子供たちは徹底抗戦し、大乱闘。ダニエルのためならと、もちろん張り切るオーンショー。
ついには手製爆弾が投擲され、 アイスクリームバンが爆発炎上。大人たちが腰を抜かしている間に、CSN& Yの『ティーチ・ユア・チルドレン』の曲が流れる中、ダニエルとメロディがトロッコに乗って、未来へ向かって駆けて行くのだった。
総じて、全体に漂うしっとりとした感触、散文的な構成は「ハロルドとモード」のそれに近いと言える本作。胸がいっぱいになるサントラのビージーズ交えて、新しい時代の息吹を感じさせる、悪い子バンザイ!なファンタジックな快作と言えるだろう。