耳を澄ます
小さめの枕を 首筋まで深く差しこみ
上目遣いに 白い壁を見つめる
ある日のためらいに 立ちもどろうとする
無意識のうちに 顔を横にふり
無意識のうちに 目をほそめ また見開く
大切な人の言葉をかき分けて 先へ進もうとする
何もはじまらない 何もおわらない
膝小僧を胸へ引きよせる 痛みはどこに走るのか
骨盤を左右にひねる 引きつった張りはどこに走るのか
乳母車にゆられた記憶をたどる コロッケのにおい 遠い汽笛
残すものばかり増えて 創りだす手がかりは見えない
こめかみのあたりに 意識を集めると
むかしが映像になり 音になり においになる
こめかみのあたりに 意識を集めると
体のすみずみに 行きわたる響きが 言葉に換わる
いま 上目遣いに白い壁を見つめていると
「干からびる」という言葉が降りてきた