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あこがれ
午前二時過ぎだった。ぼくは眠れないことに焦っていた。
今日の午後からは会議があって、リハビリの先生が設定した時間よりも大幅に長く車いすに乗らなければならないというのに、昨日は朝から眠たくて眠たくて、朝食と昼食をのぞけば、時計代わりに聴いていたラジオの競馬中継がメインレースを実況しているときも、まだウトウトしていた。
目覚めだけはすこぶる良好で、窓の外のお年寄りのあいさつを聞きながら壁かけ時計を見ると、六時三十分だった。
泊まりの宅建ヘルパーさんを起こして、オシッコを済ませた。
それから、彼の得意の時事ネタの価値観のすれ違いにちょっとだけ反撃して、コロナの猛威で仕事のスケジュールが空いたからと、昼のヘルパーさんとの引継ぎの九時まで「残れますよ」との言葉をスルーして、一人で過ごしたかったから、いつも通り八時に帰っていただくようにお願いした。
予定の時刻に、昼のヘルパーさんが玄関ドアを開けた。
台所まわりの後片づけは、日曜のヘルパーさんのいつもの仕事だった。
ぼくは彼がすぐに部屋へ入って来ないことを予測して、寝たふりをすることにした。別に意味はなかった。
朝食は冷やしトマトおでんと、納豆と、半丁分の冷奴だった。
食欲がもうひとつだったから、白ごはんはなしにした。
食後、なにもやる気が起こらなかったかと思うと、すぐに寝入ってしまった。
昼前になって、「これではいけない」と気合をいれて近所のスーパーまで、夕食までふくめたお弁当を買い出しに行った。
まったくマンネリで、ワンコイン十貫入りのおトクなにぎり寿司セットと茶碗蒸し、これ昼食用。
税抜き五七八円のサーロインステーキ重、これ夕食用。
にぎり寿司と茶碗蒸しを平らげるほどでもなくすませると、再び意識がなくなって、最初のメインレースの実況場面につながる。
一行書き忘れていたけれど、朝食から昼前までも熟睡していた。
さすがに、意を決してnoteへの投稿を書きはじめた。
ちょうど一本書き終わったところで、タイミングよく泊まりのヘルパーさんとのバトンタッチになった。
汗まみれになって書き終えたので、清拭(体を拭くこと)からトイレ(大)を済ませ、夕食はぼくの目標の時刻よりも一時間ほど過ぎて、お茶碗やお皿の上は空っぽになった。
二日後の朝の訪問入浴までに室内干しの洗濯物が片づけられていないと浴槽を配置するスペースがないから、ぼくの視界にTシャツやベッドのシーツが竿にかけられていなければならなかった。
すくなくとも眠りにつくまでには。
洗濯物が干し終わると、十時近くになっていた。
強引に洗濯を割りこませたので、食器洗いは後まわしになった。
さらに、明日の会議に向けて早く眠りたかった。
でも、腰痛に悩まされて以来の日課になっている夜のストレッチとほぐしを念入りにしておかないと、話しあいどころではなくなることが目に見えていた。そうなると、もう一時間は必要になる。
とうとう、食器洗いは食べ終わってから二時間近く過ぎてからになってしまった。
台所でヘルパーさんが動いている間、YouTubeにアップされたお気に入りのラジオ番組を聴いていると、当然のことながら意識が冴えわたってきた。
寝る前のトイレと水分補給を済ませても、延々と暗がりの天井を眺めるばかりだった。
どうしても眠れない時にくり出す必殺技の「脳内ひとり将棋」を試すうちに、ようやく明け方の夢にたどり着いた。
養護学校時代の友だちと、みんなで露天風呂に入っていた。
この投稿で、昨日、昼夜逆転をしてしまった一日の流れを書こうと思った。
読んでくださる人たちには迷惑かもしれないけれど、ほとんど感情を入れずに最後まで通したかった。
ありふれた日常を淡々と書き残すことは、投稿をはじめてからずっと抱いていたぼくのあこがれだった。
今日、ようやく願いが果たせた。