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【特別対談】岸本千佳×宇野常寛 京都の街から〈住み方〉を考える――人と建物の新しい関係(前編)

京都を拠点に活動する 「不動産プランナー」であり、『もし京都が東京だったらマップ』の著者でもある岸本千佳さん。人と建物の関係を結び直す彼女のプロデュース業は、建築と不動産の間の壁を超えたところに生まれました。岸本さんが大きな影響を受けた不動産的なアプローチの先駆け「東京R不動産」の衝撃とは? そして、リノベーション第一世代と第二世代の違いとは? 岸本さんと宇野常寛が「住」のこれからについて考えます。(構成:友光だんご)

クリエイティブな発想が必要とされない不動産業界

宇野 岸本さんは「不動産プランナー」という肩書きで活動されていますが、具体的にどういったお仕事なのでしょうか?

岸本 簡単にいうと「建物をプロデュースする仕事」です。まず、不動産の持ち主から相談を受けて、建物の使い方を提案します。提案が通ったら、設計や工事担当の人たちとチームを組んでリノベーションを行い、完成後の入居者を見つけて運営していく……というのが一連の流れです。この全てを一貫して一人で行っています。

宇野 僕は岸本さんの著書『もし京都が東京だったらマップ』で「不動産プランナー」という仕事があることを初めて知って、こういった仕事がなぜ今までなかったんだろうと思ったんですよ。世の中がもっと便利に、かつ面白くなることは間違いないのに。

▲『もし京都が東京だったらマップ

岸本 業界全体の問題として、「不動産」と「建築」の関係があまり良くなかったということが挙げられます。これまで不動産では、クリエイティブな発想は無いものとされてきたし、必要とされてもきませんでした。その一方で、建築にはクリエイティブなイメージがありますが、一般人にとっては少し敷居の高い世界だった思うんです。家を建てる際に設計士や建築家にお願いするのは、一部の限られた層の人ですよね。こうした距離感は業界内にもあって、私が大学で建築を学んでいたときも、先生が不動産業界を見下したように言う風潮がありました。

宇野 「不動産」の人たちは坪面積あたりの収益には関心があるけど、そこから生まれる文化的なものには関心がない。かといって「建築」の人たちはその状況を軽蔑するばかりで、建てたあとの運用にはタッチしない、ということですね。

岸本 そうなんです。でも、15年くらい前に馬場正尊さんの「東京R不動産」をきっかけに、不動産と建築の間をつなごうとする動きがやっと現れ始めたんです。

「東京R不動産」の衝撃

宇野 東京R不動産が出てくる以前は、住み方のレベルで文化的な表現をしたいと思っても、賃貸では無理でしたよね。面白い建物に住んでみたくても、家を買う、あるいはオーダーするといった建築的な選択肢しかなかった。しかし、持ち家だと今度は住み替えが難しくなってしまう。「住まう」ことを楽しむためには、不動産的なアプローチが必要なんです。そこに、東京R不動産が登場した。

岸本 私は当時大学生で、太田出版の『東京R不動産』を読んで知ったんです。衝撃でしたね。それまで建築の世界では、建物が完成したあとのことは重視されていなかったんです。だからこそ、「いかに住むか」に価値を置いた東京R不動産の考え方は新鮮で、自分の目指すべき方向だと思いました。それで就職活動でも、いま世の中にある仕事では一番やりたい方向に近いと考えて、不動産業界に進みました。

▲『東京R不動産

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