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タンザニア 地獄の3等列車
結論から言うと、頭から煮干しが降ってきます。
ブルンジからタンザニア最初の町キゴマに到着。
キゴマは、言ってみればタンザニアのどん詰まり。
この最果ての地からキリマンジャロなどの観光拠点アルーシャまで移動しなければならない。
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タンザニアには二つの鉄道会社があって、このルートはかの有名なタンザン鉄道でなく「セントラル」という路線。
しかしこの路線、週に2本ぐらいしか走っておらず、それもまた不定期。
キャンセルも当たり前、列車があったとしても慢性的に込み合っていることで有名。
チケットが取れるかどうかも運次第。
もちろん、故障も遅延も当たり前という、とても困った路線らしい。
とりあえあず駅まで行ってみると、ラッキーなことにその日がちょうど列車のある日だった。
が、案の定、1等と2等は売り切れていて、残すは3等のみ・・・
インドの悪夢が頭をよぎる。
列車に入った途端「入ってくるな!」と怒鳴られたインドの3等。
通路までぎっしり人で埋まって、一歩歩く度に誰かに怒鳴られ蹴飛ばされたインドの3等。
やっと見つけたわずかなスペースにバックパックを縦に置いてその上に座って一晩過ごしたインドの3等。
あれほど混んでいた3等なのに深夜に誰もいなくなり、広い車内に一人だけ取り残されて超怖かったインドの3等。
もう二度と乗るものかと固く誓ったインドの3等・・・!!!
いや、しかし今日は同行者もいる。
たった12時間の移動だ。
夜行列車だし、席さえキープできれば例え硬座でも寝ていればいい。
席さえ取れれば・・・
今度はインドや中国の席取り合戦が頭をよぎる。
列車が来たら猛ダッシュで窓から荷物を投げ入れ、自分も窓から車内にダイブ。
タッチの差で同じ席についた人と揉めてる間に、もう一つの席は別の人の座られてしまう。
ああ、この重いバックパックを抱えて争奪戦に参加できるのだろうか。
網棚の上にもシートの下にもきっと人が寝るだろう。
席を取れなかったら通路に座って、駅に着くたび出たり入ったりする人に起こされて蹴っ飛ばされて・・・
もう貧乏学生旅行じゃないし、お金を3倍出してでもいいから1等に乗せてくれ・・・
・・・お金があっても、電車がないんです。
次の列車を取ればいい?
・・・1週間先までいっぱいだったんです。なんせ週に1、2便ですから。
この町を出る手段がないんです。
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覚悟を決めて切符を買う。
ちなみにめっちゃ安い。
よく見ると、信じられないことに座席の番号らしきものが書いてある。
席があるのか?
席さえあるなら12時間なんて楽勝だ。
いや、飛行機でさえ座席番号が機能していない土地、にわかには信じがたかったが、座席はしっかり確保でき、立ち席の人もいないようだ。
・・・座席の下という下全てにパイナップルがぎゅうぎゅうに押し込まれているのが若干気になりますが。
列車は定刻通り出発。
定刻!?
8時間ディレイくらいは確保していたのに。
逆におもろくないな。
これなら余裕で移動できるな、列車にしたのはいい選択だった。
と、完全に浮かれていましたよ。
ま、そんなうまい話はないんです。
なぜって、ここは始発ですよ??
やがて日が暮れ、列車の電気が付かず、ずっと真っ暗なことが若干気になりますが。
だんだんと人が増えてきて、立ち席の人が増えてきたのも若干気になりますが。
あれ??
わし、さっきからずっとフライパン踏んでるんだけど・・・
深夜・・・
二人掛けの椅子に3人座っているのはなぜ?
わしの足の間に子供が挟まっているのはなぜ!?
4人用のボックス席に20本の足があるのはなぜだ!!??
わしの背もたれの上にも人が座っているのはなぜなんだー!!!???
列車の上とか、走ってる車のボンネットで寝そべってる人とか、列車の座席の下とか、世界ではあの手この手で移動する人を見てきたが、背もたれの上に座る人は初めてだ。
彼らの腕やら肩やらが座席に座るわしにメリメリと食込んでくる。いてぇ。
足を動かすスペースが一ミリも無いことは言うまでもない。あるあるだ。
足の間の子供の汗がジーパンにしみ込んでいくことも、洗えばいつか解決できる。ちょっと脳みそバグってきた。
いや、こんなのは、ほんのささやかなことだ。
エアコンはもちろん、深夜になっても電気は点灯されていない。
通路を見ると、積み上げた荷物の上に別のお子が2人、そして隣にはお母さんと、車内で1番よく泣く赤子。
同行していた旅人が良かれと思ってとうもろこしを2つに割ってあげたらギャン泣きされていた。いらんことすな。
向かい側には授乳しながら煮干しを食べているお母さん。
そしてなぜか、頭の上から降りそそぐ、煮干し・・・
駅に着く度、どでかいスーツケースを持った人が通路を右往左往する。
ジャイアンみたいなおばちゃんが大絶叫しながら場外乱闘が始まり、煮干しが降り注ぐ。
子供も泣き叫び、赤子が人の上をたすきリレーされていく。
乗客が乗り込むと通路に新たな人のブロックが形成され、電車が動き出すとそれぞれがなんとなく居心地のいいポジションを見つけるらしく、ガチガチだったブロックがほんの少し緩やかになり、やがて車内は静まりかえっていく。
頭を垂れる人々。眠っているのかぐったりしているのか分からない。
それもつかの間、次の駅に停車すれば、再び同じことが繰り返される。
そんなことが延々朝まで繰り返され、席のあるわしでさえも生気を奪われてしまっていた。
暑かった、足元のお子の汗がジーンズに染み込み続けた。
お子はすっかりわしの膝が気に入ったらしく、堂々と頭をもたれてかけて眠っている。
ええよ、それであんたが休まるのなら・・・
水分補給にジュースを飲もうとしたら賞味期限が切れていた。
この惨事を前に、賞味期限が数週間過ぎていることなど本当にどうでもいいと感じてしまう。
結局夕方6時に乗車して、トイレまで歩いてたどり着くことができたのは10時間後だった。
トイレに行ったら、トイレの中まで荷物でいっぱいだった。
この荷物、わしの明日の晩御飯でないことを祈る。