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全ての県にインターナショナルスクールを③【訪問レポート】広島叡智学園高等学校(後編)

県立だけど県外からも行ける高校、広島県立 HiROSHIMA GLOBAL ACADEMY広島叡智学園高等学校の先生方のがんばりと本音

私の「インターナショナルスクール=私立」という思い込みを壊してくれた広島県立広島叡智高等学校。前編では学校設立の経緯と「ほとんどインターナショナルスクール」な高校生活についてご紹介しました。後編では先生方の日頃の奮闘と子どもたちの日常をお伝えします。(取材は2023年1月)

図書館は英語と日本語の本が並ぶ。biology classのスケルトン模型も常設展示。

ー全寮制の中高一貫校に全国・世界から生徒が集まっているそうですが、入試・寮生活や費用・高校卒業後の進路について聞かせてください

日本MYPで学ぶ中学校には広島県内外の日本人が40人が入学します。高校からは20人が追加で入学となりますが、主に外国人や海外に暮らす日本人の入学枠です。日本人の場合は海外生活5年以上という条件があるので、在外国日本人にとってはハードルが少し高いかもしれません。入試は中学入試がメインとなります。中学受験は適性検査と集団面接を行います。高校入試は9月にオンライン実施で、英語・数学・口頭試問が試験内容です。高校からの入学者は世界各国から集まりますので、オンラインでしか実現できないですね。外国人の方々は「あしなが育英会」などの団体との連携募集とフルオープン募集の2種類です。寮は中学生・高校生が混ざった異年齢・多国籍の共同生活です。個室と二人部屋の2種類があり、個人学習ができるスペースが確保されています。共有リビングでユニットメンバーとの交流が自然とできるデザインになっています。

月額授業料は公立なため、中学は0円、高校は9900円。寮費・食費等の諸費用を含めても中学が月額4.3万円、高校は6.1万円程度です。学校自体が公立であることから、生活費もかなり抑えられたものになっています。全寮制の大きな特徴は生徒のコミュニケーション能力がとても高くなることですね。複数の子どもたちが生活する寮では日々小さな問題が起きます。それを自分たちで話し合って解決していくのだから、相手の気持ちを考える能力も、話し合いで解決する能力も備わっていきます。子どもたちの進路ですが、私たちはこれまでの県立高校にはない進路を見つけてあげたいと考えています。それは全国模擬試験等で評価が決まる偏差値に合わせた大学選びではなく、「本人が興味を持つ大学・行きたい大学」に行かせてあげたいという意味です。少し残念なことは、中学入学時には入学者の6割が海外大学進学を希望するのですが、高校に進級する頃には海外進学希望者は1割程度となります。これは高校生になると中学受験を決めた小学校6年生の時とは異なるもの、例えば家庭の経済事情などがわかるようになってくるからだと思います。

ハウス(寮)はまるで北欧。学校と同じ敷地内に男女別ハウスがある。

ー生徒さんたちがこの学校を選んだ理由は?どんな生徒さんが集まってますか?
現在の高校1年生が第一期生であり、この学校で学ぶ4年目の生徒となっています。全ての子どもたちに聞いたわけではありませんが、「一期生だからこの学校を選んだ」という答えはたくさん聞きました。ファーストペンギン希望の頼もしい子どもたちですね。また合わせて日本人生徒にはインター出身者や外国籍・日本との二重国籍の生徒もいます。インター出身者は1学年に1-2人というところですが、ここに集まる日本人生徒だけでもとても多様な子どもたちが集まっていると言えますね。高校からの外国人は7か国(アメリカ・インド・ウガンダ・オーストラリア・ガーナ・フィリピン・メキシコ)からの留学生を受け入れていますが、今後はもっと多くの国からの生徒に来て欲しいと思っています。

ー教員の皆さんの日本人・外国人割合や困りごとはありますか?
教員は全員で52人で日本人(広島県採用の教員)は38人、ネイティブスピーカーの教員は14人です。日本の教員はIBやインターナショナルスクール に馴染みのない教員がほとんどでしたので立ち上げ当初はとても大変でした。今でも毎日が課題発見と解決のための対話・ミーティングで毎日が学びです。また、学校の立地の関係からも教員集めは大変でした。本校が離島にあることから交通の便、特に家族(配偶者や子供)の通勤・通学が教員採用に影響してきます。自家用車がないとフェリー通勤ができないし、また自家用車があっても、天候が悪いとフェリーが運休になり教員が学校に来られませんし、本島に行けません。そんな理由からも教員全員が島内に住めるわけではないのです。また国民性というか、日本人と外国人では仕事の仕方が異なります。外国人教員は契約書に書かれている内容をきちんと履行することを当たり前に思っているのですが、日本の学校ではこれまでの慣習があり教科を教える以外にすることがたくさんあります。なので、学校運営全体に関する業務割合が日本人教員には多めに割り振られる形になります。数字の上では52人の教員ですが、日本人38人の仕事内容は他の県立高校の業務以上のものになっていることは確かです。

応接室にて(左より主幹教諭古市吉洋氏、校長福嶋一彦氏、教頭宮本昌明氏)

ー学校運営上の今後の課題やジレンマはありますか?
中高一貫の全寮制の学校を運営する上では、寮がアキレス腱と考えています。中学生と高校生では行動が大幅に異なります。中学生の対応には高校生の5倍程のエネルギーが必要なんです。また、今はまだ外国人も7か国ですが、今後は宗教の異なる生徒も増えてくることが予想されます。生活様式だけでなく、宗教や食事、考え方など、日本人だけの学校とは大きく異なる様々な課題が出てくると考えています。私たち教員も立ち止まっている余裕がないほど、毎日新しいことに出会い、対話し、解決しています。生徒だけでなく教員も毎日が学びの学校と言えると思います。ジレンマという意味では、課題発見解決型の学びを生徒ひとりひとりに提供しているのですが、日本の大学受験制度がその学び方と合致しないという課題があります。日本の大学入試もどんどん変わってはきていますが、IBの学びをしてきた生徒が日本の大学に受け入れられるのがまだまだ困難な現状は、今後ぜひ改善していって欲しいと考えています。

自然いっぱいな大崎上島の雰囲気を損なわない木目調の体育館は光が最大限に入る仕掛けになっている。学校の前は大海原なので、空気までも清々しい。

「生徒たちは大崎上島の人たちの課題発見・解決をやりたいと思い様々な活動を頑張っていますが、実は島の人たちにはお世話になることが多く、生徒たちは多くの大人に見守られ中で成長していることを実感しています」とおっしゃる福嶋校長の言葉が印象的でした。地域に育まれ、盛り立てられているIB・英語で学ぶ公立全寮制学校。こんな学校が全ての都道府県にできたらいいのになあ、と思いながらフェリー乗り場に車を走らせました。

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