喜びすぎず悲しみすぎず
秋の或る夜、聞きたくなかった知らせを受ける。
そうか、悲しい。
眠れたのか眠れなかったのか
よく分からない目覚めの朝。
顔を水で濡らして拭きながら
鏡に映る私の顔は
血の気などなく、ただ白い。
会社の健康診断では
毎度貧血を注意されているから
大抵白いんだ、けども
今朝は尚更か。
そんな顔に
粉を叩き、
唇に紅を引く。
さっきとは別の
体温の上がったような顔をした自分と
鏡越しに
しばし目を合わす。
うん、これで今日も
人に笑顔を向けられる。
ものの三日後、
聞きたくなかった例の話の新たな展開を耳にする。
そっか、良かった。
そっと思って
すっと寝る支度をする。
これが10代の頃だったら、嬉しさで
眠れなかったかも。
そんな時代もあったかも。
翌朝、目覚め
ただ変わらず。
顔を洗い、
粉を叩き、唇を紅に。
自分の目をじっと見る。
三日前に家を出る時と同じ顔。
これで良い。
悲しいことも、嬉しいことも、
仕事に向かうときには
そうっと置いて
悲しみすぎるな、喜びすぎるな。
人に向けられる明るい顔と、
人を安心させられる落ち着いた顔と、
それだけもって行きなさい。
それも貴女の仕事のうち。
その仕事を選び、その仕事に選んでもらっているうちは。